15.とうとう来ました西園寺本家 その22
駅前広場の片隅にある電話ボックスで、鏡介がどこかに電話をかけている。
「・・・・・・はい。んじゃ」
やがて、黄緑色の受話器をフックに戻すと、電話ボックスから鏡介が出てきた。
そのボックスの前には、軍服の上からロングコートを羽織り、頭の左右に角のようなアンテナを生やし巨大なゴーグルで顔を半分隠した人物が微妙な猫背で立っていた。
ナミだ。鏡介が将仁と連絡を取り合う間、そこで待っていたのだ。
「待たせたな」
「待機時間、5分27秒」
「それは、待たされたって、言いたいのか?」
「待機状態が5分27秒だったというだけです。それだけバッテリーを消耗しました」
ナミの返事は機械的だ。人間に近い形をしているとはいえ中身は機械なのだから当然だが。
「・・・・・・まあ、それはいい。それより、お前、西園寺の屋敷がどこにあるか、判るか?」
「それは、住所という意味ですか?」
「んー、住所でも何でもいいけど、そこまで1人で向かってもらいたいんだ」
「・・・・・・説明を要求します」
「あー、まあ色々あって、俺達は今、将仁さんも含めて、西園寺本家の屋敷に住んでいるんだ。それで、場所が判るなら、俺が案内するよりも、空を飛んで行ったほうが早いんじゃないかと思って」
実際は、鏡介は西園寺の屋敷の場所も住所も知らないため案内ができない、そのための口実だった。
「理解しました」
だが、ナミにとっては都合が良かった。住所はGPSのデータを取り込んで割り出せば済むことだし、空を飛べる彼女は、一人であれば地上の道を通らなくともそこへ到着できるからだ。そうなると、徒歩の人間に案内されるより確かに早く到着できる。
「あなたはどうやって移動するのですか」
「心配しなくても、俺には俺の足があるから大丈夫だ。お前こそ、約束は守れよ」
「了解しました」
そしてすぐに解散し、というわけにはいかない。なにしろここは駅前、人の目が沢山ある。
そのため、二人はすぐその場を離れると、人気のない路地へと入っていった。
しばらくの後、轟音と共に翼を広げたナミが空へと飛び立った。