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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
14.もののけ全面戦争
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14.もののけ全面戦争 その12

「鏡介!いるか!」

2階に上がると、俺は自分と鏡介の部屋に駆け込んだ。

「将仁さん、何かあったんスか!?」

すると、まさに今部屋から出ようとしていた鏡介とはちあわせした。

「し、侵入者だ、人の姿はしているが多分人じゃない、侵入者だ!」

そこまで一気にまくし立て、一息つく。そして改めて鏡介を見ると、何か混乱した顔をしていた。

「ちょ、将仁さん、落ち着いてください、話が見えないんですが」

うん、どうやら伝わっていないようだ。

一息ついたところで、風呂とキッチンに信じられない形で現れた侵入者のことと、それぞれをクリンとレイカが相手していることを告げる。

すると、鏡介の目つきが真剣なものになった。

「それで、悪いが、どっちかの援護に向かってくれ。判断はお前に任せる」

「わっかりやした!」

そして鏡介は部屋を飛び出し、どどどどどっと激しい音を立てて階段を駆け下りていく。

これで、少しはマシになるだろう。鏡介は元々鏡だから耐水性もあるし、あいつのバリアなら炎もものともしないだろう。

少し安心したところで、自分の格好がトランクス一枚だ、ということを思い出した。

タンスに飛びつくと、シャツとトレーナー上下を適当に引っ張り出し、それらを身につける。

そしてひととおり着替えが終わり一息ついたところでふと窓の外に目をやった俺は、思わず息を呑んでしまった。

ありえない光景がそこにあった。俺の部屋は、東側にちょっとしたバルコニーがあるのだが、そのむこうに、うっそうとしたジャングルを思わせる、太さも種類も様々な蔓植物が絡み合って立っている光景が見えたのだ。その中にはこの前俺が枯らしたはずのバラっぽいトゲの生えたものも混じっている。

そしてその前、ちょうどバルコニーの縁に、誰かが腰掛けているのが見えた。それは、人のようにも見えるが、木の枝やつる草が絡み合ってそう見えるだけのようにも感じられる。

俺がそこまで把握した直後だ。

突然目の前のガラス窓が割れ、そしてその何かが部屋の中に飛び込んできた。

そいつは、部屋の床に着地すると、すっくと立ち上がる。

俺らが学園祭で仮装として着る、中国の甲冑によく似たものを身に着けている。ただその色は少し緑がかった青色で統一されており、しかも必要以上にがさばって見える。そして染めたように見事な青色の髪をポニーテールにし、小さな角が2つ生えた仮面で目許を隠していた。

「真田将仁ッ!貴様の命、この青龍の龍樹が貰い受けるッ!」

その甲冑を着た奴は、腰から引き抜いた剣を八双に構え、少しハスキーな女の声でそう言い放ちやがった。

「とうっ!」

そしてすかさず間合いを詰めるとその剣をなぎ払ってくる。なんとかかわすが、すぐに次の攻撃が繰り出されてくる。

「はっ!」

「うわっ!」

とっさに、仮装で使う予定だった削りかけの丸棒を拾い上げ、振り下ろされる剣を受け止める。すると、かんっという有機質な音が聞こえた。

見ると、その青龍を名乗った女が振り回していた剣は、木でできていた。幅も厚みもそれなりにあるので当たれば痛いのは間違いないが、それでも刃がないだけやりやすい。

そういえば、青龍ってのは玄武や朱雀と同様、陰陽五行のひとつの象徴で、木を司どっている。外見はその名のとおり青い色をした龍になるらしいが、ここでいう青は、ブルーだけではなくグリーンも含むらしいから、なんとなく目の前の奴のイメージにも合う。

それはともかくとして。

「おりゃあっ!」

「くっ!?」

渾身の力を込めて剣を押し返すと、そいつがバランスを崩し、数歩後ずさる。そして体勢を立て直すと、その場で身を屈め、木の剣を横にまっすぐ伸ばした。

その様を見た俺は、もしかしたら自分でも相手ができるかも知れないと感じた。

そのため、俺は手にした丸棒を改めて構えなおすと、青緑の甲冑女を睨みつけた。いい加減、逃げるばかりというのも癪だったからだ。

だが、甘かった。

「ほう、たかが人間が刃向かうつもりか。私も甘く見られたものだ」

言うなり、甲冑女はすっくと立ち上がると、剣を頭上に振り上げ、そして勢い良く振り下ろした。

その瞬間だ。ジジジッという音と共に、木でできた刀身の表面が青白い光で包まれ、そしてその周りを小さな稲妻が取り囲むように光りだしたのだ。

それは、以前暴走した時のバレンシアの目をどことなく連想させる。そしてそれは、あながち間違いではなかったのだ。

「受けてみよ!」

甲冑女が剣を軽く振るう。ヴンッというさっきは聞こえなかった音が耳に入る。

そして切っ先がカーテンに触れた、その時だ。

バシュウッ!!

そんな耳障りな音と共に、青白い火花が飛んだ。そしてカーテンは見事に切り裂かれ、切り口には雷が落ちたような無残な焦げ跡が残されていた。

「な、なななっ!?」

「わずかとはいえこの私に本気を出させたのだ。責任は取ってもらおう」

「それは関係ねぇだろーっ!」

そんな俺の言葉もどこ拭く風、甲冑女はまた間合いを詰め、放電する木剣を遠慮なく振り下ろしてくる。とっさにさっきと同じように丸棒で受けるが、今回はそれでは済まなかった。

何か焦げ臭いにおいがするので見てみると、あっちの剣が触れたところが黒く焦げ、そしてえぐれていたのだ。ってことは、体に当たったら痛いどころではない。

「そら、そら、そら!さっきまでの威勢はどうした!」

防戦一方になった俺に向かって、甲冑女は遠慮なく剣を振るってくる。なんとか受けても、その度に丸棒は少しずつえぐられ、細くなっていく。

そして逃げようにも、そこに踏み出すタイミングがない。なんとか攻撃を裁けているのも、それに集中しているからで、そうでなければあの電気木剣の餌食になってしまう。

「せいやぁっ!」

そして、甲冑女がそう叫んで剣を閃かせた時だ。

ぱきっ、という情けない音と共に、攻撃を防いでいた丸棒が、真ん中から真っ二つに折れてしまったのだ。

「これまでだな」

すかさず、甲冑女が俺の目の前に剣をつきつける。

どうやらこの女、本気で殺る気満々だ。これは、やばい。

「恨むなら、おのれの血筋を恨むのだな」

そう言うわりには、奴は仮面の奥から残酷な光をぎらつかせた(俺にはそう見えた)目を覗かせながら、稲妻に包まれた剣をすうっと振り上げた。

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