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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
15.とうとう来ました西園寺本家
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15.とうとう来ました西園寺本家 その15

今、俺の横にはさっき女体化したこの建物の擬人、屋敷あかりがいる。彼女に案内されて、俺は建物1階の真ん中にある部屋に来ていた。

どうやら、先代の擬人化で、俺が敷地内に入るまで生き残っていたのは5人らしい。そして、一度は消えたはさみを含めると、そのうち4人が、俺の手によって新しい姿を得ている。

ここまで来たら、最後の1人も今日のうちに会っておこうと思ったのが、俺がこの部屋まで来るそもそもの原因だった。

そこは、あまり装飾の無い、地味な部屋だった。もともとこの屋敷はそんなに派手な装飾は無いのだが、この部屋は作った人が「目立っちゃいけない」と思っていたかのように余計に地味だ。

「おい。そいつってどこにいるんだ?」

だが、俺たち2人以外に、人の姿が見当たらない。今までのケースだと、先代による擬人化の成れの果てな爺さんがいるはずなんだが、そこには俺たち以外誰もいないのだ。

「彼は、特別なのです」

そう言って、あかりが指差したのは、部屋の奥にででーんと置いてある、古びた黒い金庫だった。

横幅は俺が手を広げたより少し小さく、高さは床に直置きされながらも俺の胸元に届くぐらい。扉は珍しい両開きで、レバー状の大きな取っ手と、普通はひとつだけのはずのダイヤルが左右の扉についている。だが、古いデザインと、人が入りそうなほどでかいことを除けば、どう見てもただの金庫だ。

「こいつが?どう見ても普通の金庫なんだがな」

つい、俺も指差してしまう。その金庫には、どこをどう見ても爺さんの姿は無かったからだ。

まさか、この金庫を開けると、中から爺さんが出てくるとかいうオチじゃあるまいな。

なんとなく、その金庫の上に手を置いた、その時だ。

その金庫が、突然がたがたがたっと震え始めた。

「な、な、なんだなんだなんだ!?」

もしかして、本当に中に誰かが入っているのか?と思っていたら、事態は俺の想像の斜め上を行っていた。

いきなり、その金庫が、ガギガギゴリゴリグオングオンというものすごい音とともに変形を始めたのだ。その様子は、さっき外で見たメルセデスのリムジン変形を外から見たらこんな感じなんじゃないだろうかと思うような感じだ。

やがて現れたソレは、ゴー○ドライ○ンを思わせる変形ロボットみたいな奴だった。金庫を胴体として、上に頭、左右に腕、下に脚が生えた感じだ。ちなみに、片膝をついて若干前かがみになっているが、それでも部屋の天井に頭が触れているので、身長は3mを軽々と超えているだろう。

うーん、これは、擬人化と言っていいんだろうか。一応手足と頭があるから人の形に見えなくはないが、あの二次元はああ見えてロボットアニメ好きなんだろうか。

と思っていたら。

「うわ!?」

その金庫から変身したロボット?にいきなり胸倉をつかまれ、俺は宙吊りにされてしまった。

金庫の上に乗った、西洋の兜をかぶった大魔神みたいな、金属製の仮面の目が俺を睨む。

「な、何すんだっ!」

そいつにむかって、声を張り上げる。

「こらっ!下ろしなさいっ!その方は、西園寺家の新当主、将仁様ですよっ!」

そして、俺を下ろそうとしてか、あかりが俺を下に引っ張る。

だがロボの手はびくともしない。

「こ、こんのやろおおお!離さないなら離させてやるぁ!」

俺はとっさに、その金庫ロボの腕に組み付いた。腕ひしぎの要領で肘関節に負荷がかかるように力をかける。真田流兵法術にシデンの零式柔術(時々、シデンにも教わっているのだ)をミックスした、オリジナル技だ。

だが、金庫ロボの腕は予想以上の力があり、全身の力を込めても、びくともしない。

「どわっ!?」

それどころか、逆にそのパワーで振りほどかれてしまった。

同時に金庫ロボが俺の胸倉から手を離しやがったため、俺の体はつるっと腕からすっぽ抜けてしまった。

宙を飛んだ俺は、そのまま反対側の壁に激突すると思い身を固くしたが、マットレスかクッションに飛び込んだような柔らかく受け止められ、そのまま床に軟着陸させられた。

改めて見てみるが、壁は壁のままだ。クッションなんか切れ端も無い。壁が柔らかいんだろうか。

「将仁様っ!?」

そこに、あかりが悲鳴のような声をあげて駆け寄ってくる。

「おっ、お怪我はっ!?」

そして、心配そうに俺を覗き込んでくるが、当然ながら怪我なんか擦り傷一つありゃしない。

「あ、ああ、大丈夫だ」

「はぁっ、良かった、間に合いました」

あかりがほっとした顔をする。どうやら壁が柔らかかったのはあかりの仕業らしい。戸締りやドアをつなげる以外にも、できることはあるようだ。

「貴様あっ、我らが主、将仁様を傷つけようとは不届き千万!」

そのあかりは、俺を投げた金庫ロボを指差すと、いままでとがらりと変わった男らしい口調でそう宣言した。

そして俺は、とんでもないものを見てしまうことになる。

ばたんっ!とドアが開いたと思ったら、黒い服を着た何者かがわらわらわらっと部屋に入ってきたのだ。そして、恐ろしいことにそいつらは、みんなあかりと同じ姿をしていた。服装だけならともかく、ヘアスタイルから顔まで同じだった。言うなれば、あかりが束になって部屋に入ってきた感じだ。

しかも。その手にはバットに木槌、金槌、バールに花瓶、中には鎖つき鉄球のようにどこから持ってきたんだと言いたくなるような様々な鈍器が握り締められている。

「処分してくれるっ!」

そのあかり軍団が、一斉にその金庫ロボに鈍器を向けて宣言する。

「ちょっと待ったっ!」

とっさにその中の1人の手首を掴む。すると、飛び出そうとしたあかりの集団が一斉に足を止めて、俺を見た。同じ顔に一斉に見つめられるというのは、ホラー映画のようでちょっと怖い。

「なぜ止めるのです!?」

一斉に言われると余計に怖いんだが、そうも言ってられない。

「ほら、ケガはしてねぇし、それに相手は金庫だから、何か重要な物をしまっているのかもしれないし、だから警戒しているのかもしれないし、な」

それに、同じ擬人化(片方は見かけ上ロボだが)同士が殺しあうのは当然ながら見たくないし。

「・・・・・・ふぅ」

すると、あかりの集団は一斉に呆れたようなため息をついた。

「将仁様がそう仰るのならば、仕方ありませんね」

そして、俺が手首を掴んだあかりがそう言う。

と、そのあかりが再び金庫ロボに向かって、手に持ったバールを突きつけて、

「この次、将仁様に同じようなことをしたら、その時は貴様をビス1個に至るまでバラバラに分解してくれるから、そのつもりでいろ」

と、嬉しくない宣言をしてくれた。

そして、あかりの集団が、俺が手首をとった1人だけを残してぞろぞろと出て行き、ばたんとドアが閉まると、妙な静けさが残った。

「な、なんだったんだ今のは」

「あれは、私の分身です。今後、人手が必要な時にはいくらでも」

「あぁあぁ、わかった、わかった」

空間を捻じ曲げて応接間と玄関を繋いだり、壁の硬さを変化させたり、何十人にも分身したり、なんというか、始めに話を聞いたときに「しょぼい」と思ったことを土下座して謝りたくなるぐらいの能力だ。

そして、とんでもない光景を見てしまったせいで、金庫ロボへの怒りは完全に静まっていた。

「おい。さっき、なんで俺を掴んだんだ?」

それが証拠に、俺は比較的平常心でその金庫ロボに話をしていた。

だが、金庫ロボは黙ったままだ。

「聞いても、無駄だと思いますよ。彼には、声が無いのですから」

かわりにそう言ったのは、あかりだった。

「・・・・・・声が、無いって、どういうことだ」

「言葉のとおりの意味です。私は、静香様がまだご存命の時から彼を見て来ましたが、一度として声を出したことはないのです」

なんでも、この金庫ロボは先代・西園寺静香が亡くなる少し前に姿を得たらしいのだが、その時すでに先代は色々衰えていたらしく、色々と中途半端な存在になってしまったらしい。だから、擬人化でもモノと人の中間なロボットのような姿で、喋る能力も無いのでは、ということを、あかりから説明された。

真っ先に消えてもおかしくないそんな半端な存在が、なぜ最後まで残っているのか。それは、あかりにも判らないらしい。

だが、知らなかったとはいえ「口ぐらいあるだろう」と言ってしまったのは軽率だった。

「んー、まあ、喋れと言ったのは、軽率だったと思う。ごめん」

すると、金庫ロボが頷いた。ってことは、ハイかイイエかぐらいは反応できるということか。

「お前、俺の言うことは判るんだよな」

こくり。

「じゃあ聞くが、おまえ、えーと、金庫。俺、西園寺将仁は、新しい当主として、西園寺の全ての資産を受け継いだ。それは、判るな」

金庫ロボは、ひとつ頷く。

「それで、そこにはお前も含まれる。だから、おまえも俺のものになった。判るな」

ロボは、少しの間をおいてから、頷いた。

「そういうわけだから、仲良くしよう。な」

そして、俺は自分の右手で、その金庫ロボのでかい右手を掴む。

「よろしくな」

その瞬間。閃光が目の前を包んだ。

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