13.ついに実力行使 その19
サーチライトが、うす曇りの空を照らす。
そこに蝙蝠が描かれていたらバッ○マンを呼ぶ信号になるが、このライトにはそんな小細工はされていない。
その光の中を、一瞬、鳥のようなものが横切った。しかし、それはジェット機が飛ぶ時のような轟音を立て、しかも明らかに鳥ではないスピードで光の中を取りすぎて行った。
と、その鳥のようなものが、今度はかなり減速して、再び光の中に現れた。
それは、人の姿をしていた。ただしその背中には金属的な光沢を放つ鳥のような翼があり、両足の裏側から何かを噴射して、空中に浮遊している。
その人影が、その体勢を保ったままゆっくりと地上に降りてくる。
その一角は、ナイターの試合がある球場のように明るく照らし出されており、使用人らしき人物が数人控えているのが見える。
そしてその真ん中には白い椅子とテーブルが用意されており、美しい金髪の女性が腰掛けていた。その傍らには執事姿の若い男がティーポットを手に控えており、女性のティーカップに紅茶を注いでいる。
翼のある人影は、その近くへと降りてくる。人影がまき起こす爆風で、使用人や執事姿の男、そして金髪の女性の髪や衣服を激しく揺らす。夜にはあまり似合わない光景だ。
やがて、足からの噴射を止め、空から降りてきた人影は、一面を覆う芝生の真ん中に降り立った。それとほぼ同時に、がしがしがしっという機械的な金属音とともに背中の羽が折りたたまれて小さくなっていく。
「望月ナミ、ただ今、戻りました」
そして、翼が完全に収納されると、人影、コンバットドーNO.73「望月ナミ」は、女性の前にひざまついた。
「首尾は、どうでしたかしら?」
それを受けて、金髪の女性、近衛クローディアがナミに声をかける。
「ふふっ、失敗するはずがありませんわね。これで、真田将仁に貸しを作りましたから、私のほうが優位に立ちますわ」
そしてクローディアはティーカップを置いてから、心底愉快そうにおーっほほほほと高笑いする。
「いえ、お嬢様。本作戦、失敗しました」
だが、無機質なナミの声を聞いた瞬間、クローディアはぴたっと動きを止めた。
「し、し、失敗ですって!?どういうことですの!?」
そして、椅子を倒すほどの勢いで立ち上がると、つかつかつかっとナミに詰め寄る。
「ターゲットは、我々より先に、何者かによって救出されていました。我々はその途中に遭遇しました」
ナミはそれに対し、自分が遭遇した状況を淡々と話す。
「最初は、ターゲットを別の場所に移動させる途中だと判断し、移動中の車への襲撃を慣行しました。ですが、その時に同乗していたのは、誘拐の実行犯ではないと、ターゲット本人が証言しました」
その報告を聞くに従い、クローディアの表情が明らかに機嫌の悪いものへと変わっていく。
「その後、ターゲット救出に携わったグループの一員と思われる者が合流し、またイリーナ様から撤退の指示が出されたため、作戦を中止し、撤退しました」
だが、無機質で極めて事務的なナミの言葉はそんなことはお構いなしに続けられる。
「それで、イリーナはどうしましたの?」
クローディアは、ナミに背中を向けて、そう聞いた。
「離脱後はまだ通信を行っていません。推測できる可能性は323パターンありますが」
「もう、いいですわっ!」
ナミの声を遮るようにクローディアは言い放ち、背中を向ける。
そして、余程悔しかったのか、親指の爪をがじがじと噛む。
「お嬢様」
その時。ナミが、口を開いた。
「何っ!?」
まだ機嫌が悪いのがありありと見て取れる。普通であれば、声をかけることですら躊躇われるような状態だ。その場の雰囲気を感じないのは、さすが機械というところか。
だが、その後に続く言葉は、投げつけられたクローディアでさえ混乱するものだった。
「家族とは、何ですか?」
「はぁ?」
あまりに予想外な言葉に、クローディアもぽかんとするしかなかった。
「あなた、突然、何を言い出しますの!?」
「ターゲットが、同行者が実行犯ではないと証言した際に、私の頭部に素手による打撃を行い、『家族が*されそうになっているのを見て、黙っていられるか!』と発言しました」
いささか興奮気味で聞き返すクローディアに対し、ナミはあくまでも淡々と答える。
「ターゲットは、特殊な訓練を受けていない人間。武器もないときの勝率は0.0000005%以下です。それをあえて行わせる原因、そのキーワードが“家族”であると、私は判断しました」
そして、顔を上げると、ナミはさっきと同じ言葉を口にした。
「お嬢様。家族とは、何ですか?」
「そ、そんなの、そんなの・・・・・・っ」
すると、クローディアは急に言葉を詰まらせた。
知らないわけではない。だが、そのままの意味で答えるのは、ターゲット、すなわち真田将仁が言うそれとは違うような気がした。
そして、あの男が口にした意味合いでの「家族」は、自分ではうまく説明できないような気がした。
「そんなの、ご自分でお考えなさいっ!」
結局、クローディアの口から出たのは、そんな突き放した言葉だった。




