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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
13.ついに実力行使
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13.ついに実力行使 その9

「あ、いけね」

すると、さっきまでかっこつけていた鏡介がいきなり三枚目な動きになり、ポケットから何かを取り出した。

「ごめんごめん、忘れてた」

「んもう、鏡介お兄ちゃんったら。いっちばん大切なことじゃん、忘れちゃだめだよぉ」

その取り出したものが、ひとりでに開くと、とても聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「それ、ケイ、なのか!?」

「それってなによぅ、ひどいなぁ」

すると、ぷんすかむくれた声が返ってきた。

「鏡介、お前、ケイのこと帰したんじゃないのか!?」

「いや、それは」

「ケイだってやることがあるからここに来たんだもん」

鏡介が言いよどんでいると、それを遮るようにケイが口をはさんできた。

その携帯電話のままケイを、鏡介が差し出してきたので受け取る。

「もう、鏡介お兄ちゃんったら、前置きが長くて肝心なこと喋んないんだから」

携帯電話のままのケイが、俺の掌の中で文句をたれる。

それに答えるように鏡介が、申し訳無さそうに口を開いた。

「肝心なこと?」

「将仁さんの救出作戦のことッス」

そして、鏡介とケイは、その作戦の内容を説明してくれた。

とはいえ、20分弱で立てた作戦なので、内容は非常にシンプルなものだった。

まず、瞬間移動できる鏡介が、ケイを持って俺のところに来て、俺に作戦の説明をしてケイを渡す。何のまじないかと思ったが、なんでも今回、ケイは精一杯電波を出して、俺の居場所を示すための発信機の役目をするんだそうだ。

鏡介以外の救出メンバーは、瞬間移動できないから自力で移動しているそうなんだが、それぞれが小型の受信機を持っており、発信源に向かって一直線に向かうことにしているらしい。

ちなみにその受信機ってやつは、バレンシアがこんなこともあろうかと作っておいたんだそうだ。そんなもんがあるなら、隠してないで教えてくれればいいのに。

まあそれはともかくとして。こっちに向かっているのは誰なんだろう、って、30kmも離れたところへ「自力で」来る能力があるのは、我が家では2人しかいない。言わずもがな、元オフロードバイクのヒビキと、元ラジコンゼロ戦のシデンだ。ラジコンが30kmもの距離を飛べるかはちょっと疑問だが、あいつだったら気合でやってしまいそうな気がする。

そしてその2人は、いずれも我が家きっての武闘派だから、そう簡単にはやられはしまい。しいて言えば、シデンが飛んでくるだけで体力を使い果たしてしまわないかってことと、叫びながら走るヒビキを見た一般人たちがパニックにならないかってことがちょっと心配だ。

いや、ヒビキはバイクに戻って、誰か乗せて走れば問題ないか。いやでも待てよ、うちにバイクに乗れるやつなんて俺以外にいるか?運動神経がよさそうなのはいるけど。

「将仁さん、聞いてるっスか?」

そのへんの妄想は、鏡介に声をかけられたことで一旦中断された。

そうだ、誰が来るかは、会えば判るんだ。今はそんなことを考えている場合じゃない。

「それで、将仁さんスけど」

「俺?」

「ええ。将仁さんは、ケイちゃんと一緒に逃げ回ってほしいんスよ」

「へ?じっと待ってなくていいのか?」

「ええ、待ってるのは将仁さんの性に合わないだろうし、それに将仁さんにはできるだけ建屋の外に出てもらいたいんスよ」

なぜかというと、救出チームが持っている受信機ってのがつまりはGPSみたいなもので、地図的な位置しか判らないうえに、建物の構造が判らないので、屋内だと探すのに時間が掛かるらしい。

「じゃあお前は、俺の護衛ってとこか?」

「いえ、俺は、部屋を出たら、将仁さんとは別れて行動します」

「え?」

状況がいまいち理解できないでいる俺の前で、鏡介はとんでもないことを言ってくれた。

「俺は、将仁さんが脱出できるまで、デコイに徹します」

あまりに意外なその発言は、俺が理解できるまで数秒を要した。

「な、お前、それは危険すぎるだろ!」

そうだ。デコイ、つまり囮ってことは、敵方を誘い出すためにわざと見つかることが大前提なのだ。

「そんなことをするならおまえ、まだ一緒にいたほうが」

「将仁さん」

だが、止めさせようとする俺の言葉を、鏡介は何かを言って聞かせるかのように、わざと遮った。

「俺だって、何も考えないでそういうことをやるほどバカでも向こう見ずでもないッスよ」

そして、ポケットから何か光るものを取り出す。

それは、何枚かの小さな鏡だった。

「そこのロッカーにある鏡を、ちょっと拝借しました。これ以外に、比較的近くにある備え付けと思われる鏡は合わせて27枚。そこを瞬間移動していけば、追いつかれることはないでしょ」

ついでに、今手に持っている鏡を置いていけば、瞬間移動で行かれる先が増えるということらしい。言われてみれば、瞬間移動は飛んでくる前触れこそあるが、移動は距離に関わらず本当に一瞬で済むらしいから、それを駆使すれば確かに逃げ切れるだろう。

「判った。無理はするなよ。やばいと思ったらさっさと逃げろ」

「将仁さんこそ、無茶は厳禁ッスよ」

「ふっ、生意気なこと言うじゃねえか」

「その生意気な人と同じ姿スから」

そして互いに顔を見合わせて笑いあう。

「むぅーっ!」

そのとき、俺が持っていた携帯電話から、女の子のそんな声が発せられた。

「お兄ちゃんずるいーっ、鏡介お兄ちゃんにばっかりぃーっ!」

ケイの声だった。あまりに場違いなその声に、緊張していた空気が一気に崩れていってしまう。

「んじゃ、そろそろ取り掛かるか」

「そうッスね」

その雰囲気の中で、鏡介がドアノブに手をかける。

「ん?あれ?」

そしてノブを回したが、そこで怪訝な顔をしてドアを揺すってみせる。

そういえば、そのドアには鍵がかかっているってこと、言うのを忘れていた。

「鍵がかかってるっスね」

「ああ、悪い、言うの忘れてた。合鍵もないしぶち破ろうと思ってたとこでさ」

言い訳をすると、鏡介は拍子抜けしたようなあきれたような顔で俺を見る。そんな顔で見なくたっていいだろうが、本当に言い忘れただけなんだから。

「だったら早く言ってくださいよ」

すると、鏡介はそう言いながらドアから数歩離れた。が、なぜかそのドアから視線を外さない。

その理由はすぐ判った。

そこで改めてドアに向き直った鏡介は、いきなり右手を振り上げると、指先をそのドアに向けて腕を伸ばしたのだ。

その直後、鏡介の指先から放たれたいくつかの楔状の青白い光が、ガガガッという音を立ててドアノブへと突き刺さる。

そして、そこから火花とバンッという破裂音を撒き散らし、俺達を閉じ込めていたドアは、その半分以上が木屑となって吹き飛んでいった。

忘れていた。鏡介はこういう芸当もできたんだっけ。今の技はこの前のとはまた違うみたいだが、新しいバージョンだろうか。

「んじゃ、先に行って騒ぎを起こしてきます。将仁さんは頃合を見計らって、部屋を出てください」

あっけに取られる俺の目の前で、鏡介はたった今吹き飛ばしたドアのあったところをくぐると、軽く手をあげ、そして駆け出していった。

間もなく、別のほうからばたばたと走ってくる数人の足音が聞こえてきた。

「なんだ今の音は!?」

「お、おい、ドアが吹っ飛んでっぞ!」

「あいつ、逃げやがった!探すぞ!」

どうやら、俺を捕まえた連中らしい。物陰に隠れて息をひそめていると、そいつらは部屋の中を改めることもなくまたばらばらと散っていった。

「いたぞー!」

間もなく、かなり離れたところからそういう声が聞こえてきた。と同時に、爆発音と悲鳴も聞こえる。

「あいつ、えらく派手にやってんなぁ」

「大丈夫なのかなぁ、鏡介お兄ちゃん」

軽く頭を抱えた俺の手の中で、携帯電話の形態をとったままのケイも似たようなことを言う。

確かに、囮は派手に動いてくれたほうが注意を引きつけて良いんだが、これはちょっとやりすぎのような気がする。

だがまあしかし、このままここにいてもしょうがない。

「よし、行くか」

頭を切り替える。あいつなら、鏡が1枚あれば、逃げるのは可能だ。全部使い果たすみたいな墓穴を掘ることはないだろう。

「ね、お兄ちゃん?」

そして、落とさないようポケットに入れようとしたとき、ケイが話しかけてきた。

「ケイのこと、ポケットじゃなくてね?手に持っていたほうがいいと思うの」

「・・・・・・は?」

「ほら、建物の中だと、障害物が多くて、電波が飛びにくいから、ちょっとでも邪魔が少なくなるようにしたほうがいいと思うの」

「ん、そうなのか?」

「そうなの!」

こういうふうに逃げるときは、両手が空いていたほうがいいんだが、ケイの言うのももっとものような気がする。

「ん、判った。握りつぶしたらごめんな」

「うん、落としたり、無くしたりしたら、嫌だからね?ぜぇぇったいに、ダメだからね!?」

軽く握りしめた手の中から聞こえるケイの言葉は、意外に落ち着いているように聞こえた。

「鏡介、死ぬなよ」

そして、部屋を飛び出した俺は、鏡介が消えていったほうへ目をやると、反対側へと走り出した。

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