14.もののけ全面戦争 その6
それから、どのぐらい走ったのだろう。昔話に出てくる、天狗にさらわれた子供になったような気分でいると、俺を抱えたヒビキの足がぴたっと止まった。
「振り切ったか?」
ヒビキが、俺を抱えたままで後ろを向く。
「うぅ、なあ、いいかげん、下ろしてくれねぇか?」
「おう」
それを同時に、ヒビキが手を離した。抱えられているだけだったのに、なぜか疲れた。
「ところで、どこだ、ここは?」
「さあ、適当に走ったからねえ」
「てっ、適当って、お前なぁ」
「ははっ、冗談だよ冗談。下手に時間食うと、弁護士さんがやかましいからね」
その時、ポケットの中から某宇宙人映画の呼び出し音が聞こえる。
「お兄ちゃん、まだぁ?」
電話に出ると、真っ先にケイの催促するような声が聞こえた。
「ああ、悪い悪い」
あたりをすばやく伺い、近くに目立った人影がないことを確認してから、再びケイに声をかける。
すると、白い光が一瞬あたりを包み、そして次の瞬間ケイが姿を現した。
「よいしょっと。えーとちなみに、ここは倭光市駅と朝賀駅の間ぐらいだよっ!」
人の姿になったケイがさっそくナビしてくれる。
倭光市駅といえば、俺の下車駅の隣だ。どうやらヒビキの奴は、俺を抱えたま一駅半も走ったらしい。
「ヒビキ、お前なぁ」
「いやぁ、いっぺん走り出すとなかなか止まりたくなくなる性質でねぇ、あっはっは」
ヒビキは笑うが、俺は笑えない。実は、今のでちょっと気分が悪くなってしまったのだ。乗り物酔いにはなったためしがないんだが、どうも腹を締め付けられて揺さぶられたのが効いてしまったらしい。
なんか、この状態で電車に乗ったら、本格的に酔ってしまいそうだ。
「よし、行くか」
なんかぐらぐらする頭を軽く振って立ち上がり、標識を確認してから歩きだす。
「あれ?お兄ちゃん、倭光市駅ってこっちだよ?」
すると、ケイは俺の手を取って違うほうへ引っ張る。そっちに行こうとするということは、駅のほうが距離的に近いんだろう。
だが、後戻りすることになるから、結局は遠回りになる。それに、着いたところで、電車が来るまで待たなきゃならないのが面倒だ。
だいたい、一駅歩くのなんて大した距離じゃない。
「えー!?ケイそんな歩けないぃーっ!」
だがそのことを話すと、ケイがぶーぶーと抗議をしてきた。ここから家までって、そんなに遠いのか?
「わがまま言うなって、どっちにしても駅までは歩くんだぞ?」
「だったら歩くのは駅まででいいじゃーん、倭光市駅から電車に乗ったほうが楽ちんだもんー!」
「駅に着いたらまた歩くんだぞ?」
「あぅ、でもでもぉ」
「歩くのが嫌ならポケットに入ってるか?」
「やーだー!」
ケイはなぜか嫌がっている。この前はポケットの中が好きだなんてことを言っていたんだが、やっぱり嫌なのかな。
「ひゃ!?」
なんてなことを思っていると、なぜかケイの体が上に持ち上がった。
「これでどうだい?」
見上げると、なぜかケイはヒビキに肩車されていた。
「わっ、高いっ、わっ、わーっ!」
ケイは、ヒビキの髪の毛を掴んだまま足をじたばたさせている。怖がっているのかと思いきや、どう見ても喜んでいる。そしてその2人をみていると、なんか仲の良い姉妹を見ているみたいでなんかほのぼのしてしまう。
そういやケイは、ケータイフォームのときに写メを撮るために高々と持ち上げたことはあるが、肩車なんかしたことないもんな。
「いえーい!ヒビキ号れっつのごーだー!」
と思っていると、なんかケイが前を指差し、妙に高いテンションでそんなことを言った。
「おっけー!しっかりつかまってなー!」
そしてそれに乗ったかのように、ヒビキがケイを肩車したまま、走る体制になる。まさか、肩車したままで走るつもりじゃないだろうな?
と思った矢先。
「うぅおりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
土煙が上がり、そしてヒビキの怒号が急速に遠ざかっていった。
気がついた時には、ヒビキの後姿は爪の先ぐらいに小さくなっていた。
肩車して走るだけでも難しいってのに、あんなスピードを出しやがって、途中でコケたりしないだろうな。コケたらヒビキよりケイのが危険だぞ。
「だいたい、ヒビキが学校に来たのは、俺の警護のためじゃなかったっけ?」
しょうがないので、鞄を拾うと、俺は2人が去っていったほうへと踏み出した。