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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
15.とうとう来ました西園寺本家
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15.とうとう来ました西園寺本家 その16

頃合を見計らって目を開けると、そこには俺よりちょっと年上ぐらいの、ポニーテールのえらく厳しい表情をした女の人が立っていた。色白で髪が暗い銀色なのも手伝い、到底日本人には見えない。

服装は、上は半袖の黒いシャツの上からやはり黒くてごっついライフジャケットみたいなのを、かっちり前を閉めて着込んでおり、下は黒いたぶついたズボンの裾をジャングルブーツのようなごつい靴の中に入れて纏めている。なんというか、どっかのSWATを連想してしまう格好だ。

ちなみに、金庫としての名残なのか、ジャケットの前面には、レバー状の大きな取っ手と、ダイヤルみたいなものが左右についている。

その人は、鋭くつりあがった眼差しで俺を睨みつけながら、ごわごわした手袋をした右手で俺の右手を握っている。

「と、とりあえず、よろしく」

「・・・・・・」

挨拶をしたが、俺の手を握ったまま、怒ったような怖い顔で俺をじーっとにらんでいる。

俺、何か、悪いことしたか?もしかしたら嫌だったのか?

「えーと・・・」

なんか間が持たないので、何か喋らないといけないと思った時だ。

「!」

いきなり、その女が、俺の手を振り払った。

嫌われたか、と思った直後。振り払われた女の右手が、勢い余って後ろにある金庫に叩きつけられてしまったのだ。さっきは金庫自体が変形していたが、分裂したみたいだ。

「うごぉ!」

その人は、腹のそこからうめく様な声を上げ、右手を押さえ込んだ。

うん、ちゃんと痛いらしい。ってそんなことを言っている場合ではない。

「だ、大丈夫か?」

今までに無いパターンの反応をされたため、勝手がわからない。

「・・・・・・っつう・・・・・・」

相当痛かったんだろう、その人は顔を顰めて、今ぶつけた手をさすっている。SWATみたいな勇ましい格好のわりには間抜けな光景だ。

その時。彼女がいきなり顔を上げると、何やら発音練習でもするように、声を出しはじめた。

「・・・ん、あ、あー、あー、あーっ!」

そして、いきなり大声を出した。一体、何事だろう?

「・・・・・・声が出る」

それが、その金庫女のまともな第一声だった。そういえばあの金庫ロボの時は、声が無かったんだっけな。

「・・・・・・何をした?」

すると、金庫女は、いきなり俺の胸倉を左手で掴み、俺をじろっと睨みながらそう聞いて来た。痛みで腹が立つのはしょうがないかもしれないが、その怒りを俺に向けるのは間違いだと思うんだが。

「あなたは、将仁様の力で、生まれ変わったのです。私のように」

俺のかわりに答えたのは、ここまで俺を案内したあかりだった。

あかりのその言葉を聞くと、金庫女は手を離し、自分の手足や体のあちこちを見回してから、また俺をじっと見つめてきた。

「・・・・・・な、なんだよ」

「・・・・・・説明を、要求する。・・・・・・私を、この姿にした、理由を」

金庫女は、しばらくの沈黙の後、そう言ってきた。口が重いのは、金庫だったからだろうか。

「理由ってそりゃ、お前を残すためだよ。先代は自分が生み出した擬人が消えるのを悲しがっていたから」

「・・・・・・静香様が?」

「ああ。まあ残すためには、俺の手で擬人にするしか手がなくて、おかげでみんなまるっきり別人になっちまったが」

「・・・・・・そうか」

金庫女は、やっと納得したのか、自分の手とあかりを交互に見ながらそう言った。

「・・・・・・では、私は、あなたのものなのだな」

その金庫女が、何かつぶやく。顔をみると、表情は全く動いていないのに、顔色だけが熟れたトマトのように真っ赤になっていた。こいつは無表情なのに顔色だけ変わるのか。

「あー、その、将仁様?彼女に、名前をつけてあげましょう」

と、そこにあかりが声をかけてきた。

そこで、俺は改めて金庫女に向き直った。実は、名前はもう考えてあったりする。

「クレア・ハルトマン。これで行こうと思う」

クレアというのは、以前見た映画に出てきた女SWATの名前だ。金庫女の格好がSWATっぽいからだ。そしてハルトマンは、さっき金庫を近くで見た時にちらっと見えたプレートにそう書かれていたため。たぶん、どこかの金庫のメーカーの名前だろう。

「・・・・・・了解。私はこれから、クレア・ハルトマンと名乗る」

そして、金庫女改めクレア・ハルトマンは、俺に敬礼をした。

「では、将仁様。戻りましょうか」

すると、待っていたように、あかりが俺の手を取って引っ張った。

「・・・・・・待って」

だが、その時、反対側から、今度はクレアが俺の手を取って引っ張った。

「・・・・・・見せたいものが、ある」

俺の手を握ったまま、クレアが相変わらずの険しい表情のままで、俺をじっと見つめる。

「見せたいもの?」

クレアはひとつうなずき、言葉を続けた。

「・・・・・・私が、守ってきたもの。あなたには、知る権利がある」

「う、わかった。あかり、ちょっと待っててくれ」

守ってきたもの、という言葉に、俺はつい引きつけられた。

すると、クレアは、自分のジャケットについたダイヤルを自分で回し始めた。カチカチカチという音がするあたり、本当に金庫なんだなーと思うと同時に、そのダイヤルのつまみがちょうど胸の上あたりに(しかも左右ひとつずつ)あるので、ちょっと卑猥なことを考えてしまう。

やがて開錠ができたのか、クレアがジャケットの真ん中にあるレバーに手をかけてひねると、まるで観音開きの扉のようにジャケットの前を開いた。

わざわざそんなことしなくても普通に脱げないのか、と思ったのだが、それは思い違いだった。なぜなら、そこには、クレアの体も衣服も何も無く、真っ暗な空間があったからだ。脱ぐのとは違うらしい。

クレアは、その空間に手をつっこむと、掌に乗るほどの小さな木箱を取り出した。

「なんだ、これ」

「・・・・・・静香様が、生前、とても大切にしていたもの」

大切にしていた、そう言われると、扱いが慎重にならざるを得なくなる。

そっと開けてみると、中には綿が敷き詰められており、干からびたミミズみたいなものと、色あせた赤ん坊の写真が入っていた。

「・・・・・・それは、あなたの臍の緒と、あなたが生まれたばかりの時の写真」

クレアが、静かな口調で、言葉少なく説明する。その瞬間、俺は頭を殴られたようなショックを受けた。

「・・・・・・静香様は、辛い時には、ここに来て、その写真を見て、独りで泣いていた。・・・・・・私は、慰めの言葉を、かけてあげたかったけれど、喋ることができなかったから」

「・・・・・・そうか」

クレアの言葉に、なぜか、涙が出てきた。

どうも、作者です。

西園寺家最後の擬人化、「鉄壁のバンクギャル」クレアの登場です。

個人的には、変身前の大魔神ライタンのほうがインパクトが強い子です。

他のモノに比べ口が重くて目立たないと思いますが、かわいがってあげてください。

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