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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
14.もののけ全面戦争
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14.もののけ全面戦争 その22

「ぐあっ!」

ヒビキの体が、天井に叩きつけられ、そしてその反動で床に叩きつけられる。満身創痍のその体は、いまやボロボロと言っても差支えがない。

「へっ、さっきまでの威勢はどうしたんだい?」

法被姿の大女、虎鉄がヒビキのほうを向き、手招きと共に挑発的な声をかける。こちらも満身創痍ではあるが、その立ち姿にはまだ若干の余裕が見て取れる。

「くっ・・・・・・そおっ」

一方のヒビキは、苦悶の表情を浮かべながら、気力をふりしぼって立ち上がる。その様子には余裕が無い。目はあきらめてはいないが、勝負は誰が見ても明らかだ。

そのヒビキに、虎鉄は大またで歩み寄り、そしてつかみかかる。

虎鉄がヒビキの襟元を両手でむんずとつかむ。お返しとばかりにヒビキが虎鉄の襟元をつかむが、さっきまでの力は無くなっている。

「作り物の分際であたいに挑んだその度胸と、あたいにこんだけ食い下がったことは褒めてやる」

そして、若干の余裕を見せた虎鉄が、腕に力を入れる。すると、ヒビキの体が少しずつ浮き上がり、ついには足も床から離れて宙吊りになった。

ヒビキの顔に、今まで見たことが無い苦悶の表情が浮かぶ。

「ほら、どうするんだい。負けを認めりゃあ、ぶっ壊すのは勘弁してやるぜ」

虎鉄が、ネックハンギングツリーでヒビキの首を締め上げる。

「・・・・・・随分、余裕見せてくれるじゃないかい」

その時、ヒビキがか細い声を吐き出した。

「ん?」

いぶかしがる虎鉄を前に、ヒビキは自分を吊り上げる虎鉄の手首を掴むと、それにぐっと力を込めた。

虎鉄の腕はほとんど動かないものの、指が少しだけ開き、ヒビキを締め上げる力が緩んだ。そして、重い観音開きの扉をこじ開けるように、虎鉄の腕を少しずつ開いていく。

まだ、これだけの力が残っていたのかと、虎鉄は感心する。

そして、虎鉄の手がヒビキの首から外れた瞬間。ヒビキは、首を動かし、虎鉄を正面から睨みつけてにやりと口元を歪ませた。

「ひとつ、教えてやる。切り札ってのは、最後まで取っておくもんだ」

「なんだと?」

さっきまであれだけ追い詰められていた奴のものとは思えないその台詞に、虎鉄が返事をした、その瞬間。

「んくっ、ごはあぁっ!」

一瞬えずいたヒビキが、腹から搾り出すような声と共に、何かを口から吐き出した。

「うわわわわあああっ!?」

それは、そのまま虎鉄の頭にばしゃっと命中する。

「てめええええっ!」

それで頭に血がのぼったのか。虎鉄はヒビキを思い切り振りかぶると、全力でぶん投げた。

ヒビキの体がゴム鞠のように弾んで転がり、数メートル先の壁に叩きつけられる。

「ったくあのクソアマ、なんてことしてくれ・・・・・・」

一方の虎鉄は、ヒビキのことなど眼中にないように自分に吐きかけられたものを両手で必死に拭おうとする。だが、その手がふと止まった。

その場に到底ふさわしくない刺激臭を、彼女の鼻が感じ取ったからだ。水でも、アルコールでも、ましてや胃液でもない、揮発性の油の匂い。

「やっと気がつきやがったね」

顔を上げると、そこにヒビキが立っていた。

「そいつはガソリンだ。あたしは元バイク、エンジンを回すにゃガソリンは必須だろ」

そう。ヒビキが虎鉄に吐きかけたものは、ガソリンだったのだ。

「あんた、火が苦手なんだってなぁ。ガソリンはよーく燃えるぜ?」

「!」

その一言に、虎鉄が一瞬身を固くした、その直後。

「おらぁっ!」

ヒビキが、虎鉄に向かって全力で飛び出した。

「げふっ!?」

そしてそのまま、虎鉄に渾身のラリアートを叩き込む。完全に不意を突かれた虎鉄は、そのままひっくりかえり、床に仰向けに転がされる。

「今だ!魅尾!」

すかさず、腕を押さえたヒビキが、振り絞るような声を上げた。

「承知じゃ!」

すると、いつからそこにいたのか、階段の上から廊下を覗いた、真っ白な髪に狐のような耳と尻尾を生やした子供が、ふっと、何か光るものを口から吐き出した。

それは、マッチの火程度ではあるが、立派な火の玉だった。それが、まっすぐ、虎鉄めがけて飛んでいく。

虎鉄は、あわてて体を起こしたが、その火の玉は虎鉄を追いかけるように軌道を曲げ飛んでいく。

そして。

「うぎゃあああああああああああああああああああ!」

虎鉄の頭を、オレンジ色の炎が包み込んだ。

「あああああああああああああああああ!」

虎鉄は、その火を消そうとしているのか、廊下をのた打ち回る。だがガソリンに点いた火はそう簡単には消えてくれない。

そして、耐え切れなくなった虎鉄は、外に飛び出すと地面の上をのた打ち回った。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

それを複雑なまなざしで見つめていたヒビキだったが、すでに立つ気力もないようだ。

だがそれでも、自分が勝ったということを証明するため、右手を高々と上げた。

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