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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
15.とうとう来ました西園寺本家
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15.とうとう来ました西園寺本家 その11

玄関を出ると、リムジンのドアが何もしないのに開く。

だが、俺はそこには入らず、前のほうに移動すると、助手席の窓をノックした。

「ここを開けてくれないか」

そう言うと、後ろのドアが自動的に閉まり、そして目の前にある助手席のドアが開く。

「邪魔するよ」

中に入ると、初老のハイヤーの運転手が、ハンドルを握ったままでじっと前を見ていた。

「何の御用でしょうか」

運転手が、首だけ動かしてそう聞いてくる。

近くでその様子を確認して、やっぱりこの人は擬人化だと確信した。

女体化前のあかり同様、生きているのか死んでいるのか判らないような、ガラス細工のような目をしていたからだ。

「話をするのは、これが2回目だな。俺は、真田将仁改め、西園寺将仁。西園寺家の新しい当主だ」

「はい」

「それにあたって、俺はこの屋敷にあるものを全部引き継いだ。この車もな」

「はい」

こっちが話しかけても、むこうは「はい」としか言わない。反応がここまで薄いと、本格的に面白くない。

「ってわけだから、よろしくな」

説明するのも面倒になったので、俺はさっそく右手を差し出して握手を求めることにした。だが、運転手はその手を見ただけで手を出してこない。

「ほら、握手。右手をだして」

そう促して、やっと運転手はハンドルから右手を離し、左手の上から手を差し出して来る。

なんかもどかしかったので、こっちから手を伸ばしてぎゅっと握り締める。

「これから、よろしくなっ!」

その瞬間。耳鳴りのような音と爆発的な光があたりを包む。

そして気がつくと、運転席にはさっきと似ても似つかない、なんか派手な雰囲気の女の姿があった。

やや色の薄い金髪をショートカットにし、肉感的なその体を長袖の黒いジャケットにタイトな感じの銀色のスカートで包んだその姿は、運転手と言うより、テレビで見たことがあるモーターショーのイベントコンパニオンのようだ。しかもジャケットの下はエンブレムがでっかく印刷された真っ赤なチューブトップで、いい感じに引き締まった腹回りをむき出しにしている。

なんというか、リムジンとはかーなーりイメージが違う。

「わお♪」

目を開いたその人は、新しい姿がよっぽど意外だったのか、ミラーに映る自分の姿を見て歓声をあげた。

「んー、いい感じじゃない」

彼女は、自分の体を確かめるように手で撫で回している。

「後継者が男の子だって聞いた時点でこうなるとは判ったけど、予想より断然いいわ」

すると、突然なれなれしく話しかけてきた。さっきまでのほとんど喋らない姿から思いっきりかけ離れたその様は、そう仕向けた俺でも驚いてしまう。

「え、えーと、念のため確認するけど」

「ん?なに?なんでも聞いていいわよ?」

うーん、ギャップが大きすぎて、対処に困るな。

「擬人化、だよな?」

「そうよ、キミが乗ってるこの車の擬人化。よろしくねっ!」

そして、今度はそのコンパニオン、車の人が俺の手を握ってぶんぶんと振ってくる。

「あ、ああ、よろしく、えーと・・・・・・名前は?」

「あたしの名前?んー、そーねぇ。さっきまでは運転手って呼ばれてたけど」

運転手かい。全く、あの二次元は擬人化をみんな役職で呼んでいたんだろうか。

「でも、こう言ったら怒られるかもしれないけど、ちょっとダサいと思ってたとこだし。記念に、ばばーんっとかっこいい名前つけてくれない?」

すると、俺が言う前にあっちから名前の話が切り出されてしまった。

「う、か、かっこいい名前ね・・・・・・」

なんか、トークで圧倒されてしまう。

「そういや、お前、日本人って風体じゃないよなぁ」

「そりゃあMade in Germanyだもん」

「つーことはドイツ風か・・・・・・って、俺ドイツ語なんか全然わかんねぇぞ?」

「別にドイツ生まれだからってドイツ語にしなくってもいいけどね~」

「・・・・・・こいつ・・・・・・」

なんか調子が狂う。ドイツ人っていうと真面目でお堅いイメージがあったんだが。

しかし、ドイツ、ドイツねえ。ドイツってえと、ビールにソーセージにジャガイモ、って、食ってどうするんだ。

うーん、ドイツ、ドイツ、ドイツの科学力は世界一ィィィィィィ!っていいかげんにしろ俺。

ふと顔を上げると、ボンネットの先にあるエンブレムが目に付いた。丸を3つに分けたような、メーカーのシンボルマークだ。

そういや、このメーカーのフルネームはメルセデス・ベ・・・・・・んっ!?

「メルセデス!」

思わず口にしてしまった。確か、メルセデスってのは女性の名前だ。昔は男の名前がついていたが、柔らかいイメージを持たせるために改名したと、誰かから聞いたことがある。

「メルセデス?ふぅん、単純だけど、悪くないわね」

「だろ?」

彼女も気に入ったらしい。

「で、苗字は?」

「へ?」

「ほら、ファミリーネームよ。今時の人はみんなファミリーネームぐらい持ってるじゃない」

・・・・・・こいつは。苗字まで要求してくる奴なんて初めてだ。

さっきのあかりの場合はなんとなく屋敷さんと呼んでしまったからあっさり苗字も決まったけど、でもドイツ人の苗字なんか判らんぞ。

うちの連中みたく、自分で考えてつけてくれれば楽なのに。

「あー、じゃ、車、じゃなくて、字違いの久留間!さっきドイツ語にしなくてもいいって言ったよな。お前はもともと車なんだし。どうだ?」

「久留間メルセデス・・・・・・ね。なんかハーフっぽくて面白いじゃん。いいんじゃない?」

「そ、そうか。んじゃ、決まりってことで」

とりあえず、どのぐらい満足しているかは別として、納得はしてもらえたらしい。

「呼ぶときはメルって呼んで。じゃ、よろしくねっ♪」

「うわ!?」

次の瞬間。俺はそいつに横から抱きつかれていた。

腕に柔らかい感触が。サイズはレイカと同じぐらいかな、なんて余計なことを考えてしまう。

「あぁーっ、マサっち、鼻の下伸びてるぞっ♪」

すると、ぱっと離れたメルセデスがそんなことを言ってくる。もしかして、俺って、遊ばれているんだろうか。

「ほ、ほっといてくれ」

図星を指されて、俺はぶっきらぼうにそう言うしかできなかった。

「・・・・・・そうだ」

ふと、思い出したことがあった俺は、ドアに手をかけた。

「どったの?トイレ?」

「違うわっ!こんな所で立ちションなんかするか!」

「あら。どっか行きたいんだったら、運んであげてもいいけど」

そんなのいいよ、と言おうと思って、思い返した。

用があるのは庭のほうなんだが、ここの庭は、かなり広いのだ。足で歩いても行かれないことはないと思うが、確かに車に乗っている以上、近くに運んでもらっても誰も文句言わないだろ。

「んじゃ頼むわ。さっき一時停止したあたりまで」

「オーケイ。じゃあシートベルト締めて。面白いもの見せてあげるから」

そしてメルセデスはキーを回してエンジンを起動させる。

「レディ、ゴー!」

そして、楽しそうに声を上げたときだ。

「どわぁぁぁっ!?」

いきなり、車がすさまじい勢いで揺れ始めた。と同時に、いきなりプレス工場の中に突っ込んだような騒音が四方八方から響き、そして目の前の光景がすごい勢いで変わっていく。

「な、なんだなんだなんだっ!?」

一体なんだ、敵襲か!?なんてワケのわからないことを考えているうちに、その騒音と振動は静まった。

まわりを見ると、自分の座っているところがずいぶんと狭苦しく、またかなり前に傾いた形に変形している。後ろを振り向くと、シートのむこうはなぜか壁になっている。

そして、なぜか窓の外の風景がさっきよりずいぶんと高い。

一方のメルセデスは、狭くなった運転席も全く気にすることなくハンドルを握っている。

「何なんだ今の、うわ!?」

いきなり、また車内が揺れた。

そして、ずんっ、という感じの衝撃が車内をゆるがす。

「おいこら!一体何やった!?」

「外見ればわかるからさ、窓の外見てごらん?」

その声と同時に、窓の向こうを、柱のようなものが通り過ぎた。

同時に、また、ずしんという音と衝撃が襲ってくる。

窓もドアも開かないので、窓にはりついて下を見る。地面までの高さは3メートルぐらいだろうか。変な落ち方をしなければ怪我はしないと思う。

だが、そこに、機械を寄せ集めた柱みたいなのが立っているのだ。

「わ!?」

そして、下を見ていると、また椅子が揺れ出し、柱が動いた。その様は、何かが歩いているようだ。

「・・・・・・歩く?ってことはこれは足か?」

「ピンポーン。ロボに変形してみましたー♪」

どうやら、俺たちの乗っていたリムジンが、どういうわけか人間型ロボットに変形したようだ。俺たちが今いるのは、その胴体にあたるところらしい。

「お前はト○ンス○ォーマーかっ!」

「またまたぁ。マサっちは男の子だから、こういうのは嫌いじゃないでしょ?」

「まあ確かに変形ロボットは大好物だけどっ!」

「だったら楽しまないと損じゃん。ほら、進むからスマイルスマイル!」

そう言うと同時に、また座席が揺れてずしんという振動がおそいかかり、舌を噛まない為にも黙らざるを得なくなる。

人型ロボットに乗って運ばれるという、ロボアニメ大好きな連中とかロボット工学博士とかが泡吹いてのた打ち回りながら喜びそうな体験の後、俺はそのロボットの手にぶら下がって庭の一角に降ろされた。

外に出て改めてリムジンから変形したロボットの全体像を見たが、全長が5メートルぐらいありそうなそのフォームがかなりロボアニメのそれっぽかったのは、驚きを通り越してちょっと笑ってしまった。ちょうど胸の辺りに運転席のフロントガラスがあり、そのむこうでメルの奴が手を振っている。そしてその下あたりに自動車のヘッドライトやフロントグリルやバンパーが見えて、もとは車だな、というのが伺える。

なんというか、二代に仕えることになった擬人って、(まだ2人目だが)想像以上にぶっ飛んだ能力の持ち主が揃っているような気がする。

こんな連中、本当にコントロールできるんだろうか。

俺は、今後のことがすごーく不安になってしまった。

どうも、作者です。

またも新キャラ、「ひとりモーターショー」メルセデスの登場です。

トランスフォーマーネタなのは、DVDで見た時に思いついたからです。


もう少し新しいのが出てきますので、全員揃うまで待ってください。

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