14.もののけ全面戦争 その2
「おーい、ケイー、いくぞー」
「ちょっとまってーっ」
気を取り直して飯をたいらげ、玄関に向かって靴を履く。
いつもだったらケイの奴が先回りして待っているのだが、今日はなぜか俺が先に来て待っている。
何やってんだろう。もしかしていっちょまえに化粧なんかしていたりしてな。
「お待たせしました」
「わ!?」
すると、ぜんぜん違うのがいきなり姿を現した。
「あーっ!」
それとほぼ同時にケイの声がして、だだだだだっ!と走ってきた。
「もーっ、常盤さんってばっ!ケイ、ちゃんと待ってたのにーっ」
そして開口一番、俺の前にいきなり現れた常盤さんを非難するようなことを言う。
「ですから先に行っていて良いと言ったではないですか」
「だって先に行ったら、常盤さんいつくるか判んないんだもん!」
どうやらケイの奴は常盤さんのことを待っていたらしい。それを目の前でブッチされたのでお冠になっているようだ。
にしても。常盤さんは一体何をしに来たんだろうか。時間にだけはうるさい常盤さんだから、今日こそはちゃんと帰って来いと釘をさそうとでもしているのかな。
「将仁さん、今日は、登下校に身辺警護をつけてもらおうと思います」
すると、常盤さんはあっさりと予想外なことを言い出した。
「へっ?警護?」
唐突なことだったので、どういうことかすぐには判らなかった。
「はい。これから先、用心するに越したことはありませんから」
「そんな大げさな」
「将仁さん、昨日ご自分の身に起きたことを、もうお忘れですか?」
ぴしゃりと言い切られてしまう。確かに昨日のことを持ち出されると何とも言えない。
「特に、今日はきちんと無事に帰ってきて頂きたいので」
「いや、でも、俺はそんな」
「私が警護するのでは、頼りないでしょうか?」
いつのまにか、テルミがそこに来ていた。
「危険なのは、人の目が無いかもしくは少ないところで、将仁さんが一人になること。そしてそれは、登校時は家から駅まで、そして帰りは、今日の場合は学校から家までがその時間帯にあたります。ですからその時間に警護をつけて、何かあってもすぐに対応できるようにします」
なんか、ずいぶんと細かいところにまで話が及んでいる。
「でも、テルミがいないと、家の中のことが」
「ええ。ですから、テルミさんが警護を行うのは、家から駅までです。帰宅時には別の人に迎えに行ってもらいます」
「別の?」
「あたしだよ」
そこにぬっと現れたのは赤いライダースーツの女、ヒビキだった。
「いざって時は、あんたを担いででもつれて来いってお達しでね」
そしてにっと笑う。確かにこいつだったらできそうだが、それをされている自分を想像したら非常に情けない気分になった。なにしろ大声で叫びながら時速80キロ以上出すヒビキの全力疾走は目立つ。なんで世の中に騒がれないのか不思議なぐらいだ。そしてそこに担がれる男というのは、なんというか、昔話に出てくる、妖怪に攫われるいけにえになったような気分で、かなりかっこ悪い。
まあ、いざそういう場面になったら、かっこ悪いなんて言ってられないだろうし、それにそういう強硬手段に出られるのもヒビキぐらいしかいないだろうし。
「ってことは、ヒビキは昼になったらうちの学校に来るのか?」
「ああ。中に入ると騒ぎになるから、校門のところで待ってるつもりだよ」
「ふむ」
そこで、俺はあることを思い出した。
「じゃあさ、来るときに、紅娘をつれてきてくれないか?」
すると、ヒビキはちょっと驚いた顔をした。
「そりゃまた、どういう風の吹き回しだい?」
「ん、実はな、うちのクラスの女子が、紅娘に色々聞きたいらしいんだわ」
「呼んだアルか?」
すると、図ったようなタイミングで紅娘が顔を出した。その手にいつもの赤いポットを持っているので、俺に届けに来たらしい。
「ああ、ちょうど良かった。今日の午後、ヒビキと一緒に学校に来てくれるか?」
「?なんでアル?」
「この前、紅娘が学校で作った中国菓子がなんか好評でさ。あれをうちの出し物の目玉にするから、作り方を知っている紅娘をもう一度連れてきてくれってリクエストされているんだ」
「ふむふむ、ナルホドナルホド」
「で、来てくれるか?」
「もちろんそゆコトならお安い御用アル!」
紅娘は屈託のない笑顔で答えてくれた。
「さて、話もついたことですし」
すると、常盤さんがそこでパンと手を叩いてから言葉を紡いだ。
「将仁さん。そろそろ出発しないと、電車に乗り遅れますよ?」
「えっ!?」
言われて、俺はあわてて自分の手首の時計を見る。
明らかにいつも出ている時間より遅れていた。
「うっわ、ヤバイ!ケイ、急ぐぞ!」
「う、うんっ!」
返事するや否やケイは携帯電話に変身し、俺はそれをポケットの中に滑り込ませる。
そして急いで靴を履くと、カバンを手に家を飛び出したのだった。
その後を、俺を警護するという使命を負ったテルミが追いかける。
ちなみにその後、駅まで結構本気で走ったのに、しかもテルミは俺よりずっと走りにくいはずのメイド服に黒マントという格好なのに、俺とつかず離れずの距離でくっついてきて、しかも駅前であまり息を切らしていなかったのには少なからずびっくりした。多分、例の超なりきりで何かやっているんだろうが、そこまでできてしまうのか。
「では、行ってらっしゃいませ」
そのスーパーメイド・テルミは、駅前でメイド立ち、というかあのメイドさんがよくやる手を前で合わせるあのポーズで丁寧に頭を下げて改札口へと消える俺を見送ってくれやがった。正直、ちょっと恥ずかしかった。