14.もののけ全面戦争 その3
「なあなあ、聞いたか?」
学校につくと、いきなりそんな声を掛けられた。
「聞いたって、何を?」
「なんだ、知らねぇのか?峠にターボ女が出たって噂だよ」
ターボ女。単語自体は初めて聞くが、どんなもんかはだいたい想像はできる。
そしてその瞬間、俺にはその正体も判ってしまった。
「な、なんだそのターボ女って」
だがそこはとりあえず、シラを切っておくことにする。当たり前だ、本当のことなんぞ話せるわけがない。
「昨日、走り屋が事故ったらしいんだけど、なんでもそれが、そのターボ女と併走したせいらしい」
「追いかけられたんじゃないのか?オレはそう聞いたぞ」
「なんか叫びながら走るんだよな」
「見ると首が動かなくなって事故るんでしょ」
だが、とりあえず黙っていると、なんかその話が事実とかなりずれたものになっているのが判ってしまった。どうやら、都市伝説でよく出てくる「もの凄いスピードで併走する婆さん」の類と混同されているようだ。
とはいえ、混同されてもしょうがないところはある。なにしろ、噂のターボ女の正体であろうヒビキは、元がバイクだっただけに都市伝説も真っ青のスピードで走ることが出来てしまうのだ。
ついでに言うと、事故ってぇのも、俺らが逃亡中に起きた、というか起こされたアレが元になっているように思われてならない。場所はシャッター商店街だったが、事故にゃ変わりない。
なんかそう思うと、背筋が寒くなってくる。
「おい、マサ、どうしたんだ、顔色悪いぞ」
シンイチに声をかけられ、はっと我に返った。
「お前、怖い話は別に苦手じゃないって言ってなかったっけ?」
「へっ、あ、いや、それは、なあ」
だが、我に返ってもすぐに答えが出ず、どもってしまう。
確かに、聞くだけの怖い話だったら別に怖くもなんともないが、それが自分に関係があるとなると話は別だ。下手すれば(事故のせいでもヒビキのせいでもないが)死んでいたかもしれないからだ。
「ホントは怖いんだろ?」
「人を勝手に怖がりにすんな!これはだな、昨日の夜にバイクに乗ることがあったから、そんなので事故りたくねぇなと思っただけだっ!」
思わず、全力で反論してしまう。昨日は確かにバイクに乗って走ったから、嘘は言っていない。とはいえ、そのバイクはターボ女ことヒビキの正体なわけで、そのバイクに乗っている以上ターボ女は出てくるハズもないのだが。
それにしても、引越しの時とかは真っ昼間に大通りを走ったのにそんなに噂にならなかったのに、夜に人気の無いところを走った夕べはなんでこんなに噂になっているんだろうか。やっぱり、事故というショッキングな出来事とのコラボだからだろうか。
そんなしょうもないことを考えていると、いつのまにか先生が来ていた。
「きりーつ!礼!」
委員長が号令をかけ、挨拶をする。
ふと、その時になって、賀茂さんが居ないことに気がついた。
風邪を引いて熱が出たので今日は欠席する、と先生が言っていた。