13.ついに実力行使 その5
今、俺は、帰り道となっている国道沿いを歩いている。このへんは大きな店とかがないので、車道は車がビュンビュン走っているのに、歩道にはあまり人がいない。
「今日はとってもいい天気~♪」
その俺の前を、何が楽しいのか人間形態になったケイがスキップしながら歩いている。
確かに、秋晴れと言ってもいいぐらいにいい天気だ。まあ浮かれている理由は他にもあるんだろうが、ケイがそうやっている姿を見ると、なんとなくほんわかした気分になる。
それだけなら文句はないんだが、ケイだけと一緒にいると、数日前にフルボッコにされたことを思い出してちょっとブルーになってしまう。しかし、ああも楽しそうにされていると止めろとも言えない。
俺って、甘いのかなぁ。
「おい、ケイ」
「なぁに、お兄ちゃん?」
何の気なしにケイに声をかけると、ケイはぴたっと足を止めてたたたっと駆け寄ってくる。
最初はわざとやっているんじゃないかと思っていたこのかわいい(と俺は思う)仕草だが、最近、どうやらケイはこれが素らしいと判ってきた。さすがは妹機能つき携帯電話。
もしこれをシンイチの前でシンイチに向けてやったら、妹萌えのあいつのことだから、鼻血だして悶絶するんじゃなかろうか。そしてそれを見た委員長がおもいっきりむくれる、そんな光景までが一連で脳裏に浮かんでくる。
「どしたの?」
そんなことを考えていると、不思議そうな顔をしたケイが、小首をかしげて俺の顔を覗き込む。
「いや、他の人にぶつかんないように注意するんだぞ」
「あ・・・・・・」
すると、さっきまであんなに楽しそうだったケイの表情が一瞬にしてくもり、声のトーンまでおちこんでしまった。多分、俺が軽くブルーになる原因になったアレを思い出したんだろう。
そんなしゅんとされると、なんか凄く悪いことをしたみたいで罪悪感にさいなまれる。
「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
「えぅ、でもぉ」
「心配すんなって。あんときも一晩寝りゃ治ってただろ?」
「だけどだけどぉ、あれはケイのせいでぇ」
「だから、注意すれば大丈夫だって。な?今はあんまり人がいないし」
そんな感じで、今度はケイをなだめなければいけないことになった。
だから、俺の近くに怪しいワゴン車が近づいてきていたことにも気が付けなかった。
ふと、俺のすぐ後ろで、車がブレーキをかけるような音がした。
信号どころか交差点も、コンビニすらも無いところだったので、何で停まったんだろうと思い、そっちに目を向ける。
すると、すぐそばと言ってもいいぐらいすぐ近くに、型は新しそうだがこれと言って何の変哲もない平凡な白いワゴン車が停まっていた。
別に気にするほどでもないかな、と思って視線を外そうとした時だ。
がちゃ。
そのワゴン車からそんな音がして、スライド式のドアが開き、そして人が一斉に降りてきた。
それだけならなんでもないし驚きもしないんだが、なぜかそいつらは降りてくるや一斉にこっちに向かってきたのだ。
しかも、単にこっちに来るだけではなく、その視線が向いている先は明らかに俺なのだ。
そしてその時になって初めて、そいつらがこの前俺に喧嘩を吹っかけてきて、さらにその数日前にシデンと紅娘を口説いて逆にボコられていた連中だと気がついた。
「持ってろ!」
「きゃ!?」
カバンをとっさにケイに投げ渡すと、とっさにファイティングポーズに移行する。
「おらぁ!」
先頭を切って駆け寄ってきた奴が、手に持った何かを突き出してくる。すかさず上体をひねってそれをかわしつつ左のジャブを、そしてすかさず右のフックを打ち込んだ。
まさか学校帰りに問答無用で喧嘩をふっかけられるとは思わなかったが、頭より先に体が反応してくれる。
だが、ぶっ飛ばしたそいつが落としたものを見た瞬間、俺は思わず目を見張った。
それは、雑誌とかで見たことがある、いわゆるスタンガンだったのだ。
これはマジでやばい。そう思った瞬間だ。
「がっ!?」
全身に、何度か感じたことがあるような、しかしそれより強烈な、重く鋭い衝撃が走った。
「お兄ちゃんっ!?」
ケイの叫びを聞きながら、俺の意識は一気に遠くなっていった。