14.もののけ全面戦争 その21
常盤さんが去って、どのぐらい経ったのだろうか。
「お兄ちゃんっ!」
「将仁さんっ!」
「将仁サン!」
聞き覚えのある声がした。
見ると、家の陰から、外出していたケイとテルミ、そして紅娘が飛び出してこっちに駆け寄ってくるところだった。
「お前ら!」
つい嬉しくて叫んでしまう。
「何があったのでしょう!?」
いち早く駆け寄ってきたテルミがそう問いかける。
「わ、わからんが、何者かが俺の命を狙いに来た」
そして、俺が帰ってから今まであったことをかいつまんで話す。細かい話をしなくても、目の前でシデンが黄色い女とドンパチやっているので判ってくれると思う。
「厨房荒らすなんてゆるさんアル!」
それに真っ先に立ち上がったのは紅娘だった。
「引導渡してやるアルーッ!」
そして土足のままでバルコニーからリビングへ駆け上がると、鍋とお玉を振りかざしながら走り去って行った。
「では、私も」
それを見たテルミが、すっと立ち上がる。と、眼鏡の中が一瞬砂嵐に変わり、それが収まった瞬間、テルミの目つきがすっと鋭くなった。
テルミの得意技、超なりきりを使ったらしい。
だが、驚いたのはその手に持っていたものだ。それは、銃刀法違反になりそうなほどに大きなサバイバルナイフだったのだ。しかも両手に一振りずつの二刀流でだ。そんなもん、なんで持っているんだ。
と聞く間もなく、奇声を上げたテルミは、その2つのナイフを振りかざしながら、こっちは裏庭のほうへと飛び出していった。
後に残されたのは、あっけに取られたケイと俺だ。
だが、ぼけっとする暇はなかった。直後、ドゴンッという音と共に、玄関横の壁をぶち破って、何かが庭に飛び出したからだ。
「んなろぉっ!」
それは、ヒビキだった。ヒビキはすぐさま起き上がって壁の穴の中に駆け込んでいったが、そのほんの少しの間でも、ヒビキが結構なダメージを受けているのは見て取れた。
あのヒビキが、力のぶつかり合いで押されている。これはピンチなのではないだろうか。
ふと前を見ると、シデンと黄色い女の攻防がまだ続いている。こっちも、シデンが回避に専念して撃墜を免れているようで、攻撃の回数もさっきより少なくなっているように感じられる。
もしかして、俺たちは押されているのだろうか。少なくとも、目に入る中で互角以上にやっているのは、過激派もどきとバトルするりゅう兄だけだ。しかもそれもさっきほどには余裕はない様に見える。さっき見た限りでは、レイカも鏡介も互角だったが、今どうなっているかは判らない。
「ど、どうしよう、どうしよう」
そして、俺の横には、しっかりとしがみついてくるケイがいる。無理もない。ケイには、直接バトルする能力なんぞこれっぽっちもない。あえて言えばテレパシーで精神集中を邪魔させるぐらいか。だがそのせいで矛先がケイに向いたら非常にまずい。それに、ケイのアレはラジオで周波数を合わせるようにチューニングしないといけないらしい。(初めてのテレパシーの時は、ある程度の幅を持たせていたため複数同時に確認できたが、あれだと関係ない人にも感じられてしまうらしい)
「・・・・・・ん、待てよ」
だが、そこでひとつ、思いついたことがあった。
「ケイ」
俺は、俺にしがみついて震えているケイに声をかけた。
「お前、うちのモノたちに、個別でテレパシー飛ばすことはできるか!?」
すると、ケイはがたがた震えながらもこくこくと頷いた。
「よし、じゃあ、ヒビキに伝えるんだ。金気は火気に弱い、お前が相手しているやつの弱点は火だってな」
そう。りゅう兄の戦っている過激派と、常盤さんが戦っている何かはちょっと判らないが、それ以外の連中はこの前教わった“五行”に色々と沿っている。つまり明確な弱点がある。
誰がどんな奴を相手しているのかは大体判る。そいつらに、弱点を教えてやれれば、少しは手助けになるかもしれない。
過激派以外は、俺ではどうにもできない。だが、何もしないわけにもいかない。
やがて、ひとつ頷いたケイの目が赤く光り、髪の毛がざわざわざわっと逆立って来た。