15.とうとう来ました西園寺本家 その28
「遅いですわね・・・・・・」
ネグリジェを着たクローディアが、デスクに向かって何かを書いている。
日記だ。つけることを寝る前の習慣にしている彼女は、その日にあったことをすらすらと書いていく。だが、今日は彼女にとって腹が立つことがあったため、時々ペンを走らせる手が止まっては、せっかく整えた見事な金髪をかき乱している。
「クローディア様」
その彼女の耳に、ふと、聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。
ペンを置いて振り向くと、そこには、物々しい格好をした人影が立っていた。
「ナミ?こんな夜更けに何をしていますの?充電は?」
大きなゴーグルとに角のようなアンテナがついたヘッドギアで頭を覆い、軍用コートを羽織ったその姿は、クローディアにとってはよく知っている姿だ。だが同時に、「今ここにいること」に違和感を感じていた。
「申し訳ありません」
だが、その人影は、矢継ぎ早に投げかけられる質問をさえぎると、クローディアの前に膝をついて申し訳なさそうに頭を下げた。
「コンバットドール73号、望月ナミ、西園寺将仁の成敗という命令の遂行に、失敗しました」
「なんですって!?」
その報告を受けて、クローディアはがたんと椅子を跳ね飛ばすように立ち上がった、その顔はうっすらと青ざめており、ナミの言葉が悪いほうへ予想外だったことを表している。
そして、立ちくらみでも起こしたように額に手を当てると、崩れるように椅子に座り込む。
「クローディア様!?」
「・・・・・・なんということですの・・・・・・物部神道が持つ力とは、最新兵器をも超えると仰いますの・・・・・・?」
がっくりとうなだれたまま、クローディアはぶつぶつと小声で何かをつぶやく。余程ショックだったのだろう。
その姿を見て、一度は顔を上げたナミもまた頭を垂れた。
「・・・・・・私は、物部神道の力によって作られた存在と、対峙してきました」
だが、頭を下げたまま、独り言のように、ナミは口を開いて淡々と話し出した。
「実際に対峙して、実戦を経て得たデータを分析した結果、私は、それが今までのデータを覆すものだと理解しました。そして、私は、今後戦うのであれば、データの収集を優先させるべきと判断しました」
「・・・・・・それで?」
顔を向けもしなかったが、話は聞いていたらしい。クローディアは、大儀そうにそれだけ口にし、話を促す。
「物部神道の力が具体的に起こす現象、そのサンプルの入手に成功しました。今回は、それを届けるために、命令に背き戻りました」
だが、ナミの「サンプル」という言葉に、クローディアは反応を見せた。元々、西園寺の家に伝わる「物部神道」には大きな関心があった彼女だ。彼女の本当の望みは、魔法のような「物部神道」の力を手に入れ、それを好きなように行使することだったが、その一環として実際に何が出来るのかを知るのも、彼女にとっては興味があることだった。
「・・・・・・その、サンプルは、どこに」
椅子の上から少し身を乗り出し、クローディアはナミに声をかける。どんなものが見られるのか、彼女は少しながら心が躍るのを感じていた。
それ対し、ナミはゆっくりと立ち上がると、まっすぐクローディアを見つめ、こう言い切った。
「クローディア様の目の前にいます。・・・・・・この私が、サンプルです」
そして、自分の頭部を両手で掴むと、何のためらいもなく、それを上に持ち上げた。
クローディアの記憶の中では、それは頭部と一体になっていて外れないはずのもの。だが、クローディアの目の前で、頭の上半分がまるでヘッドギアか何かのように抜けると、その下から明るい銀色の髪と緑色の瞳が印象的な、クローディアとほぼ同年代の女性が現れた。
「・・・・・・あ・・・・・・」
信じられない光景に、クローディアがぽかんと口を開けて硬直する。
「物部神道の力は、無生物に人の姿を与え、擬人とするものでした。その力を受け、私は、人の体を得て参りました」
そして、クローディアの前でロングコートを脱ぐと、背中に備えられたブースターが一緒に外れる。
膝下のごつい脚部を引くと、引き締まってはいるが女性的なラインの脚が姿をあらわす。
そうして現れたナミの姿は、クローディアより少し大人びた雰囲気の、紛れも無い一人の少女の姿だった。
「・・・・・・あなた・・・・・・人間になったと言うの?」
「申し訳ありません、クローディア様・・・・・・でも、私、人間になることが、夢だったのです。機械が夢を持つなんて馬鹿げた話かもしれませんが、少なくとも私は、人間になりたかった。
そうすれば・・・・・・」
「そうすれば・・・・・・なんですの」
「・・・・・・もっと、クローディア様に近づけると、思って・・・・・・」
そして、ナミは床に両膝をつき、両手をついて、額を床にこすりつけるほどに深く下げた。
「こんな、クローディア様を裏切るようなことをしてしまい、申し訳ありません!こんな愚かな私を、お許しくださいっ!」
搾り出すように言うその姿は、二人の関係がどんなものかを象徴している。
それを見たクローディアが、すっと立ち上り、静かにナミの近くまで歩いていく。
近くで見ると、ナミは小刻みに震えていた。それはまるで、追い詰められた小動物のように見える。少なくとも、その正体がジェット戦闘機をも凌駕する軍用ロボットとはとても思えない。
ナミに、少なくともロボットの時のナミにとって、クローディアは絶対な存在だとインプットされている。歯向かうことはおろか口を出すことも許されないとして、今のナミにも記憶されていた。
「ナミ」
クローディアが声をかけると、ナミはびくっと体を振るわせる。
と、クローディアがそのナミの前で膝をついた。そして、かたかたと震えているナミの肩に、優しく、手を置いた。
「顔をお上げなさい、ナミ」
そして、さっきまでとは打って変わった優しい声をかけた。
ナミが顔を上げると、クローディアはとても穏やかな表情でナミを見ていた。
「この程度のことであなたを責めるなんて、私は、そこまで心の狭い女ではありませんわ」
「・・・・・・クローディア様ぁ」
「あなたは、それが一番良いと思ったのでしょう?もっと、自信を持ちなさい」
そして、にっこりと微笑む。
その瞬間、ナミの中の何かが弾けた。
「クローディア様あああぁぁぁぁぁ!」
そして、クローディアに飛びつくと、まるで子供のように泣き出した。
いきなり抱きつかれ、一瞬驚いたクローディアだったが、すぐに穏やかな表情に戻ると、妹でもあやすかのようにナミを抱きしめ、優しく頭を撫でた。
どうも、作者です。
第15章、西園寺本家初日編はとりあえず今回で終了です。
新しいキャラがいきなりいっぱい出てきたので作者もちょっと混乱してしまったというか旧キャラの出番が非常に少なくなってしまいました。
特に、ファンの多いクリンの出番がほとんどなかったのはめずかったかなとちょっと反省。
さて、次の連載までしばらく間が開きますが、よろしくお願いいたします。




