15.とうとう来ました西園寺本家 その6
明かりが灯ってやっと判ったんだが、この廊下には赤い絨毯が敷かれている。小学校の頃、社会科見学で国会議事堂を見学したことがあるが、あれを思い出してしまう。
その廊下を小走りしてアインシュタインに追いつくと、その爺さんは廊下の突き当たりにある扉の前で立ち止まった。
がちゃりとノブを回す音がした後、爺さんの前のドアが音も無く開く。
「どうぞ」
アインシュタインっぽい執事さんは、開いたドアの横に立つと、また丁寧に頭を下げて来た。
促されるまま中に入ってみると、そこは応接間のようだった。応接間と言っても、二十畳ぐらいありそうなその部屋には、品が良く年季の入ったテーブルや調度品が置かれ、俺らが今まで住んでいた家のリビングとは比べ物にならないほど高級な雰囲気がしている。
「アイヤー、この壷高そうアルなー!」
「My goddess、このtable、made at 1862とあるデース」
「むむむ、これだけ広い屋敷なのに、塵ひとつ落ちていないのでしょう」
「本当ですねぇ。舐めてみたくなりますぅ」
「止めなさい、そんなにおなかがすいているの?」
「あたしは腹ぁ減ってるぜ。なにしろまだメシ食ってねぇしよ」
「うわぁ、いい眺めー!写真撮っちゃお♪」
「うむ、今日は天気も良いし、絶好の飛行日和だな!」
「ふむ、ならばわらわをその背に乗せてくれぬか。楽しそうじゃ」
部屋の中に入ったモノたちは、みんなしてはしゃいでいる。女三人よればかしましいと言うが、今はそれがトータルで10人もいるのだ。騒がしくもなるだろう。
だが、部屋の雰囲気はそれでも揺らがない高級感に溢れていて、何となく居心地が悪く、つい部屋の中をきょろきょろと見てしまう。
その時、俺はその部屋の奥のほうに、1枚の絵が飾られているのに気がついた。
それは、華やかな色使いのドレスを着て、椅子に腰掛けた女の人を描いた肖像画だった。肌は白く、黒い髪をアップにしてまとめ、穏やかな笑顔を浮かべている、どことなく気品を感じさせる若い女性だ。背景は暗くてほとんど判らないが、それだけにこの女性の姿が目立つ。
だが、なぜか俺は、この肖像画の人を、どこかで見たような気がしていた。そんなこと、あるはずないのに、だ。
「常盤さ・・・・・・」
やっぱり気になるので、常盤さんにこの人が誰かを聞いてみようとした、その時だった。
「将仁・・・・・・」
俺は、誰かに呼ばれたような気がした。
振り向くが、誰もいない。それに、今の声には、聞き覚えがない。
「どしたの?」
不思議そうな顔をしながら、さっきまで写真を撮りまくっていたケイが小走りで駆け寄って来た。
「ん、いや、誰か呼んだかなと思って」
「?ケイは呼んでないよ?」
「こちらです。あなたの後ろ」
すると今度は、俺の後ろから声が聞こえた。
振り向くと、そこにはさっきまで見ていた肖像画があった。
「・・・・・・まさか」
嫌な予感がする。描かれた絵が喋る、世にも珍しい呪われた絵とでも言うんだろうか。
今時、呪いなんかあるわけがねぇと言いたいが、生憎、この部屋でかしましくしているのは1人残らずそのありえねぇものに近い存在なのだ。
だが。
「はい、私が、呼びました。将仁」
俺が見ている目の前で、絵の口元が、明らかに、動いた。