14.もののけ全面戦争 その18
「なあ、将仁はん。うち、殺生するんは嫌いですねん。せやから、ここは話し合いといきまへん?」
そして、2メートルぐらいのところで立ち止まると、そんなことを言ってきた。
「話し合いだと?」
「せや。うちは興味ないねんけど、あんさんが遺産を受け継ぐのが嫌な人がおるみたいなんや」
「・・・・・・遺産を放棄しろってぇのか?」
「多分、そういうこっちゃね」
黄色い女は、いけしゃあしゃあとそんな事を言ってきやがる。
「このアマ、ふざけたことを、わっ!?」
だが、反論しようと思った瞬間、足元が揺らぎ、足が数センチ余計に沈んだ。
「何べんでも言うけど、うちは平和主義者やねん。なー、話だけでも聞いてくれへん?」
女は、そんなことを言いながら顔を覗き込んでくる。だが、イヤだと言おうとしたらまた俺の体が泥の中に沈むんだろう。これは話し合いというよりは脅迫なんじゃないだろうか。
だが、その時だ。
「あだだだだだだ!?」
いきなり、その黄色い女が変な悲鳴をあげて頭を抱えて、そこから少し後ずさった。
見ると、その髪の毛や帽子や服に、細長い針のようなものが数本刺さっている。
「きさまああああああ!」
同時に、黄色い女のとは違う、勇ましい声が頭上から聞こえた。
そして、深緑色の影が、黄色い女めがけて突っ込んでくる。
「ひゃあ!?」
その影は、黄色い女の頭上ギリギリのところをかすめるようにして急旋回し、そして高々と舞い上がる。そして頭をかすめられた黄色い女は、バランスを崩してすっ転んだ。
「な、なんやねん」
転んだ拍子にそのままでんぐり返しをした黄色い女は、落とした帽子を被りなおして空を見上げる。そして、目を見開いた。
「人の家の庭で何をやっておるのだあああああああああ!」
さっきの影が、自分に向かって一直線に、空から突っ込んで来ていたからだ。そして多分、あの黄色い女は、その影の正体が判って、余計に驚いているんだろう。
その影は、さっき常盤さんを呼びに行っていたシデンだった。多分、家が傾いたことで様子を見にベランダに出て、そしてあの黄色い女を見かけて飛び出したのだろう。
「うひゃあああああ?」
「逃げるなああああ!」
そして、立ち上がって逃げようとする黄色い女の左右を追い抜くように、シデンの「機銃」が掃射されていく。
昨日初披露されたシデンの機銃は、一種の空気銃らしい。ただの空気銃ならたいしたことはない(空気の圧力にもよるが)が、この機銃の場合、弾として爪楊枝を使っているので、当たり所によっては痛いでは済まない。
「天誅っ!」
「ぐえっ!?」
機銃掃射は外れ、爪楊枝は地面に一直線に刺さったが、その直後、すぐ近くまで来ていたシデンの足が黄色い女の後頭部を蹴っ飛ばし、女はまた無様にすっ転んだ。
なんか、妙にコミカルな絵に、一瞬自分の置かれた状況を忘れてしまう。そして、そのシデンは、勝ち誇ったように上空を旋回している。
その黄色い女が、ぶるぶると震えながら体を起こしたのは、その時だった
「・・・・・・うちのこと・・・・・・ようここまでコケにしくさったなぁっ!」
そして、今までとうって変わった荒々しい口調で叫び、上空を旋回するシデンをにらみつけた。
「ブチ落としたるぁぁぁぁぁぁっ!」
そして、すっかりヤクザ化した口調でそのシデンに向かって手を伸ばす。
すると。女のまわりの地面から、何か灰色の小さなつぶてがいくつも顔を出し、そしてそれが一斉に上空のシデンに向かって飛んで行ったのだ。
「うわわわわわわっ!?」
全部は届いていないみたいだが、この反撃にはシデンも驚いたらしく、体をひねってよたついた軌跡を描きながら飛び回っている。
だが、狙いが下手なのか、それともシデンがかわすのが巧いのか、命中した様子はない。
「ふっ、張り合いが出てきたわああああぁぁぁぁぁ!」
そして、つぶてが止むと同時に、反撃とばかりにきりもみ急降下で接近しながら、黄色い女目がけて機銃を再び掃射する。
なんか、シデンを戦闘機、黄色い女を移動要塞と考えると、テレビゲームか何かみたいでしっくり来てしまう構図だ。ゲームの場合は戦闘機を操ることが多いので余計にそう思うのかもしれない。
だがおかげで、黄色い女の注意は俺から完全に離れていた。
「将仁さんっ!」
そしてその時、俺は誰かに声をかけられた。