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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
14.もののけ全面戦争
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14.もののけ全面戦争 その24

同じ頃、2階の将仁の部屋では、1人の青年と、鎧を着た青い髪の女が、互いに息を切らせて対峙していた。いわずもがな、鏡介と龍樹である。

2人は完全に膠着状態になっていた。龍樹の攻撃はそのほとんどが鏡介のバリアで防がれてほとんど効果を上げていない。また鏡介からも反撃に移るチャンスを見つけられないでいる。

特に、龍樹が繰り出す攻撃は、先に見せた剣や電撃によるものだけでなく、窓の外から入り込んだ蔓までが鞭のような攻撃をしたり槍のように突いてきたりしてさらに多様に、そして激しくなっているのだ。

今は持ちこたえているが、なにしろ実戦でバリアを使うのは今回が初めてなので、どの程度まで持ちこたえられるのかは鏡介本人にも判らない。しかも、以外に体力を消耗するのだ。

と、その時。

不意に、龍樹の攻撃が止んだ。甲冑の上からでも肩が上下している。ラッシュをかけて息が上がったのだろうか。

バリアを張り続けた鏡介も消耗している。だが、待ちに待った反撃のチャンスに、彼の体は素早く反応していた。

「ぅおらあああっ!」

バリアを解除すると同時に、気合一閃、左手をすくい上げるように振りぬく。その手に白い光が宿り、龍樹のいた空間を切り裂く。

「ちっ!」

舌打ちした龍樹がバックステップを踏む。背後から蔓に持ち上げられた龍樹の体は、ワイヤーアクションのような動きで窓をくぐり、ベランダにまで後退する。

「待て!」

それを追って鏡介が駆け出す。その両手にはすでに追撃用の光が灯っている。

だが、その時。

「かかったな!」

突然、龍樹がそう叫び、剣を持っていない手を振り上げた。

すると、龍樹の攻撃が止むと同時におとなしくなっていた蔓が、いっせいに動き出したのだ。

その蔓は、それぞれがまるで意思を持っているかのようにいっせいに鏡介の手足に襲い掛かり、絡みつく。そして瞬く間に、鏡介の手足は無数の蔓に絡み取られてしまった。

その鏡介をさらに動けなくするため、胴体や首にもまるでヘビのように蔓がからみついていく。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・」

その鏡介の近くへ、肩で息をしながら、龍樹が近よっていく。

「か、鏡の、分際で、この、龍樹を、ここまで、追い詰めるとは、大した奴だ」

そして、余裕を見せるように、鏡介の目の前で息を整える。

「くそっ、この、ちっくしょう、こんなのありかよ!」

「ふん、兵は詭道なりだ。恨むなら、私の計略が見破れなかった、貴様の迂闊さを恨むのだな」

「くそおおおぉぉぉ!はずせええええええっ!ぬおおおおおおおっ!」

鏡介が、自分の手を絡め取っている蔓を引きちぎろうとするが、びくともしない。

「本来の仕事を済ませたら、好きなだけ相手をしてやろう。それまでおとなしくしていろ」

そして、剣を収めた龍樹が、鏡介が守っていた扉に目を向ける。

その時だ。

ばんっ!

そのドアが、それごと吹き飛ばしそうな勢いで開いた。

ドアのむこうには、黒い人影が立っていた。本当に蹴破ったらしく、片方の膝を上げ、フラミンゴのように片足で立っている。

よく見ると、それはメイド服の上から黒いマントを羽織った、黒ぶちの四角い眼鏡をした女だった。だがその眼鏡の奥の目は、顔つきに合わない冷たさを帯びている。

そのメイドの体がすっと傾く。

「シュ!」

その直後。そのメイドは一瞬で龍樹のすぐそばまで間合いを詰めると、マントの陰に隠れていた片手を何のためらいも無く振り上げた。

「!?」

龍樹がとっさに体を後ろに倒した直後、ヒュ、という空を切る音と、銀色に鋭く光る何かが、目の前を通過していく。

それは、刃渡り20センチはある大きなサバイバルナイフだった。しかもそのメイドは、ナイフを両手に持っている。

突然、そのテルミの体がふわっと浮き上がった。

「がッ!?」

その直後、側頭部に丸太か何かで殴られたような衝撃が走り、龍樹の体がなぎ倒された。信じられないことに、テルミはメイド服にマントを羽織るという動きづらい格好で、旋風脚を繰り出したのだ。

もんどりうった龍樹は、そのまま本棚にボディプレスをかましてから床に叩きつけられる。さらにその上から本棚が倒れ、龍樹は本棚の下敷きになってしまった。

「ふうっ」

片やテルミのほうは、何事もなかったようにさっきまでいた所に立っている。

「き、貴様、何者だ?」

本棚の下敷きになったまま、龍樹がいきなり現れたメイドに声をかける。

「当家に仕えるただのメイドです」

テルミは、ナイフを持ったまま平然とメイド立ちをして答える。声の調子も非常に事務的だが、その目だけが非常に挑発的だ。

「ふざけるな!」

激昂した龍樹が、本棚を跳ね飛ばすと指先から電撃を放つ。

だが、その時にはすでにテルミの姿はなかった。

気合と共に黒いマントを翻して横に跳ぶと、サーカスの軽業師もかくやという身のこなしで壁を走るように蹴り、そして両手両足をからめ取られた鏡介の前に降り立ったのだ。

ぶつっ、ぶつっ!

そして、2度空を切る音がしたかと思うと、鏡介の両腕を縛っていた蔓が切断された。

「ありがてえ!」

やっと腕が動くようになった鏡介が、自分の腕に残った蔓をむしり取りながら、感謝の言葉を述べる。

テルミはそれに答えることもせず、流れるような動きで振り向きざま龍樹に切りかかる。

テルミの持つナイフの切っ先が、龍樹の鎧をかすめる。当たった証拠に、鎧の表面に一筋の傷が走った。

「くっ、貴様っ!」

バランスを崩しかけた龍樹が、数歩離れたところで何とか体勢を立て直し、剣を振り上げる。

すると再び、部屋に侵入していた蔓が動き出す。次はテルミを捕らえようというのだ。

だが、今度はその動きが異常に鈍い。いや、鈍いと言うより、瀕死の状態でもがいている、と言ったほうが良いかもしれない。

「どうなっている!?」

「ふふっ、やっと効いて参りましたね」

あせりの表情を浮かべる龍樹に、眼鏡を軽く突き上げたテルミが答える。

「上に来る前に、除草剤を根元に撒いて来たのです。これほど急速に成長する植物ですから、効果もすぐに現れるはず」

そして、テルミは挑発的な笑みを浮かべる。

「くっ、おのれえええええ!」

怒りの声を上げた龍樹の全身を、稲妻のようなスパークが駆け巡る。

「散れえええええええええぇぇぇ!」

そして、怒号と同時にその電撃を一斉に周囲に放った。

バリバリバリッ!という音と共に、部屋中に青白い稲妻が撒き散らされる。一斉に放たれた電撃は、まるで巨大な龍がのたうち回るように部屋の中にあるおよそ全てのものに命中し、ベッドの上に放置された夏掛けや床に散らばった本、いう事を聞かない蔓草などを次々と焼き切っていく。

「・・・っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・」

やがてその雷光が収まった直後、龍樹は力尽きたように膝をついた。息をかなり切らせており、相当消耗したことが伺える。

だが、顔を上げて結果を見たとき。龍樹は、信じられない光景を目にした。

ぼんやり光るガラスのような壁が、見えたからだ。さらにそのむこうには、両の手のひらをこちらに向けて立つ男と、メイド服に黒いマントを羽織った女の姿が見える。

「残念だったな」

その声と同時に、鏡介がバリアを解除する。壁が、光の粒となって消えた。

忌々しげに表情をゆがめながら、龍樹が剣を支えにして立ち上がる。だがその足元はふらついている。

「おのれ、2人がかりとは、卑怯な奴らめ」

だが、胸元に手を水平に構えた鏡介は、にやりと笑うとこう言い返した。

「兵は詭道なんだろ?その言葉、そっくり返すぜぇっ!」

そして、鏡介は気合と共にその両手を前に突き出した。

その腕を包むように伸びた二筋の白い光の帯が、龍樹に突き立てられる。

龍樹に、抵抗する体力はもう無かった。

「うわあああっ!!」

光線を喰らった龍樹は窓の外に吹き飛ばされ、窓の外に密集していた蔓植物のジャングルにその体をめり込ませた。

その直後。ジャングルのように生い茂っていた蔓草の壁がぐらりと揺らぐと、龍樹を巻き込んだまま、力なく階下へと崩れて行った。

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

さすがに疲れたのか、鏡介がそこにへたりこみ、天井を仰いだ。

「お疲れ様。大変だったでしょう」

後ろから、テルミが声をかけてくる。

「いや、こっちこそ助かったよ。テルミさんが来てくれなきゃ手も足も出なかった」

そして鏡介はひとつ大きく息を吐いた。

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