12.忘れていた学校行事 その15
「んじゃ、また明日な」
6時を回ったところで、今日はみんなを帰すことにした。一応、外から呼んだ人は6時までに帰すことになっているからだ。
で、みんなを帰さなきゃならなくなったんだが。
「帰らなきゃダメ?」
ケイが、そんなことを言ってきた。
「まだ出来てないんだけど、いいの?」
そして、作りかけの衣装を俺に見せる。確かに作りかけだが、それでも結構形にはなっている。
「そうは言っても、もう6時回っちまったから」
「じゃあお兄ちゃんも帰ろ?」
すると、ケイは何を思ったか上目遣いで俺を見てそんなことを言ってきた。
とたんに、背中から無数の刺すような視線を感じる。うーん、人気者の妹を持つと大変だ。
「おい貴様ら!なんという情けない目をしておるのだ!」
「まあまたそのうち、ヒマになったら来てやるからさ」
シデンやヒビキが、その刺すような目で見ている連中に向かって声を出す。例によってシデンはケンカ腰だ。これでなんでクラスの連中に嫌われないのかが不思議だ。
「ま、まあ、しょうがないんじゃね?」
「そうだな、真田は大したことしてないけど、応援の人は凄く助かったし」
「それにまあ、明日もあるしな」
すると、うちのクラスの連中からもそんな声が出てきた。やっぱり男は、可愛い子には甘いんだな。
「ね、みんなもそう言ってるしぃ」
いきなり同意し始めたみんなを見てか、ケイがニコニコしながら俺の腕にしがみついた。
「ね、帰ろ?」
そして、上目遣いで俺を見た。
というわけで、俺はうちのモノたちを連れて帰ることになった。
「李さん、明日でもあさってでもいいから、もう1回来てね?レシピだけじゃ判らないところがあるから、細かいところとか教えて欲しいのよ。賞金が取れるかどうか、このお菓子に掛かってるんだから」
帰り際、委員長が紅娘の手を取って真剣に訴え、紅娘は満面の笑みで承諾していたのが印象的だった。
というわけで、俺は5人と共に駅へ向かう道をてくてくと歩いている。
「ねねねお兄ちゃん、帰ったらさ、早速衣装合わせしよ?」
「そうですねぇ、学校では袖も通してもらえませんでしたしぃ」
「おいおい、衣装合わせってのは、出来た衣装を着てみるもんだろ。まだ出来てないじゃないか」
「うっ、で、でも、きついかもしれないかもだしっ」
「しかし、いささか面白くないな。招待されたのは紅娘一人か」
「まあいいじゃねぇの。あたしらも、来るなって言われたわけじゃねぇんだし、それどころか喜んでもらえんじゃないの?」
「そうアルそうアル。それに、ワタシは教える立場アルから」
「むぅ、なぜ料理は学ぼうとする者が多いのだ」
「そりゃお前、メシは食わなきゃ死んじまうだろうがよ」
「ヒビキさんはぁ、食べ過ぎのような気がしますけどぉ」
「腹が減るんだからしゃあねぇだろ。そいつぁ燃費悪く作った奴に言っとくれ」
「んー、誰に言うアル?」
「知るかそんなの。カワスギの技術者じゃねぇか?」
「でも、ケイもなんかお腹すいてきちゃったなぁ」
「今日はダメ。財布の中身そんなに無いんだよ」
「ぶぅ、別にあのお店に行きたいって言ってるんじゃないもん」
「でもダメ。時間的に、帰ったらすぐ晩飯だろうし」
「そういえば紅娘よ、今日は貴様、夕餉の支度をレイカだけに任せたのだな」
「・・・・・・あ、そいえばそうだたアル」
「そうだったってぇ、何も言っていないんですかぁ?」
「荷物置いてくるとシデンサン言てたアルから、うまく説明してくれたと思てたアル」
「そういやシデン、おまえ、学校に来る前に一度家に帰ったんだよな。そこんところ、どうなんだ?」
「そっ、それはまあ確かにそうだ、だから話はしたぞ、紅娘は外出することになったと」
「だったら問題ないじゃん」
「そういえばクリンちゃん、お兄ちゃんと一緒に学校に行くって、朝、誰かに言ってきた?」
「あぁ、んん、ええとそのぉ」
「お前、黙って来たのか!?」
「あうぅ、だってぇ、私もぉ、学校が見たかったんですよぅ」
「見たかったって、あのなぁ。土曜日に学園祭が始まりゃ一般公開されるんだから、それまで待てばいいじゃねぇか」
「でもぉ、それってぇ、いつもと違う学校じゃあないですかぁ。ケイさんやぁ、シデンさんがぁ、見たのと違いますものぉ」
「それを言うか、貴様。我だってなあ、昼餉の時間だけしか居られなかったのだぞ!?」
「将仁サン、今日食べた菓子の中で、何がイチバン気に入たアルか?」
「ん?あ、俺はあのロールクッキーみたいなのかな、中に胡麻餡が入ってたやつ」
「好、もしかして将仁サン、胡麻が好きアル?」
「ん、まあ嫌いじゃねぇな」
「へぇ、そんな美味かったのかい?あたしもサボってないでお呼ばれになりゃ良かったな」
「まあまあ、後でうちで作てあげるアルから、楽しみにするヨロシ」
「おう、楽しみにしてっかんな」
「あっ、スイーツがおいしいお店!」
「だーからダメだっつの」
うん、なんか、賑やかだ。たまにはこういうのもいいよな。
なんとなく楽しい気分になりつつ、俺はみんなと家路についた。