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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
15.とうとう来ました西園寺本家
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15.とうとう来ました西園寺本家 その25

「お前、本当にそんなことを言ったのか?」

ホールに向かう階段の上で、俺は正面のドアを眺めながら、横に立つ鏡介に声をかけた。

「正面から『人間になりたい』なんて言われたら、断れなかったんスよ」

微妙に苦い顔をしながら、鏡介が答える。

「そいつ」というのは、下校時に鏡介を襲ったらしいロボット、望月ナミのことだ。俺たちの前に現れるたびに武装を増やしていっている「そいつ」と正面から戦って勝利を収めたという鏡介も凄いが、俺は「そいつ」がこの屋敷にやってくるということに驚いた。

なにしろ、そいつは今回、俺を殺すために現れたのだ。そのために自爆までしようとした奴が来るというだけで、とんでもない話だ。

「鏡介!そんな危険因子、なぜ再生不可能になるまで破壊してこなかった!それどころか、将仁様の近くまで案内するなど、言語道断ではないか!」

「ナミ」がうちに来る、という話を鏡介から聞かされた直後、目の色を変えて部屋に飛び込んできたのは、あかりだった。あかりはこの屋敷の化身だけあって、どんな話でもすぐ聞きつけてあらわれる。特に今回は俺の身に危険が及ぶかも知れない話だから余計になのかもしれない。

だが、あかりのその逆上っぷりを見て、俺は逆に「そこまで言わなくてもいいんじゃないか」と思ってしまった。

「そう目くじら立てるなって。結局そいつは鏡介のバリアーを破れなかったんだから、最悪、鏡介の裏にいれば大丈夫だろ」

ミサイルの直撃にも耐えるバリアーだなんて鏡介はどんだけ強いんだ、なんて話は脇に置いといて。

「それに、人間になりたがるロボットなんて、見てみたいじゃないか」

というのが正直な俺の気持ちだ。そんなのはマンガかアニメかSFでしか見たことがない。

うちのモノたちは全員が無機物から成った連中だが、その際に相手の意見なんぞ聞いているわけがない(御守は例外中の例外)ので、自分から人間になりたいと主張する奴ははじめてなのだ。

そのことを話すと、あかりはちょっと不満げながらも納得してくれた。

「ただし条件があります。ソレと面会するのは、屋敷の中にすること。屋敷の中であれば私のテリトリー、機械人形ごときの好きにはさせません」

なんか最初からケンカ腰だ。鏡介を俺だと思って襲った、その時点であかりはそいつを敵だと決めてしまったらしい。

そして、あかりがみんなに一斉にそのことをふれ回ったため、うちのモノ総出で、正面玄関ホールで出迎えることになってしまった。

この屋敷は、さっきはわからなかったのだが、正面玄関があるホールは2階まで吹き抜けになっていて、1階と2階を繋ぐ階段が正面玄関の真正面にある。そして天井からはきらびやかなシャンデリアが下がっていて、正直言ってどっかの映画セットみたいで俺が住むには似合わない感じだ。

そして俺はその階段を上りきったところに鏡介と並んで立っていて、下の階には他のモノたちがずらり勢ぞろいしている。もっとも、ヒビキとメルセデス、それからシデンは「そいつ」を迎えるために外に出ている。

ちなみに、下に勢ぞろいしている連中はお互いにおしゃべりとかをしているが、何を喋っているのかはよく判らない。声は聞こえるのだが、あまりに色々入り混じっているので何を言っているのか判らないのだ。まあ判ったところでガールズトークについていかれない自信があるんだが。

そのときだ。大きく開けてあった天窓から、何かが飛び込んできた。

「来たぞおぉぉぉっ!!」

そいつは、飛び込むや否やホールの中を旋回しそんなことを叫ぶ。

シデンだ。やがてシデンはホールのど真ん中に着地すると、階段の上にいた俺たちに大声でこう叫ぶ。

「敵襲だぁぁぁっ!総員戦闘配備しろおっ!」

いきなり戦闘配備と言われて、階下は騒然となる。そりゃいきなり戦闘配備なんていわれてもとまどうわな。

「シデンさん」

そのシデンに声をかける奴がいた。最初からホールの真ん中に陣取っていたあかりだ。

「客人をお迎えするのは私の役目。少々、おとなしくしていただけないでしょうか?」

「なっ!?」

シデンが何か言おうとした時には、シデンは両腕をどこからか沸いてきたあかりズにがっちりと捕まれていた。

「お、おいっ、ちょっと、待てえ!」

そして、じたばたと暴れるシデンをあかりズが数人がかりで連れて行く。

シデンのやつ、別に悪いことはしていないのになんで連行されなきゃならないんだ、と声をかけようと思ったら。

「来ました!」

狙ったようなタイミングで、一人残っていたあかりの声がホールに響いた。その一言でざわついていたホールが水を打ったように静まり返る。

おかげで、俺も言いそびれてしまった。

がごん。

全員の視線が注がれる前で重厚な音が響き、正面玄関のドアがひとりでに開いていく。

そして。全員での出迎えをしたメインゲストが、ゴオオオという音と共にホールに入って来た。

見間違えようがない。目どころか顔半分を隠しそうなゴーグル。ヘッドギアの左右から生えたツノみたいなアンテナ。季節外れのロングコート。そしてメカメカしい足。この前、誘拐犯と勘違いしてケイたちを*しようとしたあのアンドロイド、ナミに間違いない。

その後ろを、監視するようにヒビキとメルセデスがついてくる。

「ようこそ。お待ちしていました」

あかりが、全く臆することなくそいつを出迎える。

噴射音らしいゴオオオという音が静まり、ナミが地面に降り立ったその背後で、テルミとクレアが扉を閉じると、そのドアの前に立ちふさがる。

うちのモノたち(妖怪2人と絵1枚を含む)にぐるりと取り囲まれる形になるが、ナミは全く慌てた様子もなく、まわりを見回すように首を機械的に動かしている。

と、その首が少し上に動いて、俺らを見た。あのゴーグルで本当に見えるのかよく判らないが、少なくともゴーグルは俺のほうを向いている。

「本当に来たな」

そんな言葉が、口をついて出る。

だが、その後、ナミが全然動かなくなった。バッテリーでも切れたのだろうか。

「どうしたんだ、あれ?」

「バッテリーでも切れたんスかねぇ?さっきレーザーとかばんばん撃ってたし」

思わず鏡介と顔を見合わせる。鏡介の奴も俺と同じことを考えていたらしい。

とにかく、あっちが動かない以上はこっちから近づかなきゃならない。俺はそのナミの前まで続いている階段を下りることにした。

鏡介も、俺と並んで階段を下りる。なんかもう1人の俺が並んでいるみたいだ。

まあそれはそれとして。近くまで来てみると、ナミの顔はちゃんと俺たちのほうを向いていた。首が動くってことは、バッテリー切れとかじゃないようだ。

「おまえ、人間になりたいんだってな」

声をかけると、そいつは我に返ったみたいに動き出した。と言っても、ゴーグルに映る緑のラインが一瞬消えてまた点灯しただけだが。

俺の声は聞こえているらしいので、もうちょっと声をかけることにした。

「なんで人間になりたい?」

「私の、夢、です」

すると、間髪を置かず、そんなおよそロボットらしくない答えが返ってきた。さっき鏡介から話は聞いていたが、改めてそう言われると驚き以外の何物でもない。

「『家族が*されそうになっているのを見て、黙っていられるか!』2日1時間32分53秒前、あなたが私の頭部を殴った11秒後に発した言葉です」

俺たちの驚きを他所に、ナミは俺の声を真似(録音していたのかもしれないが)してそんな事を高らかに述べやがった。

なんというか、改めて言われると恥ずかしいセリフだ。

気がつくと、俺の隣にいた鏡介も、ナミの横に立って目を光らせていたヒビキやシデンやメルセデス、そしてそれを取り囲んでいたモノたちのほとんどが変にざわつき始めた。

「その言葉を聞いたとき、私の中に、不可解なノイズが発生しました。理由は解析を重ねても未だ不明ですが、私はそのノイズを良いものと判断し、きっかけとなるその言葉をメモリーから消去してはならないと判断したのです。

その言葉を繰り返し再生し、私はキーワードを見つけました。それが、家族という言葉でした」

だが、ナミは機械らしく動揺も何も見せず、機械的な抑揚の乏しい声で、ただ淡々と言葉を続ける。言っている内容が妙に人間くさいだけに、余計にナミのロボっぽさが強調されて感じられる。

「それを、クローディア様にお聞きしたところ、『ご自分でお考えなさいっ!』と言われてしまいました。そのため、私は自分で考え、人間になればクローディア様の家族になれると結論づけました」

「お前、クローディアの家族になりたいのか?」

自分でも動揺しながら、ナミに聞いてみる。すると、ナミは用意していたようにこう答えた。

「わかりません」

と。そして、少し黙ってから、少しボリュームを落としてこう言った。

「私の電子頭脳には、クローディア様の命令に従うプログラムが組み込まれています。ですが、それ以外の何処かから、クローディア様に仕えることを優先する信号が出ているのです。どれだけ解析しても、その信号が何処から出ているのかは突き止められないのです。

・・・・・・今の私は、どこか壊れているのかもしれません」

その様は、しょんぼり落ち込んでいるようにも、自分を責めているようにも見えた。

そして、なんだかよく判らない答えをするそいつが、俺には、すごく人間くさく感じられてしまった。

「望月ナミ」

かわいそうになって声をかけると、ナミは顔を上げた。

「ひとつ言っておく。俺には、お前の希望を完全に満たすことはできない」

そこまで言って、ちょっと失敗したかも、と思った。話が違うとか言って暴れ出したら、まあまず助からないだろうからだ。そしてそれはうちのみんなも同じだったらしく、一斉にざわついた。

幸いにもナミは聴きわけが良かった。暴れることもなく、じっと俺のほうを見ている。

「俺ができるのは、お前にかりそめの体と命を与え、擬人化させることまでだ」

ナミは、判っているのかいないのか、やはり反応を見せない。なんか、あかりやメルセデスが爺さんだった時みたいだ。

「それでよかったら、お前に力を使うことができると思うが、どうする?」

すると、ようやくナミは返事をした。

「私は、力の行使を希望します」

相変わらずの無機質な声だが、なんとなくそこに意思があるように感じた。

念のため、横にいる鏡介に目配せをする。鏡介は、俺の意図を汲み取ってくれたらしく、小さく頷いた。

「じゃあ、手を出してくれ。この力は、相手に触れないと効果が発生しないんだ」

「判りました」

ナミは、素直に手を出してくる。SF映画で出てくるような、金属的な光沢を放つ手だ。だがとても繊細な感じがするので、重労働には向いていないような感じがする。

握ると、金属的な冷たさが手のひらから感じられる。本当にメカなんだなーと思う。

「頼むから、お前、これから俺のことを襲うのはやめてくれよな?」

と、声をかけた瞬間。

今日何度目だ、とちょっとうんざりしてしまうほどの光が、あたりを包んだ。

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