16.新旧おやくだち合戦 その1
9月29日
「将仁様」
なんか俺を呼ぶ声がする。
「将仁様、朝です。ご起床ください」
・・・・・・この声は、あかりか。
信じられないぐらいに豪華なベッドの中で毛布を被った中で、そっと腕時計のライトを点ける。
・・・・・・って、おい、まだ6時前じゃねぇか。学校が始まるまで3時間あるぞ。
というわけで、あかりの声を聞き流して二度寝することにした。
のだが。
「「将仁様、朝ですよ。もう太陽は昇ってますよ」」
あかりは、しつこく俺を起こしに掛かる。でも、声をかけてくるだけだから、無視すればこっちの勝ちだ。
「「「「将仁様、昨日までとは場所が違うことをお忘れですか?」」」」
・・・・・・なんか、声が増えてないか?
「「「「「「「はやく起床されないと、遅刻致しますよ?」」」」」」」
・・・・・・間違いない。増えてる。
「「「「「「「「「「将仁様は、皆勤賞を狙ってらっしゃるのでは?」」」」」」」」」」
「だーーーーーーーーーっ!」
思わず毛布を跳ねとばしてしまう。1人だとたいしたことのない声でも、それが増えると問題だ。それだけボリュームも大きくなるし、いろいろな方向から聞こえるようにもなる。
そして案の定。俺のベッドのまわりは、同じ顔・同じ服装・同じ髪型の、10人ぐらいのあかりに取り囲まれていた。こいつはこういう芸当ができるんだっけ。
「「「「「「「「「「おはようございます、将仁様」」」」」」」」」」
その10人のあかりが、一斉にそう言ってにっこりと微笑みかける。
うん。これが1人か、せいぜい2人だったら、いい気分になるんだろうが、10人で一斉、というのは正直いただけない。だってパニック映画でしかお目にかかれない光景だもん。
「「「「「「「「「「将仁様、顔色が優れないようですが、気分が優れないのですか?」」」」」」」」」」
うん、顔に出たらしい。でもその最大の理由はお前にあるんだけどね、とは言えない。
「と、とりあえず、1人になってくれないか?」
怖いから、とは言わなかったが、あかりは「承知しました」と言うと、俺の一番近くにいた1人だけを残してぞろぞろと部屋から出ていった。
「これで、よろしいでしょうか?」
「あ、ああ、うん」
朝からいささか刺激が強すぎる光景を見てしまったせいで、眠気は完全に吹き飛んでいた。
「それでは、本日のご予定ですが」
すると、あかりはどこからかクリップボードみたいなものを取り出して読み上げる。ってちょっと待て。今日は学校に行く以外に予定は無いはずなんだが。
「学校以外に何かあんのか?」
聞き返すと、あかりは眉をハの字にして俺を睨んだ。
「将仁様、ノリが悪いですよ?」
「へ?」
「こういう時は、当主らしく振舞えばいいんですよ」
「寝間着のままでそんなのできるわけないだろっ!」
すると今度は、あかりは破顔一笑して。
「でっ、では、お着替えいたしましょうっ、私がお手伝い致しますっ」
目をキラキラ、というよりギラギラさせ、手をわきわきさせた。なんか身の危険を感じてベッドの上であとずさってしまう。
「え、そ、だ、やめろって!自分のことは自分でやるからっ!」
「そんなの、いけません!将仁様のお世話をするのは私の役目ですから!」
あかりが鼻息を荒げてベッドの上に乗ってきた。って落ち着いている場合じゃない。
俺はベッドの上で後ろに下がった。これは怖い。怖すぎる。
そのとき。
俺の尻の下からベッドが消えた。
「うごぉ!?」
その直後、後頭部に鈍痛が走り、目の前に星が散った。
それが、ベッドから落ちて頭を打ったことに気付くまで、時間はかからなかった。
「あ、ああ、だだだ、大丈夫ですか将仁様!?」
顔を上げると、ベッドの上からあかりが身を乗り出して俺を見下ろしている。
「心配するなら、最初からこんなことをすんなよ」
俺にはそううめくしかできなかった。