16.新旧おやくだち合戦 その10
「んじゃ、行って来るわ」
玄関に横付けされたリムジンのドアの前に立ったメルセデスが手を軽く振る。
その目の前には、執事服を身にまとった女性が立っていた。あかりだ。
「うむ、粗相の無いように、安全運転でな」
「心配御無用。あたしが何年車やってると思ってんの?」
「その姿と意識を得たのは昨日だがな」
「あはは、それは言わないお約束でしょ」
そして、車に乗り込んでハンドルに手を掛け、さあスタートしようとしたところだ。
「もういくのかい?」
反対側から別の声がした。
そっちに顔を向けると、ライダースーツにサンバイザーをつけた女が、窓枠に片肘をついて車内を覗き込んでいた。
「何か用?」
メルセデスがその女、ヒビキに声をかける。
「別におめぇにゃ用はねぇよ、あたしが用があるのは祥太郎さんだ。でもまぁ、一応声は掛けておこうかと思ってよ」
「ふうん、そう?じゃあ、良かったら乗っていく?」
「いんや、遠慮しとくわ。あたしにもプライドってもんがあるんでね」
そう言ってすっと窓から離れるヒビキ。その足はまるで暖機運転でもするように小刻みに駆け足を始めている。
「ふうん、その2本の足で、あたしと勝負しようっての?あらかじめ言っておくけど、あたしの最高時速は230キロだからね?」
「へぇ、そりゃたいしたもんだ。でも、この日本でそんなぶっ飛ばしたら即お縄だから注意しなよ」
「忠告ありがと。まあ知ってたけど」
そしてメルセデスがエンジンに火を入れる。ぶおん、というリムジンらしからぬエンジン音が響く。
二人の視線が交差し、バチバチと火花を散らす。
「ちょっと、あかり。スタートの合図、出してくれる?いっぺん、はっきりさせなきゃいけないみたいだから」
「全く、なんでそんな安い挑発に乗るのだ、お前は」
盛り上がっている2人を傍から見ていたあかりが、軽く頭を押さえる。
と、その横に何者かが駆け寄ってきた。
それは、二人目のあかりだった。手に何かを持っている。それは、昨日も何処からか持ち出していた、火縄銃だった。
「今から空砲を撃つ。それが合図だ」
一人目のあかりがそう宣言すると同時に、2人目のあかりが片膝をついてその火縄銃を構える。
「おいおい、大丈夫なのかよ?」
火縄銃を構える二人目のあかりをチラッと見てそんなことを言いながら、ヒビキが再び暖機運転よろしく足踏みをはじめる。
「心配なら降りてもいいわよ?その時は当然、あんたの負けってことになるけど」
「そんなやる気になってんじゃぁ、逃げるわけにゃいかねぇなぁ」
二人は互いに、牽制とも挑発とも取れるやり取りを繰り広げる。
やがて。
ずどぅん!
火縄銃が、火と轟音をぶっ放した。
「ぅおらああああああああああああ!」
直後、ものすごい土煙と高らかなエンジン音。そしてヒビキの怒号が響き渡った。
土煙の中で、エンジン音と怒号がものすごい勢いで遠ざかっていく。
そして煙が晴れた時には、1台と一人の姿は跡形も無くなっていた。
「事故など起こさなければいいのだが」
音が遠ざかっていったほうを眺めながら、2人のあかりが、口をそろえてそうこぼした。
どうも、作者です。
すっごく久しぶりになりましたが、続きを投稿します。
ただ、次がいつになるかは自分でもわかりません。
何話か書けてはいるのですが、実はPCの調子が悪くて・・・・・・モノのせいにしちゃいけませんね、すいません。
これから、ぽちぽち投稿したいなと思いますので、よろしくです。