13.ついに実力行使 その15
頭をあげて、後ろを見た時、俺はさらに驚いた。
なんでって、さっきまで乗っていたワゴン車が、もの凄い勢いで燃え上がっていたんだから、驚かないほうがおかしい。
ということは、今の爆発は、あのワゴン車が爆発したってことか。
「わっ、わっ、わっ、火事アル、火事アル、大変アルぅ!」
変にテンパった紅娘が、鍋を手にその燃え上がるワゴン車をガンガンと叩いている。火を消そうとしているのだろうか、江戸時代の家屋じゃないんだから壊しても火は消えないと思うんだが。
などとのん気なことを言っている場合じゃない。あの女、一体何をしたんだ!?
「お、お兄ちゃん、あれ」
そのとき、俺にしがみついていたケイが、あの人影を指差して口を開いた。
俺達の後ろで赤々と燃え上がる炎に照らされたそれは、どっかの軍隊で女性仕官が着て出てきそうな服装の上からロングコートを羽織った、銀髪の女だった。もっとも、妙にメカメカしいでかいゴーグルで顔の上半分を隠しているので、顔はよく判らない。
「あれ、あれ、えっと、えっと」
ケイはどうやらそいつを知っているらしいが、詳しく思い出せないのか答えが要領を得ない。携帯電話が人の名前を思い出せないというのは、いろんな意味で問題があるんじゃないだろうか。
なんて場違いなことを考えつつ、もう一度その女性仕官に目をやったとき、俺は思わず飛び上がりそうになった。
そいつの手のひらから俺の足元へ、赤い光の線が走り、そしてその光が当たったアスファルトがジュッという音と共に溶けたのだ。
もしかして、いやもしかしなくても多分、この光って、レーザーってやつじゃないのだろうか。なんか、光学兵器ってのはまだまだ実用に耐えないと聞いたことがあるんだが、違うんだろうか。
「あれ、えと、ロボット、人型のロボットだよ、この前近衛さんのとこにいたの」
ケイにそう言われて、やっと思い出した。確かこの前、鏡介とケイが近衛お嬢様の家に行ったときに、マンガのように高性能なアンドロイドを見たと言ってたな。
望月ナミとかいうロボットらしからぬ名前で、足と背中にブースターがあって、空を飛ぶんだよな。ってそんなのん気なことを言っている場合じゃない。
「おい、そこのロボット!てめえ何をしやがんだ!」
立ち上がると、そいつに向かって叫んだ。
いかに相手が男のロマンたる人間型自律ロボットとはいえ、うちに帰るまでの足を潰されたのだ。文句のひとつぐらい言ってやらにゃ気がすまない。
「声紋確認。94.74%一致。真田将仁本人と認識。無事を確認」
それに対し、そのロボットは生意気にも口を動かして、淡々とそんなことを言う。
なんか知らんが、無性に腹が立った。人間型だったから余計に、かもしれない。
横を見ると、「ワイシャツ1枚95円」と書かれたクリーニング店のものらしきブリキ製の立て看板が放置されていた。ゴーストタウンに立て看板というのもちょっとシュールだが、今は笑っている場合ではない。
俺は、とっさにその立て看板を引っつかんで振り上げた。
「てめこのおおおおおっ!」
そして、天誅を下すべく、数m先に立っているロボットへと向かっていた。
後から考えてみれば、自ら命を危険に晒していたことになる。なにしろ、そのロボット女がアスファルトを溶かすレーザーを撃てることは判っていたのだから、そんなことをしたら自分が撃たれたかもしれないのだ。
幸い、その時は撃たれることはなかった。だが、違うことで、俺はびびらされることになった。
「どりゃあああああ!」
枠は中空とはいえ、金属製だ。殴られりゃダメージはあるはず。俺はそう思って立て看板をそいつめがけて全力で振り下ろした。
よけるつもりもないのか、特に目立った反応もせず、ロボット女はそこに立っている。
このままいけば当たる。そう思った時だ。
そのロボットが、急に反応した。
体を不自然に前に傾けたかと思うと。
ボッ!
という爆発のような音と共に、俺の横をもの凄いスピードですれ違って行ったのだ。
同時に妙な風圧を受けて、俺はバランスを崩し、そこに尻餅をついてしまった。
「て、てめ・・・・・・」
そいつが向かった方向を見ると、そいつは、俺から数mほど離れた、さっきまで俺がいたところに着地していた。ちょうど、俺とそいつが位置を入れ替えたような形だ。
「ひっ・・・・・・」
そして、そいつは、さっきまでそこにいたケイに、右手の拳を突きつけていた。
よく見ると、その女の拳から、爪が3本生えていた。その爪の生え方は、アメコミの某ミュータントのそれによく似ている。
それはそれとしてとにかく、怯えるケイのことは放ってはおけない。そんなことをしたら俺はお兄ちゃん失格だ。
だが、立ち上がろうとしたところで、俺は自分が手にしていたものを見て、絶句してしまった。
立て看板が、半分、なくなっていたのだ。そして、すぐそばの地面に、その片割れが、1つの大きな部分と2つの細長い部分となって、すっぱり切り落とされ、地面に落ちていた。
そういえば、さっきすれ違ったとき、爆音のほかに、何かがこすれ合うような甲高い耳障りな音がしていたような気がする。
ってことは、もしかして、看板を切ったのは、あの爪なのか!?まさか本当にアダ○ン○ウム製だなんて言わないだろうな?
「動かないでください」
そんなことを考えて戸惑っているうちに、そのロボット女は、丁寧だが冷たい声でそう言いながら、左手を俺に向けた。その手のひらの真ん中辺りが赤く光っており、そして俺の腹に赤い光点が浮かんでいる。
レーザーが当たっているのだ。出力をレーザーポインタぐらいに抑えているらしく、焼けも焦げもしないが、逆に言えば出力を上げれば俺を殺すこともできる、という無言の圧力でもある。
だが、次の瞬間、ロボット女はトンチンカンなことを口にした。
「真田将仁。私はあなたを救助する命令を受けています」
「へ?」
ぽかんとしている俺の目の前で、ロボット女は続けてとんでもないことを口にした。
「15秒待機してください。実行犯を処分します」
そしてロボット女は、おびえきって動けないケイに対し、爪が飛び出した右手を振り上げる。
「やめろゴルァァァァァァっ!!」
その瞬間、体が動いていた。つくづく俺は、自分の命を軽く見ているらしい。
だが、ケイたちを誘拐の実行犯だと思っているのだったら勘違いも甚だしいし、そんなことでケイたちを殺されるなんて到底耐えられない。
ごいんっ。
そして、俺のストレートパンチがロボット女の頭にヒットした。
しかし。
「・・・・・・・・いってぇっ・・・・・・!」
俺の拳のほうが悲鳴をあげた。なんというか、中身の目いっぱい入ったドラム缶を全力でぶん殴った、そんな感じだったのだ。
一方のロボット女は、多少上体をぐらつかせたものの、ダメージを負った様子も無い。
「なぜとめるのですか」
それどころか、まったく変わらない無機質な声でそう聞き返してくる。
「なぜって、そいつらは、みんなうちの家族だぞ!?それを*されそうになってるのを見て黙ってられるか!」
拳が痛くて殴るどころの話ではない。だから俺は、ロボットに通じるかはわからないが、そいつにそう言った。
すると、ロボット女は意外な反応を示した。
ぴくりとも動きはしないのだが、かわりに色々なことを聞いてきたのだ。
「家族とはどういう意味ですか」
「どうって、い、一緒に暮らしているんだよ」
「ではなぜ、あなたは実行犯の車に乗っていたのですか」
「捕まってたところから、こいつらに助けてもらったからだ!」
「なぜ、彼女たちはあなたを助けたのですか」
「なぜって、そりゃ、心配だったから、じゃないのか」
こんなおかしなやり取りを何度か繰り返すと、ロボット女は黙り込んでしまった。
傍から見ていると、周りが見えなくなるぐらいに考え込んでいるように見えた。マンガならともかく、現実にロボットが考え込むというのも変な感じだが、声をかけてみても反応がない。
壊れたか?と思い、ちょっと近づいてみた。そのときだ。
遥か遠くから、ちょっと聞き覚えのある声?が聞こえた。しかもその声はだんだんと大きくなってくる。
やがて、その声の主が、通りの向こうから姿を現した。