13.ついに実力行使 その17
「おかえりなさい、将仁さん」
なんとか家にたどりつくと、みんなが出迎えてくれた。
その中で、常盤さんの顔を見たら、妙にほっとした。
「常盤さん、すいませんでした。今日は役所へ行く予定だったのに」
そして頭を下げる。
「今日のことは、不可抗力ですから仕方がありません。それより、本当に無事でよかった」
常盤さんは、そう言ってからめがねを外し、目元をハンカチで拭った。
「そして、みんな。俺のことを助けてくれて、ありがとうな」
「礼なんて、当然のことをしただけッスよ」
無事に帰り着いていた鏡介が、そんなふうに答える。
「カクレンボマスターガエシがMasterのsave from kidnapperのhelpになって、ミーはhappyデース!」
バレンシアは、自分の発明?が役に立って嬉しそうだ。しかしそのネーミングセンスはなんとかならないもんだろうか。
「皆さんがうらやましいですぅ。危機に駆けつけるなんてぇ、かっこいいですぅ」
一方で、結局何もできなかったらしいクリンが、魅尾を抱きかかえながらそんなことを口にする。まあクリンの能力は戦闘向きじゃないし、しょうがないよな。
「それが適材適所というものじゃ。ふわぁあふ」
そのクリンの腕の中で、眠そうな魅尾が大きなあくびをする。狐って夜行性だったと思うんだが、妖怪になると違ってくるんだろうか。って、妖怪だったら余計に夜に活動するんじゃないんだろうか。もしかして夜行性×妖怪で昼に行動するようになったんだろうか。
うーん、なんか助かったと思うと、ほっとしたからかしょうもないことを考えてしまう。
「はいはい、立ち話はそこまで。準備は出来ているから、ご飯にしましょう」
その一番後ろで、ぱんぱんと手を叩いたレイカが声をあげる。
「レイカ、今日のメインディッシュは何だ?」
「味噌鳥団子鍋よ。みんな疲れて帰って来ると思ったから、おかわりもいっぱい準備したわ」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないかい」
「貴様は腹に入れば何でも良いのであろうがっ!」
「ケイもうおなかぺっこぺこー!」
そんなことを言いながら、みんながリビングへと入っていく。
なんとなくそれを見送っていたら、なぜかそこに1人だけ入っていかない姿があった。
今回の救出計画メンバーの1人であるテルミが、なぜか1人ぽつんと取り残されていた。なんか、本職のメイドが、家の住人を微笑ましく見送っているような感じだ。
「将仁さん」
そして、全員が部屋に入ったところで、テルミはなぜかマントの襟元を正した。
「お帰りなさいませ、そして、ありがとうございました」
そして、深々と頭を下げてきた。
「へっ、ど、どうしたんだ、ありがとうなんて?」
俺は、その言葉の真意を測りかねて、間抜けな返事をしてしまった。助けてもらったのは俺なんだから、礼を言うのは俺だと思うんだが。
「だって、さっき、私たちを、家族って、言って下さったでしょう」
「え?」
「ほら、先ほど、ロボットと相対した時。“家族が*されそうになっているのを見て、黙っていられるか!”って仰ってくださったでしょう」
そしてご丁寧にもテレビ画面を出して、その1シーンを(テルミ目線で)再生してくれた。
「私たちモノは、持ち主に大切に扱ってもらいことが、何より、嬉しいことなのでしょう。きっと、私は、今、世界で一番幸せなテレビなのでしょう」
メイド姿に戻ったテルミは、恥ずかしげもなく、それどころかいつになく嬉しそうに言葉を続ける。
なんかそこまで言われると。こっちが恥ずかしくなってくる。
「今回のことで、私、もっと将仁さんのお役に立ちたいと思うようになったのでしょう」
「テルミ・・・・・・」
だが、テルミに声をかけようとした時だ。
「じぃーーーーーーーっ」
なぜかそこに、ジト目でこっちを見るケイがいた。
「うぇっ、お、け、ケイ、お前、何やってんだ!?」
「お兄ちゃんとテルミお姉ちゃんが、ぃいっつまでも来ないから、なぁぁにやってるのかなぁぁって思って見に来たんだけどおぉぉぉぉ」
なんか、怒っているような拗ねているような声を吐き出しながら、だんだんと髪が逆立って目が赤くなってくる。
『なぁぁぁぁにを、話していたのかなぁぁぁぁ?かなぁぁぁぁぁ!?』
そして案の定。ケイの言葉が直接頭の中に聞こえてきた。
全く、能力の無駄遣いをしやがってからに。どうせならさっきの逃亡劇中にやってくれれば良かったのによ。いきなりテレパシーが飛んでくりゃ大抵の奴は腰ぬかすだろうに。
『それとこれとは話がちがうでしょおおおおお』
だから俺は、テレパシーでなく普通に喋れといっているんだ。大体俺は、他人に聞かれて恥ずかしいことは何も言ってないぞ。こっちが恥ずかしくなることは言われたが。
『なぁにを言われたのかなぁ?かなぁ?ってなに?』
2歩ほど近づいて、ケイの頭をぺしっとひっぱたく。
「あたっ!?」
「だからいい加減、その口調でテレパシーすんのは止めろ、かわいくないから」
「えぅ、せっかく勉強したのにぃ」
頭を抱えて涙目で上目遣いで、でもちょっと恨みがましそうに俺を見つめてくる。
「勉強ってなんだ、勉強って。だいたいどうやって勉強したんだ」
「うぅ、ネットでぇ」
「お前、そういうことよりもっとほかに勉強することがあるだろうが」
「だって、バレンシアちゃんがぁ、『on-line searchingナラ、youがneedなinformationがeasilyにgetできるデース!』って」
ったくあいつは。もしかしたら仕事だとか言って本当は1日中そんなことばっかやってんじゃねぇだろうな。
「まあまあ、お二人とも。おなかがすいたでしょう。とりあえず、夕食にしましょう」
「うううぅぅぅ、お兄ちゃんが遠ざかっていくよぅ」
なんか非常に気がかりなことを言いながら、ケイがテルミに引っ張られていく。
その姿を見ながら、あとでフォロー入れとかなきゃな、と切実に思った。