14.もののけ全面戦争 その4
がらっ。
「ニーハオー!」
昼休み、教室のドアががらっと開き、陽気な中国語が教室にこだました。
同時に、クラス中の視線がそっちに集中する。
「李さん、来てくれたんだ!」
委員長が、嬉しそうな声をあげて、その声の主である赤いチャイナ服のところへ駆け寄る。どうやら、本当に紅娘のことを待っていたらしい。
「お待たせアルいいんちょサン、昨日は来られなくてごめなさいのコトね」
「そんなの、李さんのせいじゃないからもーまんたいよ」
「ねえねえ李さん、胡麻餡クッキー作って来たんだけど」
「この前のタルトみたいなの、もう一回作って!」
委員長に牽引されたように、あっという間にクラスの女子が紅娘を取り囲んでしまう。どうやら紅娘は、この前の試食会で女子の胃袋を掴んでしまったらしい。どっかの諺で、胃袋を捕まれた男は心も捕まれる、みたいなものがあったが、甘いものに関しては女も同類なのかもしれない。
「なあ、他に誰か来てないのか?」
「またカバンの中にクリンさんとかいたりしねえの?」
「いるかそんなもん」
ヤジローをはじめとする、声を掛け損なったクラスのあぶれものが、今度はこっちに声をかけてくる。実際はケイがいるのだが、こいつらに教えてやるのも面白くないのでそっけなく返事してやる。
それに、実は今日は弁当を持たせてもらってないのだ。昨日の皺寄せが今日に回って来ているので、早く役所へ行って済ませようという腹積もりらしい。
というわけで、今日は昨日よりも早々に退散することにする。
「おい、紅娘、後は任せたぞ」
帰りがけに、クラスの女子と一緒になって弁当を広げていた紅娘に声をかける。色合いが派手だからあれは紅娘の自前らしい。
考えてみると、紅娘お手製の中華というものはまだ数えるほども食べていない。レイカには悪いけど、明日の弁当は紅娘に作ってもらおうかな。
「あ、将仁サン!ハイ任されましたアル!」
すると、紅娘はこっちを向いて手を大きく振りながら、すごく元気な返事で送り出してくれた。