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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
16.新旧おやくだち合戦
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16.新旧おやくだち合戦 その14

「今日は肉料理にすべきかしらね。祥太郎さんも松子さんも肉料理が好きだから」

テーブルの上に山と積み上げられた食材をひとつひとつ確認しながら、リアル雪女ことレイカはそう独り言を口にする。

目の前にある食材は、この屋敷の冷蔵庫(しかも業務用サイズ)に入っていたものだ。

出してみて判ったが、中身の管理はろくされていなかったようで、特に生鮮食品のほとんどは干からびたり傷んだりしている。さすがに冷凍室に入っていたものは無事だったが、それでも若干霜解ているものがある。

「やっぱり、買い出しは毎日行かないとダメのようね」

食用に耐えないと判断した食材を片端からゴミ袋に投げ込んでいく。その様子は事務的だが、それでも包み紙やラップはちゃんと分別する。この屋敷には生ゴミ処理機がちゃんとあるので、そこに投げ入れるのだ。

ちなみに彼女は知るよしもないが、その生ゴミ処理機は、先々代の当主の趣味で作られた果樹園の肥料を作るために導入されたという、金持ちとは思えない経緯がある。

そして、残ったものは袖の中や懐などに手早く収めていく。それだけでも結構な量になるのだが、衣服が膨らんだりは全くしないし、彼女自身も重そうな素振りを見せない。

そのほとんどが衣服の中に納まった時。

「・・・・・・レイカ」

何者かに声をかけられ、レイカは振り向いた。見ると、SWATを思わせる格好をした、厳しい表情の女が厨房の入口に立っていた。

「あなたは、確かクレアさんよね。何か用かしら」

二人の視線がそこで交差する。

元々口数が少なく、表情も豊かでは無い二人だ。妙な沈黙が場を支配する。

「もう一度聞くわ。何か用かしら?お昼のメニューはまだ未定よ?」

耐えられなかったのか。レイカが再び口を開く。

「・・・・・・聞きたいことがある」

それにワンテンポ遅れて、クレアが重い口を開く。

「・・・・・・醍醐とは何かを、教えて欲しい」

「・・・・・・えっ?」

「・・・・・・もう一度言う。・・・・・・醍醐とは何かを、教えて欲しい」

「ダイゴ?聞きなれない言葉ね。誰から聞いたのかしら」

「・・・・・・この子」

言うなり、クレアはジャケットのダイヤルをカチカチと回しはじめる。

そして、レバーに手を掛けて、前を開いた、その瞬間。

「うわあああああああああん!」

泣き声と一緒に、何か白いものが、レイカ目掛けて飛び出してきた。

「レイカああああああああぁ、暗くて狭くて怖かったのじゃあああああああ!」

魅尾だった。レイカの首根っこに全身でしがみつき、まさに泣き喚いている。その様子はまるで、もの凄く怖いものに怯えて母親に抱きつく、幼い子供のようだ。

「よしよし、あのお姉さんに苛められたのかしら?」

「うわあぁあぁぁあぁん、いきなり閉じ込められたのじゃああああああぁ!」

この前よりさらに子供っぽくなっていないかしら、などと少々失礼なことを考えながら、レイカは泣きじゃくる魅尾を宥めに入る。

一方のクレアは、表情はそのままながらも、どうしたものかといった様子でジャケットの前をがっちゃんと閉める。

「もしかして、欲しいのってこれかしら?」

心当たりがあったのか。レイカが、どこからか銀色の小さな塊を取り出す。

それは、ベビーチーズだった。

それを見た瞬間、あれだけ泣き喚いていた魅尾がぴたりと泣き止んだ。

「お、おぉ、これじゃこれじゃ!やはりレイカは頼りになるのじゃ!」

ぱぁっ、という表現がぴったり来るような表情でそのベビーチーズをレイカの手から取り上げると、テーブルに腰掛けて包んでいる銀紙を手早く剥く。そしてぱくりと一口かじると、にんまりと笑った。

「はぁ~、おいしいのじゃ~」

実年齢はともかく外見も仕草もまるっきり子供な魅尾のそんな姿は、二人をほんわかした気分にした。

「ところで、クレアさん」

魅尾の姿を眺めながら、レイカが口を開く。

「用事は、それだけかしら」

「・・・・・・これだけ」

「そう。てっきり、喧嘩でもしにきたかと思ったのだけれど」

「・・・・・・どうして、そんなことを」

「あなたたち年長組には、私たちを目の敵にしている人がいるでしょ。年長組はその人を中心として動いているようだから」

「・・・・・・」

眉ひとつ動かさないクレアだが、内心では驚いていた。あの場にいなかったレイカが、そのことを知っている。となると、他にも色々筒抜けなのではないだろうか。

「・・・・・・何を勘違いしているのかは、知らないけれど」

だが、クレアはその程度では動じなかった。

「・・・・・・私は、金庫。専守防衛がその本質。・・・・・・先制攻撃は、不本意」

「そう。それなら、良いのだけれど」

そして、それはレイカも同じだった。

いずれも素面では感情の表現に乏しい2人。会話は非常にそっけない。

しかし、同じように攻撃的ではない同志では、争いになりようもなく。

幸せそうに2つ目のチーズの包みを開ける魅尾を、同じような目で眺めるだけだった。

どうも、作者です。

久しぶりのアップになりました。

こう言ってはなんですが、この作品の初期の「毎日のようにアップしていた」時期が懐かしいです。


しかし、書けないということは、やっぱりスランプなんですかねぇ。

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