12.忘れていた学校行事 その18
「お兄ちゃん、明日学校休むの?」
晩飯の席で、さっき常盤さんから持ちかけられた話をしたところ、真っ先にケイが反応した。
「ああ、休むと言っても午後だけだけどな」
「午後というと、がくえんさいとやらの準備があるのではなかったか?」
「だから、そのへんはちゃんと学校の許可は取ってるって」
「唉呀、でもワタシ、も一度来るしてくれと言われているアルけど」
「行くぶんには問題ないんじゃないスか?今週の午後なら、確か身内だったら誰が行ってもおとがめなしなんでしょ」
「んーでも、将仁サンいないのに行くのもちょとつまらなそアルな」
箸の先端を咥えながら、紅娘が呟く。
「でもそうなりますとぉ、やっぱりぃ、持って帰ったのはぁ、正解でしたねぇ」
「そういうわけだから、お兄ちゃん?汚しちゃダメだよ?」
そういいながら、学校ではお裁縫チームだったケイとクリンがこっちを見る。
「無茶言うな、着せたのはお前らだろ」
そう。実は今、俺は、曹操の格好で席についている。
今日は晩飯がちょっと遅くなったせいで、手持ち無沙汰になったお裁縫コンビに着させられてしまったのだ。そしてこれが、脱ぎ着が簡単にできないへんてこりんな服なので、メシ時になっても脱げなくて結局着たままにしているのだ。
重ね着しているので少々暑苦しいが、ある意味オーダーメイドなのでサイズ自体はそんなにきつくない。だが、袖が長い上に袖の下が大きいので、垂れ下がった袖の先にソースや汁物がつきそうなのが不便だといえば不便だ。
食卓についた俺の格好を見て、レイカが、珍獣か何かを見るかのように俺を見ていたのが印象的だった。
「But、なーせMasterが曹操なのでースかー?曹操はー、三国志ではvillan(敵役)デース」
「そりゃお前、その時はくじ運が悪かったんだよ。俺は趙雲がよかったんだ」
そして、当然のことながら、飯の席ではその話になる。
「何を言う、曹操は最大勢力である魏の頂点ではないか。恥じることはあるまい」
「それに、本当の曹操は、政治家としても軍人としても劉備や孫権より優れていた、と伝えられているでしょう」
「徹底した実力主義だたらしいアルな。昔の中国のヒトには嫌われるタイプアル」
「確かに、儒教の精神に反しているので、悪役にされた、という説はありますね」
常盤さんの台詞に、ちょっと救われた気分になる。曹操ってただの嫌われ者じゃなかったんだな。
「でも、お兄ちゃんが嫌われ者をやるなんてぇ。なぁんか陰謀の匂いがするよぅ」
「将仁さんはぁ、クラスの方々にぃ、目の仇にされていましたからねぇ」
「やだねぇ、もてない連中のひがみってやつかい?」
「そう言うなよ、俺だってちょっと前までは同じような立場だったんだし」
「将仁くんは曹操をするには人がよすぎる。嫌われ者ならもっと図々しく振舞ったほうがいいのではないかしら」
「そんなことしたら、その後でさらに嫌われるのがオチっすよ」
鏡介、そういうことは明言しないのがせめてもの情けじゃないのか。
それにしても、俺が曹操をやるからだろうか、妙に魏に肩入れする発言が目立つ。
それで、俺も曹操への考えをちょっとだけ改めることにした。