13.ついに実力行使 その2
「ふわぁ~あ~」
自分の席についた俺の口から、大きなあくびが吐き出された。
あの後、なんとか用を足してベッドに戻ったはいいが、目が冴えてしまい結局は全然眠れなかった。
そして、飯を食って制服に着替え、通学してここまで来た今頃になって、睡魔が鎌首をもたげてきたのだ。
「どうしたマサ、眠そうだな」
「深夜番組でも見てたんじゃねぇの?」
「見てねぇよ・・・・・・」
自分でも判るぐらい返事に覇気が無い。
とはいえ、何があったかは聞かれても答えられない。答えられるわけがない。本当のことを言ったら確実にクラス中の男子からフルボッコにされる。
ぶるるるるるっ。
話しかけてくる奴らを軽くあしらって、机に突っ伏そうかと思ったその時、ポケットの中で携帯が震えた。
「ぁい」
「うあ、お兄ちゃん、大丈夫ぅ?」
半分寝ぼけ眼で携帯を出して開いて耳に当てると、そのむこうからケイの心配そうな声が聞こえてきた。
「具合悪いんだったら、お休みしたほうがよかったんじゃない?」
「ただ眠いだけだよ、心配いらねって」
なんか、ケイのそんな声を聞いていると休んでもいいような気もしてくるが、それも今更な話だ。授業をふけて保健室のベッドで寝るってのも定番中の定番だが、なんかそこまで行くのもかったるい。
まあ、今日は移動教室はないし、午後は帰るんだから、授業中はちょっと寝かせてもらおう。
「真田はん?」
そんな時、俺は不意に声をかけられた。
顔を上げると、いつのまに登校してきたのか、賀茂さんがこっちをのぞいていた。
「ああ、おはよう」
「がっこまで来て、おねむどすか?」
「ちょっとワケあって眠れなかったんだよ」
いつもなら嬉しい賀茂さんとの会話も、今日ばかりはめんどくさく感じてしまう。
だから、賀茂さんが、いつもとちょっと違う目でじっと俺を見ているのに気がついたのは、そう返事した後だった。
なんというか、俺の奥底を見通そうとでもしているかのような、深い目をしているような気がした。
「真田はん?」
「う、な、なんだ」
だから、改めて声をかけられた時、俺は次のことばを聞くまで、寝入ることができなかった。
「今日の真田はん、凶相がでてますえ?」
「・・・・・・は?」
「災難に遭わはる相どす。色々、注意したほうがよろしおすな」
「ふぅん、災難ねぇ・・・・・・」
普通なら聞き流しているところだが、虫の知らせとでもいうんだろうか、なんとなくちゃんと聞いてしまう。まあ、死相が出てるとかじゃないからいいか。
「へえ、賀茂さんって、そんなことまでできるんだ?」
「じゃあさじゃあさ、あたしの今日の恋愛運とか見てくんない?」
だが、その忠告に礼を言おうかと思った時に、他のクラスメイト、特に占いとかが大好きな女子が、その話をきっかけに賀茂さんに話しかけてきて、何やら占い談義が始まってしまった。
なんで賀茂さんはそんなことが判るのかとか、聞きたいことは色々あった。だが、こうなってしまった以上、俺は話しかけるすべを持たない。
そう思った瞬間、自分の中の睡魔が抑え切れなくなり、俺の意識は一気に奈落の底へと沈んでしまったのだった。