15.とうとう来ました西園寺本家 その5
やがて、鹿鳴館みたいな建物の前に、俺たちの乗った車が横付けされる。
「到着致しました」
運転手が座席から微動だにせずそう告げる、それと同時に、リムジンのドアががちゃりと自動的に開いた。
車から降りると、目の前に両開きの大きくて重厚なドアが俺たちをさえぎるように立ちふさがっている。どっかの歴史博物館みたいだ。
常盤さんがそのドアに備えられた大きなノッカーに手をかけ、2度打ち鳴らす。
がんっ、がんっ、と、ドアの雰囲気に違わない重厚な音が響く。
すると、ガコンという鍵が開くような音が鳴り響き、そのドアが、ゆっくりと音も無く開き始めた。
「なんか、ずいぶんと勿体つけた感じだな」
ちょっと失礼かもしれない言葉が、つい口から出てしまう。そして、何が出てくるのか判らないからか、無意識のうちに俺はモノたちと身を寄せ合ってしまう。
だが、そのご大層な開き方をしたドアのむこうにいたのは、執事っぽい黒い礼服を着込んだ、アインシュタインみたいな感じの爺さんが1人だけだった。
「ようこそ、お待ちしておりました」
その爺さんは、入ってきた俺達に向かって深々とお辞儀をして来た。
「久しぶりですね」
どう反応したらよいのか、俺らが困っていると、常盤さんがすっと進み出る。
「はい、常盤様」
常盤さんが声をかけると、アインシュタインはどことなく無機質な声でそれだけ答えた。
ふとまわりを見回すが、家の中は薄暗く、人の気配がない。こういうお屋敷だと、客人を迎える際には使用人とかがずらーっと並んでいるイメージがあるので、1人だけだと、がらーんとしてすごく寂しい感じがする。
「そちらの方が、我らの新たな主ですか」
「ええ。真田将仁、改め西園寺将仁さんです」
常盤さんがそう告げると、アインシュタインは数歩俺に近づいて、俺の顔をじっと見つめた。
何となく、生気のない目だ。そう思うと、動きにも生気がないような気がする。
もしかしたら、この人も何かの擬人化なんだろうか。そんなことを考える。
「よ、よろしく」
「承知いたしました。それでは将仁様。中に御案内いたします」
そんなことを考えていると、アインシュタインはすっと俺から離れ、そう言って頭を下げた。
そして、機械仕掛けのような動きで横に向くと、薄暗い廊下を奥へと歩き始める。
「・・・・・・なんだ、ありゃ」
「なんだか、変な感じのおじいちゃんだね」
ずいぶんと人間らしくない振る舞いにあっけに取られていると、俺にしがみついていたケイがそんなことを口にする。
見ていると、自動照明なんだろうか、その爺さんが進むのとほぼ同じタイミングで、廊下の照明が点灯していく。だが、俺らが立ち往生してしまっているのには気付いていないのか、止まる様子も無ければ、振り返る様子もない。
「さ、行きましょう。他にも、会わせたい方がいますから」
常盤さんに促され、俺たちは群れになったまま、すでに小さくなり始めたアインシュタインの後を追いかけはじめた。




