15.とうとう来ました西園寺本家 その1
9月28日
ぶぅーん、ききーっ。
2週間しないうちに半壊してしまった我が家の門の前に、ぴっかぴかの黒塗りの長い高級車が現れた。一般的にリムジンと呼ばれるアレだ。そしてボンネットの先についているのは丸を3等分した、ドイツの高級車のエンブレム。
「すっげ・・・・・・」
俺には縁がない世界のものを目にした俺は、なんとかそれだけ口にした。
そのリムジンは、門の前をゆっくりと横切って行き、門の前にドアが来た所で音もなくぴたっと止まった。そして、こちらから手を掛ける前に、がちゃりと音を立ててドアが開いた。
すごいな、自動ドアかい。
「どうぞ」
中から、低い男の声が聞こえた。
「さ、将仁さん、どうぞ」
常盤さんがそのドアの横に立って手を差し入れる。
「え、えーと、じゃ、その、おじゃましまーす」
高級車の雰囲気に圧倒されながら、俺はリムジンの中に脚を踏み入れた。
そして、中がまた凄かった。窓全部にスモークが掛かっていたため外からはほとんど見えなかったのだが、中は真っ白いソファが窓際に並んでいて、カウンターバーみたいなものもあって、テレビとかでよく見る高級クラブみたいな感じなのだ。
どうも落ち着かずに中をきょろきょろとしていると、前のほうに運転席が見えて、そこに運転手らしき人が座っているのが見えた。
近づいてみると、かなり年配なその運転手の人は、つばつきの白い帽子を目深に被り、紺色の背広を着て、白い手袋を手にはめて、まさにお抱えの運転手という感じだった。
さすがこんなにすごい車ともなると、専用の運転手つきなんだなーと思ったんだが、俺はそこになんとなくだが違和感を持った。
その理由は、間もなく判った。その運転手は、全く動かないのだ。
「え、えーと、運転手さん」
「はい」
「これから向かう屋敷って、どのぐらいかかります?」
「この時間帯であれば、3時間ほどで到着致します」
声をかけると、運転手の人はしわがれた声で返事をする。しかし、こちらを向くこともしなければ、ハンドルから手を動かすこともしない。
まさか、ロボットじゃあるまいな。
「ねねね、どうしたの、お兄ちゃん?」
いぶかしんでいると、ケイが後ろからのしかかって声をかけてきた。
「ん、いや」
変なことを言って不安がらせるのは止めとこう。
でも、一応、俺は西園寺の最後の頭首なんだからもうちょっと愛想よくしても・・・・・・
そこまで考えて、はたと思い当たった。
もしかして、この人は、擬人化なのかもしれない、と。
確か常盤さんは、先代・西園寺静香が生み出した擬人化は、人の姿はしているが、命令されたことしかしないロボットのような存在だ、と言っていた。そうだとすると、必要以上に動かないのもわからなくは無い。
まあ、運転中に余所見して事故られるよりはましだが、それでも”個性豊かな“擬人化に囲まれての生活に慣れた身としてはいささか寂しく感じてしまう。
「うっわ、こりゃすっげぇや」
「まさか私がリムジンに乗る日が来るなんて、思いもしなかったのでしょう」
「あら、これ、冷蔵庫かと思ったらワインセラーなのね」
「のうレイカ、わらわは醍醐が欲しいのじゃ」
「貴様、朝餉を済ませたばかりだというのにもう空腹を訴えるのか?」
「Maybe魅尾はgrowing_childなのデースネー。ヨーシヨーシ」
「これだけ広いとぉ、掃除のし甲斐がありそうですねぇ」
「クリンサン、ココ水浸しにしたら怒られると思うアルよ?」
だが、感慨にふける間もなく、その“個性的な”連中が乗り込んできて、リムジンの中はあっというまに狭くなっていた。
ふと、窓から外を見る。スモークがかかっているので少々見づらいが、そこには制服を着た鏡介が立っていた。
「鏡介!」
俺は、一度車を出ると、俺の身代わりとして学校に行くことになった鏡介に声をかけた。
「悪いな、俺の我侭につき合わせちまって」
鏡介には、また影武者をしてもらい、迷惑をかけていると思う。
すると、鏡介は平然としてこう答えた。
「そんな、気にすることないッスよ。俺も、将仁さんが通う学校には興味がありましたし、助け舟も色々出してもらえるんですから。それに、西園寺のお屋敷にも鏡の1枚や2枚あるでしょ」
そして、鏡介は俺を回れ右させると、背中を押して車の中に押し込んだ。
「将仁さんは、しっかりと自分のすることをやってください。それこそ、将仁さんにしかできないことなんですから」
そして、リムジンのドアがバタンと閉められる。
「では、出発してください」
常盤さんの号令と共に、鏡介が見送る中、俺らが乗ったリムジンは静かに走り出した。
どうも、作者です。
長らく間をあけてしまいましたが、ようやくもののけがいっぱいの新作が投稿できるようになりました。
メインステージが変わったということで、新しい登場人物がいっぱいいます。
どんなのが出てくるか、想像しながら待っていてください。