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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
14.もののけ全面戦争
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14.もののけ全面戦争 その20

門を出ると、そこは黒いアスファルトで舗装された何の変哲も無い道路があり、それを挟んで向かいの家の門が見える。

将仁の前から姿を消した次の瞬間、花音代の姿はその門柱の間にあった。止まった時間の中で引き出したのだろうか、振り上げた右手からあの金色の鎖が、まるで刀のように振り上げられている。

「はあっ!」

花音代は、その鎖を、何も無い空間めがけて力いっぱい振り下ろした。

次の瞬間。その何も無い空間から、パリーンッというガラスが割れるような音がして、空間が砕けるように割れ、そしてそのむこうから、存在も、気配も感じなかったものが姿を現した。

それは、黒い狩衣、昔の日本の貴族が着ていたような服を身にまとい、烏帽子を被った、まるでそこだけ平安時代にタイムスリップしたような姿の人物が座っていた。

「あららぁ、見破られてしまいましたなぁ。気配もちゃんと消してたはずなんどすけど」

その狩衣の人物は、自分が施していた陰行の術が破られたというのに、慌てた様子も無く上を見上げる。

「やはり、あなたでしたね。賀茂杏寿」

その人物を見下ろしながら、右手の鎖をまるで鞭か何かのように手に持った花音代が声を吐き出す。

髪をまとめ、服装も雰囲気も全く違っていたが、そこにいるのは、確かに、将仁のクラスメイトの賀茂杏寿その人だった。

「うちの正体、いつから、気ぃついてはりました?」

「最初に気になったのは、賀茂という苗字を聞いた時です。その時はまだ敵になるとは思いませんでしたが」

「ふうん、さすがは付喪神、伊達に長生きはしてはりませんなぁ」

そう言いながら、杏寿は袖の中に手を引っ込めてゆっくりと立ち上がる。

「しかも、あんさん、時間を止めることがでけるようどすなぁ。ほんま、かないまへんわ」

「それならば、早々に引き上げることをお勧めしますよ。これ以上被害を出すのは互いの利益になりません」

花音代は、右手から伸びる金色の鎖を左手で持ち、いつでも動けるように身構えている。

「そうどすなぁ。ほんまはうちも手ぇ引きたい思てます」

そして杏寿は、引っ込めた手を袖から出し、その手の中に何かを隠すようにして前に差し出す。

「せやけど、戦争いうんはそういうもんとちゃいます?」

「!?」

その直後。杏寿の手の中から、目を潰しそうなほどの閃光が放たれた。花音代は、とっさに手でその光をさえぎり目を護る。

光は、ほんの目くらましだったらしく一瞬で消えた。

だが、その一瞬の後に目を開いた花音代は、自分の目を疑ってしまった。

目の前に、狩衣姿の女が立っている。だがその横にも、そしてその後ろにも、同じ姿の人物が立っていたのだ。そしてその隣にも、さらに隣にも、まったく同じ姿の女が立っている。

いつの間にか、花音代は、大勢の杏寿に取り囲まれてしまっていた。花音代の目をしても、どれが本物な見分けがつかない。

「ほんで、質と量の戦いは、常に量に軍配が上がるもんどす」

「くっ!」

歯軋りした花音代は、忌々しげに右腕を振り上げると、声がしたほうへとその腕を振り下ろした。

右手につながった金色の鎖がジャラジャラッという音と共に宙を舞い、そして何人もいる杏寿の一人に襲い掛かる。

金属製の太い鎖である。普通に当たれば、骨の2,3本は砕けてしまうだろう。だが、その一撃を、その杏寿は避けようとすらしない。

そして鎖が命中した瞬間。手ごたえを感じるかわりに、その杏寿はまるで幻のように姿を消し、かわりに何かがひらひらと舞いながら地面に落ちていった。

「人型!?」

それは、簡略化された人の形に切り抜かれた、1枚の紙だった。

「あんさんにがっぷり四つ組んだらうちのが不利やさかい、足止めさしてもらいます」

その花音代の耳に、杏寿の声が聞こえる。だが、まわりにいる杏寿が皆一様に口を動かしているので、どれが本物なのか見極められない。

と、その大勢の杏寿たちがいっせいに指を口元に立てて、呪文のようなものを唱え始める。

「っあああああっ!」

花音代は、ときの声と共に右腕の鎖を振り回し、当たるを幸いと近くにいる杏寿をなぎ倒していくが、鎖が命中するとそれらはすぐに紙の人型へと変わってひらひらと舞い落ちる。そしてその後ろには、やはり全くおなじ姿の杏寿が同じように立っている。

まるで湧き出してくるようなその姿に、さすがの花音代にもあせりが見えた。というのも、時間を止めると彼女以外全てのものは動かなくなるが、同時に鉄の塊のようにこちらから影響を与えることもほとんど出来なくなるからだ。

「っ!!」

杏寿の群れから、短刀を手に数人が飛び掛ってきた瞬間、花音代は時間を止めた。狩衣姿の黒髪の女が数人、片足を踏み出そうとした形で止まっている中をすり抜けるが、その後ろにも同じ姿の女が集団で立っている。止まっているせいで、本物と偽者の区別が余計につけられない。

本体をどうにかすれば、人型はほっといても紙にもどる。しかしその本体を見つける方法も、対処する手はずも、今の彼女には持ち合わせてはいなかった。

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