14.もののけ全面戦争 その29
「お待たせー!」
「よいしょー!」
庭に引っ張り出したテーブルに、紅娘とケイが二人がかりで持ってきた中華鍋がどすんと載せられた。鍋の中には、なみなみと入った白濁したスープが湯気を立てている。
匂いからすると鶏がらスープっぽいが、なんか違う匂いもする。何のスープなんだろう。と見ているそばからそのスープがぐらぐらと煮えだす。そりゃそうだ、この鍋、紅娘の分身というか本体だからな。
「はい、具材。好きなのを各自で入れなさい。足りない人は言いなさい」
そこに、ザルに山盛りになった野菜類を抱えてレイカがやってくる。確か炎雀戦でナスとかトマトとかをぶつけて火の玉を消すなんてことをやっていたが、全部使ったわけじゃなかったらしい。
「肉はないのか?」
そのザルを見てヒビキが不満な声を上げる。
「それじゃ、これでも入れる?」
それに応えてレイカが袖の中から出したのは、霜がびっしりついた白いビニール袋。
中には、白くて半月形の物体が業務用冷凍食品のごとくいっぱい入っている。
それは、何日か前にみんなで食べた餃子だった。みんなしてあれだけ食ったのに、まだそんなに残っていたのか。
そしてそれ以上に、色々なものを着物の中に持ったままであれだけの機動力を発揮するとは、実はレイカって物凄い体力の持ち主なのかも。あの着物が実は某マンガの猫型ロボットが腹につけている四次元ポケットみたいなものなのかもしれないが。
まあそれはともかくとして。
火が無いのにぐつぐつと煮える鍋に色々な具財が投入され、それが煮え始めると、かなり遅くなってしまったがようやく夕食が始まる。
椅子は無い。過激派もどきと兄貴がバトった時にいくつかぶっ壊されたせいで全員が座れなくなってしまったためだ。ついでに言うと、みんなが使う器や箸なんかは、レイカと炎雀と紅娘がバトった余波でぜーんぶダメになったので、近くのコンビニで買ってきた使い捨てのやつに変わっている。
「なんだこれは?」
「さつまあげよ。見てわかるでしょ?」
「そうではない、この汁にさつまあげは合わないと言ったのだ」
「ミーはfeel yummyデースけどネー?」
「お、この餃子、ゆだったかな?」
「さっき入れたばかりでしょう、ヒビキさんったら食い意地ばかりはって」
「大根おろしぃ、投入しまぁす」
「そんなに一気に入れたらタメアル、湯がぬるくなるアル」
「えぇー?こぉんなに煮立ってますけどぉ」
「ワタシが大変アル!鍋の温度上けてるのワタシアルから!」
「なんどすか、これ?マロニーか思たけど」
「マロニーとは何でしょう?これはしらたきというものでしょう」
「しらたき?なんや風情のある名どすなぁ」
「ふーふー、はいお兄ちゃん、あーん」
「あむ!?あっひいいいいいいい!」
「元気でいいッスねぇ。お、豆腐がいい感じで煮えてる」
「麺類を何か入れて食べたい味でしょう」
「ああ、最近はシメにラーメンの麺入れて食うところが増えてるらしいッスよ」
「残念ながら、ラーメンの麺は切らせているのよ。ラーメン好きの常盤さんには申し訳ないけれど、うどんで我慢して」
「我慢だなんて、麺類なら私は何でも好物ですよ」
さっきまで殺すか殺されるかといったやり取りをしていたとは思えないほど、穏やかで賑やかな雰囲気の中、鍋パーティーが始まった。その中に、さっきまで敵の総大将だったはずの杏寿まで混じっているのを見ると「何でお前がいるんだ」と突っ込みたくもなるが、そうすると「野暮だ」とりゅう兄に笑われそうなので我慢しておく。
ちなみに、杏寿の式神たちは、みんな送還されてここにはいない。それから過激派もどきの連中は、みんなふんじばられて庭の隅に転がされている。飯も食わせてもらえないとは、敗残兵の扱いというのは無残なものだ。
それはともかくとして。
「常盤さん、明日、やっぱり、屋敷には行かなきゃ駄目ですよねぇ」
シメのうどんをすすりながら、俺は常盤さんに質問していた。
明日の朝、西園寺の本家から、迎えが来るよう常盤さんが段取っていたからだ。
個人的には、本家の屋敷に行くのは構わない。構わないどころか是非行ってみたいんだが、朝から行くってぇのが問題だ。
なにしろ明日は木曜日、学校はちゃんとある。しかも学園祭2日前だから、準備のほうもかなり大詰めになる。それを、ぴんぴんしているのに休むというのは申し訳ないような気がするし、さらに言えば授業の皆勤賞が取れなくなってしまうことが個人的に悔しい。
だが、こういうときの顔合わせとかで本人が行かないのは、失礼に当たるような気がする。実際に俺がそれをやられたら、どういうつもりだと文句のひとつもいいたくなるだろう。
「そうですね。法律上は問題ありませんが、これから共に暮らすわけですから、良い心情を与えておいたほうが良いのではないでしょうか」
常盤さんは、予想通りそう答える。
まあ正直、常盤さんが会わせたいと言った人がどんな人なのか、それが知りたいというのもある。
だがそうなると、やっぱり気になるのが学校だ。
「あー、どうすっかなぁ」
頭を抱えてしまう。サボるのは嫌いじゃないが、サボった後のしっぺ返しは大嫌いだ。あーくそ、体が2つあればなぁ、なんてことを考えてしまう。
「えーと、将仁さん?」
そうやって頭を抱えていると、鏡介が話しかけてきた。
その鏡介を見て思いついたのが、鏡介に身代わりになってもらうことだった。少なくとも外見は俺とほとんど同じだし、声に至っては全く同じだ。
「良かったら、明日は俺が学校に行きましょうか?」
そして。鏡介は俺の考えを読んだようにそう提案してくる。
渡りに船、と思ったのだが、そこでちょっと躊躇してしまう。
この前、クローディアの家であったパーティーに身代わりで行ってもらったときは、その場に居合わせた迅にあっさり見抜かれた(迅がすごすぎるのかもしれないが)から、意外と通じないのかもしれない。特に学校の場合、ほぼ毎日面を合わせている連中だから、入れ替わったことにもすぐ気付かれそうだ。
そうなると、最終的には学校にもばれるし、内申書にも・・・・・・
「どうでしょうか?」
「うちは構いまへん。そもそもそうなるきっかけを作ってしもたんはうちどすし」
「そいつは心強いッスね」
なんてなことを考えていると、常盤さんと鏡介が杏寿と何か話をしている。
「ね~お兄ちゃ~ん、明日一緒にお屋敷に行こうよ~ぉ」
「I think soデース。Masterがnew houseにnot aliveはno goodデース」
その一方で、モノたちは俺が一緒に西園寺の屋敷に行くことを望んでいるっぽい。
「だって、西園寺家の頭首はまさしく将仁さんでしょう?私たちみたいな取り巻きだけが行っても、むこうにいる方々はいい気はされないのでしょう」
テルミにはっきりそういわれると、そうのような気もする。取り巻きって言い方はあんまりのような気もするが。
「心配は要りまへんて、明日のことどしたらうちも学校で援護しますよって」
「それに、事情をお話しすれば、徳大寺様も助けてくださるでしょうし」
と思ったら、いつのまにかそういう話が出来上がっている。おい、俺の意思は無視かい。
「だぁってぇ、将仁さんに任せておいたらぁ、いっつまでも答え出さなそうなんですものぉ」
「だっ、お、俺だって、俺なりに考えてだな」
「考えても意見はまとまらぬのであろう。だから我々で決めてやっただけのこと」
「そもそも両立できねぇ話なんだろ?だったらどっちかにするしかねぇだろ」
どうやら、俺が西園寺の屋敷に行くのは決定事項のようだ。こいつらはそんなに新しい家に興味があるのか。
まあ、俺も興味はあるわけだから、それでいくことにするか。
そう決めてしまうと。気が楽になった。
そして、どうやって引越しの準備をするか、ということに頭を切り替えることにした。
どうも、作者です。
今回で、かなり長かったですがその14もののけ全面戦争は終了です。
全面戦争と言いながら、一対一のバトルがメインになってしまいましたがいかがでしたでしょうか。
というわけで、これからしばらく、また書き溜めに入りたいと思います。
もしご感想などありましたら遠慮なく下さいませ。
それでは。