03.そして何かが動き出した その10
「あー・・・・・・ひどい目に遭った」
額に湿布を貼った鏡介が、しきりにその額をさする。そして、体の調子を見るように肩をまわす。
「だから、悪かったって言ってるじゃないか。お前男のくせにいやみったらしいぞ?」
さすがのヒビキも凹んでいる。バイクだったときに積んでいたエンジンの出力が今の姿になっても残っているようで、その馬鹿力で中に飛ばされた鏡介は、背中を壁にぶつけてしまったのだ。
「ヒビキさん、御自分の力ぐらい把握してもらわないと、こちらが困るでしょう。鏡介さんが粉々になってからでは遅いでしょう?」
テルミもちょっと冷たい目で見ている。
「今度買い物に行くときは、ヒビキさんに物を持ってもらいましょう」
「わ、分かったよ、怪我させたのは反省してる」
その一方で、鏡介は家の中をきょろきょろと見回している。
「そういや、クリンさんは?」
その鏡介の一言で、テルミとヒビキもあっと顔をあげた。
「ヒビキさん、確かあなたと一緒に、お留守番していたはずでしょう?」
「ああ、確か、風呂掃除するとか言って・・・・・・出てきてない?」
その一言と同時に、3人の視線が一斉に洗面所の半開きになったドアに集中する。
「まさか、また風呂桶の中でプカプカ浮いたまま寝ているんじゃないか?」
「・・・・・・ありうる。なんか静かすぎるし」
そして3人がそっちに向かうが。
「鏡介さん?中を見るつもりでしょうか?」
「へ?だってクリンさんこの中に」
「・・・・・・あのな、ここから先はフロだぞ?クリンがどんな格好していると思っているんだ?」
というわけで鏡介は引っ込まされ。
「じゃあ、ヒビキさんお願いしますでしょう」
「へ?なんでだよ?」
「私は電子機器、ヒビキさんほど耐水性が無いでしょう」
というわけでヒビキが洗面所に押し込まれた。
「ったく、しょうがないねぇ」
一人洗面所に残され、ヒビキは一度大きく息を吐いた。
「おーい、クリン、買出し組、が・・・・・・?」
がらりと風呂場のドアを開いた。そして、そのまま固まってしまった。
目の前に、白い背中と白いお尻が揺れている。
それが、素っ裸のクリンのそれだと気づくのに、少しかかってしまった。彼女は、なぜか風呂場の床にはいつくばって、なぜか顔を床に近づけ、なぜか首を小刻みに首を上下に動かしている。
「・・・・・・うん?」
やっとヒビキの存在に気がついたらしく、クリンが頭を上げた。そしてくるりとこちらを向く。
なぜか、クリンは舌を出していた。それも、普通ではありえないほど長い舌をだ。
「あらぁ、ヒビキひゃん。ごめんなひゃいぃ、気がつきませんでしたぁ」
その舌を、掃除機のコードのようにしゅるんと口の中に引っ込めながら、クリンが口を開く。
「な、な、何してたんだお前!?」
「あ、はいぃ、お風呂の床をぉ、きれいにしていましたぁ」
「きれいにって、お前、じゃあさっきのベロは何だよ!?」
「はいぃ、ああするとぉ、手でするより綺麗になるって分かったんですぅ」
「ああすると、って・・・・・・」
その続きはあまり聞きたくないが、ヒビキの口はそう動いていた。
「舐めるんですぅ♪」
あっけらかんと、クリンはそう答える。そこには嫌悪感も何も無い。
「お前・・・・・・どこかの妖怪じゃないんだから」
「ええぇ?おいしいんですよぉ?」
「・・・・・・うえっ」
クリンの言葉に、ヒビキは思わず口を押さえてしまう。どういう味覚をしているんだ、ヒビキは悪いと思いながらもそう思ってしまった。
それを頭から追い出すように、ヒビキは首をぶるぶるっと振る。
「そ、そんなことより、て、テルミと、鏡介が、帰ってきたからさ。一旦、出て来いよ」
「はぁい、分かりましたぁ」
クリンは、そう言ってバスタオルに手を伸ばした。
「下着は、これで、いいでしょう」
「はうぅ、ちょっと窮屈ですぅ」
「文句言うな、そのぐらい我慢しろ」
鏡介を締め出した部屋の中で、テルミとヒビキがクリンに着付けを行っている。ちなみに、男なので入れない鏡介は、その扉によりかかって、ヒビキが自分にぶつけたラジコンのゼロ戦を色々な方向から眺めている。
「それにしても、クリン。改めてみると、あんたの胸、けっこうあるねぇ」
「そうですかぁ?ヒビキさんはぁ、背があるじゃないですかぁ」
「やっぱり、フラットディスプレイだからでしょうか、お二人と比べると、私の体ってフラットでしょう?」
「そうか?別にそんなに気にするほどじゃないと思うけどな?」
「テルミさんの場合はぁ、メリハリがあるって言ったほうがいいですよぉ、ウエストも細いですしぃ」
しかし鏡介も男、扉の向こうから聞こえる会話には思わず聞き耳を立ててしまう。
「なんだかなぁ」
自分がまだ鏡だった時に将仁に言われた言葉が、なんとなく分かってしまった鏡介だった。
どうも、作者です。
今度は鏡介がハブられてます。
何度も言いますが、別に作者は鏡介が嫌いなわけでは決してありません。
次はやっと主人公たちと合流です。
乞うご期待!