16.新旧おやくだち合戦 その3
「何をしているのです?」
ケイとあかりを両腕にぶら下げたまま頑張って廊下を歩いていると、不意に前のほうから声をかけられた。
見ると、なぜかドレス姿の女の人が、腰に手を当てて俺を見ている。
「!!?!?」
だがその瞬間、俺は目を疑ってしまった。
「しっ、静香様っ!?」
俺以上にびっくりしたらしいあかりが、裏返った声をあげる。
そう。今、目の前にいるのは、昨日まで絵の中にいたはずの、先代当主・西園寺静香だったからだ。その姿はあの絵のままだったので余計にわかりやすい。
ってことは、まさか、絵から出てきたのか?
「二人とも、離れなさい。将仁が嫌がっているでしょう?」
静香さん(まだ母さんと呼ぶ気にはなれない)がそう言うと、あかりはさっと離れて1歩下がる(先代の影響力は未だ健在らしい)が。
「やだもんっ!ここはケイの居場所だもんっ!」
ケイは駄々っ子みたいなことを言って離さない。
そのせいで、あかりの奴も「その手があったか!」みたいな顔をして見ているし。
どうすりゃいいんだ、と悩み始めた、その時だ。
「・・・・・・動くな」
いつのまにか、静香さんの後ろに、誰かが立っていた。立っているだけならともかく、そいつはなぜか手には拳銃を持っていて、その銃口を静香さんの頭に突きつけているのだ。
「・・・・・・貴様、何者だ」
うちの中であんな拳銃持っている奴なんてのは・・・・・・実際は何人かいるかもしれないが、少なくとも俺が知っているのは一人しかいない。我が家のSWAT(と言っても実際の強さは知らんが)、クレアだ。
これにはさすがに、静香さんもホールドアップをする。
「こ、これは、何の真似かしら、クレア」
「・・・・・・白を切るのは、お勧めしない」
そう言いながら、クレアは銃の撃鉄を上げる。
「お、おい、クレア!?何やってるんだ!?」
「やめないかっ!貴様、静香様になんという無礼なっ!?」
俺たちの声にも、クレアは耳を貸そうとしない。
「わ、わかった、ふざけすぎた、わらわが悪かったぁっ!」
静香さんが悲鳴をあげる。・・・・・・ん?わらわ?
「お、お前、まさか、魅尾か?」
我が家で自分のことを「わらわ」と言うのはあのチビしかいない。だが、見かけがあまりに違いすぎるし、なにより身長がアレの倍以上ある。
だが、なみだ目になってこくこくと頷いているところを見ると、どうやらマジらしい。狐が化けるというのは知っていたが、こうやって目の前に出てこられるとやっぱりびっくりする。
「おい、クレア。銃を下ろしてやれ。ただのいたずらだよ」
少し呆れつつクレアに言うと、クレアは眉ひとつ動かさずにその銃を下ろした。
ほうっ、という表現がぴったりな仕草で、静香さんの姿をした何かが肩を落とした、その直後。
その人が、何の前触れもなくいきなり宙返りをした。そして着地すると同時に、ぽんっ、という音と共に、そいつが煙に包まれた。
煙はすぐに散ったが、そこに静香さんの姿はあとかたもなく、そのかわりに、巫女さんみたいな服に真っ白い髪、そして狐みたいな耳に大きな尻尾を生やした、見覚えのあるチビスケが現れた。怖かったらしくなみだ目になってぺたんとしゃがみこんでいる。
どうもそれが魅尾だってことが把握できていないらしく、俺と当の本人以外はぽかんとしている。
「こんな朝っぱらから何やってんだお前は」
「ううう、うまく行ったから、脅かしてやろうと思ったのじゃ」
「そうか」
よく判らんが涙目で拗ねているような魅尾の前にしゃがむと、俺はそいつの頭に手を乗せて頭を軽く撫でた。
「ひゃ!?」
「おまえ、凄いことができるんだな」
「ん、そ、そうか?凄いか?」
「ああ、凄いよ。化けるなんてそう出来るもんじゃないもんな」
「あ、え、えへへ、わ、わらわは気狐じゃからの、このぐらい、朝飯前なのじゃ」
うん。このお狐様はわかりやすくて扱いやすいからいい。
「あー、そういえば確かにまだ朝飯前だったな」
「あ、そうなのじゃ。ではわらわは先に参るゆえ、早く来るのじゃ!」
言うなり、魅尾はくるりと身を翻すと、しっぽをぱたぱたと靡かせながら廊下を走って行った。
「あ、ケイも行くー!」
それを追いかけるように、ケイも俺の腕を離して魅尾の後を追う。
なんだか平和だなー。自然と目じりが下がるのが自分でも判る。
「そういえば、クレア」
ふと気になって、クレアに声をかける。拳銃をしまったクレアが、何事かとこっちを向く。
「お前、どうやってアレを偽者だって見抜いたんだ?」
「・・・・・・人の姿をした静香様が出てきた部屋の中に、・・・・・・絵の静香様がいた。・・・・・・静香様は、あかりと違って、分身できない」
聞いてみれば、なんてことはない話だった。そして、魅尾のやつが本当に気狐、言い換えればお稲荷さんなら、我が家の平和にもっと貢献してくれと、本人が聞いたら怒りそうなことを考えた。
「じゃ、俺たちも行くか」
「はい、将仁様」
ほったらかしにされていたあかりが返事をする。
声は出さなかったが、クレアもひとつうなづいた。