15.とうとう来ました西園寺本家 その23
離陸してからおよそ30分。市街地から少し離れた山林地帯の上空を飛行していたナミの視界に、塀に囲まれた広い庭と、その中に立つ建造物が入ってきた。
鏡介に指示された、西園寺本家の屋敷だ。窓に光が見えるので、無人ではないとわかる。
その時だ。
ナミのレーダーが、空を飛んで自分に近づいてくる何かをキャッチした。
大きさはほぼ人間大。だが、それを改めて確認したところ、ナミはレーダーのバグを疑った。
なぜならそれは、明らかに人間だった。しかも、飛行するための道具らしきものを一切身につけていない、本来飛行能力を持たない、生身の人間。それが、まっすぐ、自分に向かってくるのだ。
ぎゅおっ!
そしてナミは、その『何者か』と、空中ですれ違った。その風圧で、ナミは空中で若干姿勢を崩してしまった。
なんとか体勢を立て直した時、今度は自分の下に、その『何者か』が後ろから現れ、空中で並んだ。
映像で確認できる状態になって、ナミはさらにバグを疑った。
その人影は、深緑色の羽織袴を着込んだ、人間の女性だった。
「貴様が、ナミとやらか!」
空を飛ぶ女が、自分と平行に並びながら、ナミに声をかける。
「はい。私は望月ナミです」
「我の名は中嶋紫電、零式艦上戦闘機二一型の擬人化である!上官の名により、貴様を我らが屋敷まで案内することになった!」
擬人化、という言葉を他人から聞くのは、鏡の擬人化と名乗る加賀見鏡介に続いて2回目だ。ということは、この女も、西園寺将仁の力を受けたのだろう。
「ついて来るがよい。着陸のための設備などは無いが、貴様なら問題なかろう」
そう言うなり、紫電と名乗るその人物は、体を翻して急降下をはじめた。
向かう先は、屋敷の庭らしい。そしてその庭に、動く光の点がいくつかあるのを、ナミは検知した。
建物の光とは別になっているので、おそらく誘導灯のかわりなのだろう。
「目標確認。着陸します」
すでに小さくなったシデンを追って、ナミも降下を始めた。