14.もののけ全面戦争 その15
嫌な顔をするのは当たり前だ、俺はまだ死にたくない。死ぬならちゃんとした彼女を作ってからだ、ってさっきも同じことを言ってたよな、俺。
これに耐えるのが、西園寺の家を継ぐことなんだろうか、知っていたら、遺産相続なんかしなかったぞ。
なんて、自分でも混乱しているのがわかるほどテンパってた時だ。
「おりゃああああああっ!」
赤と黒のライダースーツが、銀色のマフラーをなびかせ、未だに立てずにいる俺の頭上を飛び越えていった。
「む゛っ!?」
そして、大女の顔面に、底の厚いライダーブーツがめり込んだ。
大女は、なすすべなく吹っ飛ばされ、そのまま後ろの壁に叩きつけられて壁に亀裂を走らせる。
「将仁、ケガはねぇか?」
そして、大女にライダーキックばりのとび蹴りを食らわせたそいつは、こっちを向いてバイザーを突き上げる。
「ヒビキ!?」
「なんだなんだぁ?腰でも抜かしたのかい?」
「いや、お前後ろ!」
そう言った時、何かがヒビキの肩にポンと手を置いていた。
「ん?」
「にひひひひ」
ヒビキが振り向くと、さっき蹴り飛ばした大女が復活していて、ヒビキの肩に手を置いたまま、彼女の目の前でにたーっと笑った。
「ふんっ!」
「ぐふっ!?」
その直後、大女がヒビキの腹を思いっきりぶん殴った。やばいんじゃないかと思うような音がして、殴られたヒビキが廊下を吹っ飛んでいく。そして、そのまま廊下の壁にめり込んだ。
「ヒビキ!?」
思わず叫んでしまう。あのヒビキをぶっ飛ばすなんて、シャレにならない。ってそんなのは判りきったことだが、さすがにこれは怖くなった。
「っと、へへへ」
だが、ヒビキは頑丈だった。めり込んだ壁から自力で這い出すと、またこっちに走って来たのだ。
「どっせぇい!」
「んがっ!?」
そして、大女にダッシュの勢いを載せたパンチを叩き込む。またもヤバいんじゃないかと思ってしまう音がして、大女の体がきりもみしてふっとび、床に落ちてなおごろごろと転がっていく。
「へ、へへ、将仁。悪ぃけど、こいつの相手は、あたしがやらせてもらうよ」
自分でやっておいて痛かったのか、軽く手を振りながら、ヒビキは俺にむけて少し痛そうな顔で笑ってみせた。
「だ、大丈夫か!?」
「あたぼうよ!このあたしが本気で殴れる相手なんざ、初めてでワクワクするぜ!」
今まで聞いたことが無いほどに興奮して楽しそうに答えるヒビキを見て、これは確かに俺じゃ手も足も出ないってことを痛感してしまう。
「言ってくれるじゃねぇか」
やっと我に返った大女が、こっちも本当に楽しそうな顔をしてそんなことを言う。信じられないことだが、この2人、殴り合いを本気で楽しむつもりらしい。
「大見得切ったんだ、楽しませてくれよぉ?」
「あんたこそ、あっさり倒れるんじゃねぇぜ?」
そして、止める間もなく、2人はシャレにならない殴りあいを始めてしまった。
生き物が立ててはいけないような音を撒き散らしながら殴りあう2人を、俺は見ているしかできなかった。
「こいつぁてぇした話だな」
そこに、野太い声が掛けられた。見ると、ごっつい大男が後ろに立っていた。
「りゅう兄!?お前、なにしてやがった!?」
「さっきまでそこのソファーで寝てた」
ったく、このバカ兄貴は、この緊急事態に何つー緊張感の無さだ。
なんて思っていたときだ。
パリーンッ!
今度は、さっきまで兄貴が寝てたというリビングから、ガラスが割れるような音がした。
「今度はなんだ!?」
目まぐるしさに半分キレながら、俺はリビングへと飛び込んだ。