03.そして何かが動き出した その1
9月16日 土曜日
昨日、寝床に入ったのが早かったせいかもしれないが、なんか、早く目が覚めた。
昨日と違ってとても楽な感じがする。枕が替わったら寝られないなんて繊細なことは言わないが、やっぱ、床で寝るよりはベッドのほうがいい。
「ん?」
なんだこりゃ?俺の横の毛布がふくらんでいる。これは確かに、ベッドの中に何かある。というか何かいる。
おそるおそるめくってみる。そして、思わず声を上げそうになった。
「すぅ・・・・・・ん・・・・・・すやすや・・・・・・」
窮屈なほどに体を丸めた子が、俺のベッドの中ですやすやと寝息を立てていたのだ。
ケイだった。・・・・・・って、なんで俺の布団に入っているんだこいつはっ!
というか、入られたのに気づかなかった俺もかなり疲れているんじゃないだろうか?
起こしたら騒ぎになりそうなんで、なるべく音を立てないようにそーっとベッドから出る。
ふと、その視界の端に何か黒いものが見えた。足音を忍ばせてその黒いものに近づくと、その物体はまるで呼吸するように膨らんだり縮んだりしているのが判った。
それは、いつも羽織っているマントにくるまり、古雑誌を枕にして眠っているテルミだった。このマントって、こんな使い方もあるんだなぁ、と思ってしまったが、これから寒くなるんだからそれじゃ風邪ひくんじゃないだろうか。
・・・・・・って、こいつら、風邪ひくのか?
考えるとまた判らなくなってくるので、起こさないようにダイニングへと移動する。
「んがががが・・・ぐぉ〜・・・」
すると、ブルドーザーのエンジン音のような異様な音が聞こえた。
なんだ?と思ってその音がするほうを見ると、赤い人影が、玄関に片足を突っ込んだ状態でエンジン音のようないびきを上げて、大の字に寝転がっている。
「・・・・・・ヒビキって・・・・・・」
オフロード仕様だからワイルドなのはまぁわかるが、ここまでガサツでなくてもいいだろ。一応、女の姿しているんだから。
にしても、あんなぴっちりしたライダースーツを着て、窮屈じゃないんだろうか?と心配になってしまう。
とりあえず、顔を洗うために洗面所に行く。
ばしゃばしゃと顔を洗い、タオルで顔を拭いた、そのとき、浴室へのドアが目に入った。
横にある脱衣籠には、昨日の洗濯物のほかに、俺の色物シャツが入っている。
「昨日、クリンの奴、風呂場に戻ったみたいだけどな・・・・・・」
ちょっと気になって、浴室のドアを開ける。
すると、クリンはそこにいた。それも浴槽の中で、きのうの残り湯の中にぷかぷかと浮かんで、口を半開きにして寝ている。
一瞬、溺死体のように見えてしまったが、近づくとちゃんと息はしていた。そして、その下には、毛布か何かのかわりなんだろうか、タオルが浮かんでいるが、その下からあの結構なサイズのオッパイが2つ、浮き袋のようにタオルを押し上げている。
湯船にタオルを入れるのはダメなんじゃなかったかな〜、なんてしょーもない事を考えながら、俺は浴室のドアをそっと閉めた。
「はぁ、どうするよ、俺。夢ならいい加減覚めてほしいんだけどなぁ」
ゆうべは夢の中で寝てまた夢を見た、というおかしなことになるのはこの際考えないことにする。
俺は、洗面台の鏡に映る俺の姿に、思わず愚痴をこぼしていた。
なにしろ、1DKトータル8畳ほどの俺の部屋に、4人もの女の子が寝泊まりしているのだ。部屋も狭くなるし、なんというか、立場がない。
そういえば、なんで女ばかりなんだろう。りゅう兄のセリフではないが、考え方によっちゃ確かに男の夢、ハーレムな世界ではある。が、この狭い1DKではそれにも限度がある。
「だいたい、女には言えないことも、見られたくないことも、男にはあるんだって」
鏡に映る自分の姿に語りかけてしまうとは、どうやら、俺、本格的に疲れているらしい。
「な、お前もそう思うよな?」
そしてそれとなく伸ばした手が、その鏡に触れた瞬間。
きいぃぃぃぃぃん、と、甲高い、耳鳴りのような音が聞こえた。
そして、真っ白な光が俺の視界一杯に展開する。
「またか――――っ!」
まだみんな寝ているにも関わらず、俺は叫んでいた。
どうも、作者です。
ようやっと3日目になりました。
そして主人公氏は3日目の朝っぱらから騒ぎを起こしていますw
さて、本作のラストの光景からのご想像通り、次は鏡の擬人化の登場です。
もしかしたら、読者の方々の予想を裏切っているかもしれません。
請うご期待!