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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
16.新旧おやくだち合戦
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16.新旧おやくだち合戦 その4

「将仁さん、5分ほどお時間よろしいでしょうか?」

朝飯を食べ終わるのを狙ったようなタイミングで、常盤さんがそんなことを言ってくる。

「本日、将仁さんの里親さま方をお呼びする予定となっておりますが」

「ん、ああ、そういや、そうでしたね」

俺は、返事をしながら、昨日の昼さがりのとある1シーンを思い出していた。

「親父やお袋がこの光景を見たら、どう思うかね」

自己紹介がひととおり終わってみんなでワイワイやっている時に口をついて出てきたそんな言葉。それが事の発端だった。

親父やお袋というのは西園寺家の人ではなく、俺の育ての親たちのことだ。西園寺を名乗ることを決めた以上そのうち離縁しなきゃならないんだが、そうドライに割り切れるもんじゃないし、まだ離縁の手続きをしていないから、法律上はまだちゃんと俺の親なのだ。

ちなみに、絵の人と違って2人ともちゃんと“人間として”生きている。

だが、そのセリフは特に深い意味もなく出た言葉だ。実際にどうこうしようというつもりはない。

「でしたら、明日、お二人のことをお招きしましょう」

だから、常盤さんがそう言った時、俺はその話の流れが把握できなかった。

「それは良い考えです」

あかりのその言葉に、俺はやっとその意味が判った。

「え、常盤さん、それ本気で言ってます?」

「ええ、もちろんです。将仁さんの今を知っていただく、良い機会ですから。明日は私も時間の余裕がありますし」

常盤さんは、にっこり笑ってそう言いきってくれた。

ちなみに、常盤さんは俺の知らないところで何度か俺の両親に会っていて、相続の話だとかなんだかんだの話し合いをしていたらしい。自分の知らないところで自分の行く末が勝手に決められていたのは腹が立つが、事ここに至っては文句を言ってもどうしようもないのであきらめるとして。

「親父やお袋が、擬人化のこと納得するのかね?」

今更ながら気になったのがこれだ。なにしろ、うちの連中は普通にしていれば人間にしか見えない。それがいきなり携帯電話ですとか冷蔵庫ですとか言われて、素直に聞き入れるだろうか。

「大丈夫だよ。りゅう兄ちゃんはケイたちのことすぐ判ってくれたもん」

にこにこ微笑みながらケイがそういい切ってくれる。

言われてみれば確かにそうだ。りゅう兄の性格はあの親にしてこの子ありってな感じだ。下手すりゃりゅう兄以上にあっさり受け入れやがるような気もしないでもない。

「松子様、お元気でしょうか」

「そうね。多分元気だと思うけれど。相変わらず、祥太郎さんを尻に敷いているでしょうね」

テルミとレイカの話が聞こえる。

松子というのは、育てのお袋の名前だ。うちの大型家電は、お袋の手を経て俺の元に来ているし、レイカに至っては俺がまだ実家にいた時から使われていたから、少なくともモノたちの中では一番お袋と接点がある。まあ、人の姿で遭ったことはないんだが。

・・・・・・そういえば、気にしたことはなかったが、レイカってうちのお袋に面影が似ているような気がする。

それはそれとして。祥太郎というのは育ての親父の名前だ。りゅう兄と俺に真田流兵法術を叩き込んだハゲオヤジで、どういう経緯なのか鍼灸院を経営している。

「Who is it?Masterの parentsデース?」

「ってことは、お兄ちゃんのパパとママ?」

「そう言えば、りゅう兄さんはよく顔出してくれたけど、親御さんはまだ遭ったことがないっスね」

「兄君から聞いておるぞ。父君は真田流兵法術の最高の使い手だそうだな。ぜひとも手合わせしたいものだ」

「おいおい、ケガしても知らねぇぞ。龍之介の奴より元気なんだぜ?」

りゅう兄を知っている旧真田チームはすっかりその話で盛り上がっている。

そういえば、俺も一ヶ月ぐらい両親に会ってねぇなぁ。なんてことを考える。りゅう兄がこっちに顔を出して引っ掻き回す度に思い出しはするんだが、その後に何かばたばたしているうちに忘れちまうんだよな。

「そういえば~、将仁さんって~、養子だったんですよね~」

例のでかい本を広げながら、御守がそんなことを口にする。

「へー、この人がまさっちの育ての親かぁ」

「血のつながりはねぇのに、なんか若に似てる気がしやすねぇ」

「・・・・・・一緒に住んでいれば、少しは、似てくる」

「ふむ。だが禿げる体質は似てほしくないな」

年長組(昨日、俺が変身させた擬人化たちのこと。トータルで擬人化していた時間は長いはずなのでこう呼ぶことにする)が、みんなしてその本を後ろから覗き込んではあることないこと話している。どうやら、うちの家族の写真が載っているらしい。

なんか賑やかでいいなぁ。

「あ、将仁さん。そろそろ家を出る時間です」

そんな中、常盤さんがそんなことを口にした。

時計を見るとまだ6時40分。いくらなんでも早すぎだろう。

「でもお兄ちゃん、ここって駅からずいぶん遠いよ?」

「Certainly。Hereにnearestなstationにも、carでabout one hourかかるデース!」

最寄の駅に1時間って、ここってそんな山奥なのか?あんまり気にしてなかったが。そう考えて時計を見ると、確かにあまり余裕はない。

「心配いらないって、そんなこと気にしなくてもあたしが送ってってあげるよ」

だがそこで口を挟んでくるのがいた。

パツキンのキャンギャル、メルセデスだ。

「まさっちの学校って県立扶桑第一でしょ?場所判るし、1時間もあれば余裕で送り届けてあげるわよ」

「バカなことを言うな!上官は昨日まで電車通学であったのだ。いきなりあんな長い車で行って上官を好奇の目に晒す気か!?」

すかさずシデンが文句を言って阻止しようとする。

「そういえば、常盤様。将仁さんのご苗字が真田から西園寺に変わられるというお話、学校には伝わっているのでしょうか?」

一方で、テルミが常盤さんに別の話題を切り出す。

「ええ、それは大丈夫です。いつからという期限は、将仁さんの意志を尊重したいのでまだ決めていませんが、将来的に変更するという話は通してあります」

「ねえお兄ちゃん、早くしないと遅刻しちゃうよ?」

また一方で、ケイが俺の腕をぐいぐいと引っ張る。

「ハイドゾ、将仁サン」

反対側からは紅娘がいつもの赤い水筒を差し出してくる。

「あ、将仁サン。ワタシ、今日、学校行くアルから」

「へ?なんだいきなり?」

「忘れたんスか?昨日言ったじゃないスか、クラスの人が、今日は追い込みだから紅娘に来て欲しいって言ってたって」

そういえば、お茶菓子チームが、作品の完成度を見てもらうとか言ったらしいな。委員長の真剣な顔がありありと浮かぶ。

「あぁー、そうでしたぁ」

と、今度はクリンが声を上げる。

「そういえばですねぇ。将仁さんの衣装がですねぇ、ほとんど完成したんですよぉ」

そして満面の笑みを浮かべる。

衣装、ああ、曹操のコスプレか。持ち帰っていたのをすっかり忘れていたが、一昨日のアレでも無傷で残っていたからそのまま持ってきたんだよな。

「手間がかかりそうでしたので、私も手伝いましたよ?」

「兜は私がほとんど作ったのでしょう」

負けじと、女執事と黒マントメイドが口を出す。テルミはともかく、あかりは昨日ほとんどずっと俺のそばにいたような気がするが・・・・・・あ、あかりは分身すりゃ可能か。

しかし、明日はもう学園祭か。普通なら年に一度の心躍る大イベントだから興奮するもんなんだろうが、ここ数日は拉致られたり妖怪大戦争したりといった超イベントがてんこもりだったから全然実感が無いな。

「全く、そろそろ何も無い日をのんびりすごしたいもんだよ」

まだしばらくそんな日は来ないんだろうな、と思いながら、俺は登校の準備をするために立ち上がった。

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