13.ついに実力行使 その1
9月26日
今朝は、気がついたらベッドの中だった。どうやら、俺はまだ生きているらしい。
あんな電気ショックを、しかも頭に受けていても翌日には普通に目が覚める自身の生命力に、我ながら感心する。さすがにまだ少し痛いことは痛いが。
頭に手をやる。あの珍妙な名前の電気が流れるハチマキは巻かれていない。ちょっとほっとする。
ほっとしたところで、体を起こしベッドから静かに出る。はて、なんか妙に外が暗いな。雨が降っているわけではないみたいだが、もしかしたらこれから降るのかね?
「ぐぅ~っ、ひゅぅ~」
珍しいことに、鏡介のやつがまだぐーすかとイビキをかきながら寝ていた。最近は大抵俺より先に起きているのだが、おかげで今日は俺がいつもどんな寝顔でいるのかが確認できた。
でっけぇ口開けて寝てんだな、俺って。なんてなことを考えながら、ふと壁にかけられた時計を見る。
「5時ぃ!?」
思わずそんなことを言ってしまう。いつもだったらあと2時間は寝ているはずの時間に目が覚めてしまったのだ。まだ太陽も出てないだろうから暗いのは当たり前だ。
やっぱり、昨日、いつもよりかなり早く寝入ってしまったからだろうか。寝入るのと気を失うのとは違うような気もするが、こんな時間じゃ鏡介どころかこの家で一番の早起きらしいレイカでも多分寝ているだろう。別に確かめるつもりはないけど。
とりあえず、自分が生きていること、体のほうにもおかしいところが無さそうなのでいいとしとこう。
というわけで二度寝としゃれ込もう、と思ったが、ちょっともよおしたので、トイレに行くことにした。
廊下に出ると、ヒビキのイビキという轟音が例のごとく廊下に響き渡っている。
こんなのが廊下中に鳴り響いていたら多少別の物音を立てても判らないような気もするが、まあ気分の問題で、廊下の突き当たりにあるトイレへなるべく静かに向かう。
トイレのドアからはなぜか明かりが漏れていた。誰か使って点けっぱなしなのか?
と思っていたら、じゃーっという音がした。ってことは誰か使っていたのか。2階に寝てるのといえば俺と鏡介、それからヒビキとシデン、ケイ、バレンシア、それから常盤さんか。鏡介はさっき寝てたし、ヒビキもこのイビキから除外、といってもまだ4人いるか、誰だろう。
「Master!?」
そんなことを考えていると、ドアが開いて、まだちょっと眠そうな金髪メガネが現れた。
「Are you all right?What are you doing?」
「Whatって、トイレに来てすることなんて限られているだろ」
「Hmm、それもそーデスねぇ」
なんかその雰囲気にそぐわないのんびりしたやりとりがされる。
そしてなんとなく下のほうに目をやる。初めて見る、半分輪切りになったオレンジ色の柑橘類の絵が白地に散りばめられた、パジャマを着ている。
うちのモノたちが人の姿で眠っているのは、この家に引っ越す前にちょっとだけ見たことがあるが、あの時は鏡介以外みんないつものあの格好で寝ていた。だから、俺はてっきり、姿を変えられる鏡介と、最初から何も着ていなかったクリン以外はいつもの格好以外はできないもんだと思っていたが、そうでもないみたいだ。
まあ元がモノだとはいえ今は女の子だから、いつもと違う服装がしたくなるのも当たり前か、と思ったところで、俺はあることに気がついてしまい、あわてて目をそむけてしまった。
バレンシアといえば我が家で一番の巨乳であり、そのサイズときたらどんな服を着てもその存在をアピールしまくるほどだ。そして今、その頂点に小さく突き出しているモノが、トイレの照明で影を作っていたからだ。まさか、バレンシアの奴、ノーブラなのか!?
「Master、really really にall rightデース?」
やっぱりその行動は不審だったらしいが、違う意味に取られたらしい。困ったような目で俺を覗き込むと、ずいっと俺に近づいてくる。
っておい、ちょっと待て、バレンシア。胸を、存在感たっぷりなその胸を、押し付けるな、俺の胸に、押し付けるなっ、お前、ノーブラなんだろうっ!実は朝立ち中で股間がすでに結構ヤバかったのが、本格的にヤバくなってしまうだろうがっ!
「お、おいっ」
頭のほうは完全に覚醒しているが、口のほうがうまく回らない。
「Master、your heartのpulseがintenseデスねー、早めにtake restするがgoodデースよー。Good night~」
そんな俺の精神状態を知ってか知らずか。バレンシアは俺からぱっと離れてそういい残すと、そのまま自分の寝室へと消えていっちまいやがった。
「・・・・・・なんだよ、おい」
そして後には、頭と下半身に血が集まった状態で、俺一人が取り残されてしまった。
この作品を読んだことのある方、お久しぶりです。
はじめて読む方、はじめまして。
作者です。
ずいぶんとブランクが開いてしまいましたが、第13話、ようやくお届けする運びとなりました。
今回は、活躍しないモノたちは本当に出番が少ない話になっています。
なるべく全員を均等に出したいなあとは思っているのですがなかなか難しいもので。
まあとにかく、しばらくの間、主人公・将仁氏の悪戦苦闘っぷりをご堪能ください。