03.そして何かが動き出した その8
「ふわ〜ぁあ、ホントヒマだな」
クリンが風呂場に消えていって、いよいよヒビキは暇をもてあましてきた。今まではエンジンをかけられなければ動けなかっただけで、元々動き回るのが好きな彼女にとってはじっとしているのは苦痛なだけである。
とはいえ留守番を引き受けてしまった以上、外出してしまうわけにもいかない。
「なんかねぇかなぁ、暇つぶしになるようなもん」
そして、ヒビキは将仁の部屋に何のためらいも無く入った。
「んー、なんだよ、マンガとか無いのかよ、全く」
まず目をやったのは本棚だったが、たった一つの本棚は問題集と参考書と、趣味のラジコンの本でいっぱいだった。
「なんだあいつ、バイクの本が一冊もないじゃないか。後でじっくり問い詰めてやる」
その本棚の一冊を取り出し、ぱらぱらと中身を眺めたヒビキは、その本をぽいと部屋の隅に放り投げた。
「ありゃ、ハズレか。どっか別の所に隠したか?」
何を期待したのかベッドの下をのぞいたヒビキだったが、そこには埃ぐらいしか見当たらず、期待したお宝は影も形もない。
「ん?なんだこりゃ?」
次に、部屋に備えられたクローゼットを開けたヒビキは、その中に水色と白の分厚い板のようなものが放置されているのに気がついた。
引っ張り出してみると、それはノートパソコンだった。
「ふーん、あいつ、パソコンなんか持ってたんだなぁ」
そしてなにげなくそのノートパソコンを開きスイッチを入れる。
「ん?」
だが、電源が入らない。ひっくり返してみたが、うんともすんとも言わない。
ヒビキは知らなかったが、実は使われないでいた時間があまりに長く、内部のバッテリーまで切れてしまっていたのだ。すぐ横には接続用のACアダプタが転がっているのだが、少し前までバイクだったヒビキがそれの使い方など知るわけも無い。
こりゃ動かないんだ。そう判断したヒビキは、そのノートパソコンをもとあった場所に戻した。
そしてさらに暇つぶしの道具をあさる。
「あ、こいつか、この前将仁が飛ばしていたやつ」
ふと見上げたタンスの上に、ヒビキにも見覚えのある物体が乗っていた。
手にしてみると、それは全長40センチほどの、銀色のプロペラがついた、ラジコン飛行機だった。しかも、知る人ぞ知る、第二次世界大戦時の日本の名機、零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦だ。
セスナでもいいだろうにわざわざゼロ戦にするあたりが渋い。深緑に塗り上げられた胴体と翼に、日本を象徴する真っ赤な日の丸がくっきりと描かれている。
「そんなに面白いのかねぇ?」
そんなことを言いながら、ヒビキはぱちんとコントローラーのスイッチをオンにした。
実は、ヒビキがまだバイクの姿をしていたときに、将仁がそのラジコンを飛ばしているのを見たことがあった。見よう見まねでコントローラーをいじっていると、そのゼロ戦のプロペラが低いモーター音をあげて回り始めた。
どうも、作者です。
モノ代表・ヒビキによる主人公の部屋の家捜しでした。
実は今回出てきた物の中に、後で擬人化するのがいます。どれが擬人化するか、予測してみてください。
次回は、買い物から帰った組と留守番組との間でひと悶着あります。
乞うご期待!