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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
12.忘れていた学校行事
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12.忘れていた学校行事 その14

「きゃーっ」

化学教室の近くまで来たとき、なぜか大人数の悲鳴が聞こえた。

「なんだなんだ?」

紅娘の奴、何かやらかしたのか?と思ったが、その直後、こんどはそっちから漂ってくる甘い匂いに気が付いた。

火を使っている(と思う)から、香ばしいにおいはするが、焦げ臭くはない。火事とかにはなってないようだ。

じゃあさっきの悲鳴はなんだ?と思って耳を澄ますと、さっきほど高いトーンではないが、きゃいきゃいという声はあいかわらず聞こえる。

何が起きているんだろう。

その理由は、化学教室を窓からのぞいたときに、とってもよく判った。

「わぁっ、これサックサクでおいしー!」

「こっちのクッキーも甘すぎなくていい!」

「胡麻餡ってこんな爽やかな味なんだぁ」

女子たちが、手作りのお菓子を食べて歓喜の声を上げているのだ。何人か他のクラスの奴も混じっているが、そいつらも一様に賞賛の声を上げている。

「何だか照れくさいアルね、こなに褒められるするアルと」

そしてその真ん中には、いつも背負っている鍋をカセットコンロに載せた紅娘が、まんざらでも無さそうな表情で立っている。そしてまわりのテーブルには、紙皿に乗せられた焼き菓子やスチロールのお椀に入った汁物が並んでいる。

なんか、照れているのは紅娘だけみたいだ。ってことは、コレ全部紅娘が作ったんだろうか。相当頑張ったみたいだな。

と、ここにいたら声がかけられないことに今更ながら気が付いて、俺は中に入ることにした。

こんこん。さすがに女だけの、特に生身の女ばかりの中に乗り込んでいくほど図太くないので、まずはノックをする。ノックしてから、最近微妙に薄れてきた朴念仁キャラを押し出せば問題ないかもと思ったがまあいい。

「あら、真田君。どうしたの、自分の仕事は?」

化学教室のドアをがらりと開けて顔を出したのは、委員長だった。

「だいたい終わっているよ。うちから応援が来たから」

「応援?」

「学生でなくても来ていいって判ったもんだから、ヒマなのが来てるんだ」

言いながら中を覗き込む。紅娘の様子を見に来たんだから当然だ。

委員長の肩越しに見えた紅娘は、クラスの女子に混じって、うちでは見ないような顔で談笑している。やっぱあれかな、中華鍋の化身なのに家だと台所はレイカが支配して思い切り料理ができないから、好きなだけ料理ができたのは楽しかったのかな。

「あっ、将仁サン!」

その紅娘が、俺に気付いて駆け寄って来た。

「どしたアル?おなかすいたアルか?」

「人を食欲の権化みたく言うなよ」

「まままま、将仁サンもどぞw」

「はぐぁ?」

突然、何かが口に突っ込まれた。条件反射で噛むと、サックリとした歯ごたえとほんのりした甘みが口に広がった。

「もぐもぐ、なんだいこれ、変わった味だな」

「老婆餅アル。代表的な中国菓子ネ!」

得意そうに話す紅娘の顔はとても楽しそうだ。

「どアル?口に合わないアル?」

かと思うと、今度は心配そうな表情でこっちを覗きこんでくる。

「何言ってんだ、紅娘が作ったんだから不味いワケないだろ」

「にっしっし、やた!」

そう答えると、紅娘は嬉しそうな笑みを見せる。

そしてそのむこうでは、料理班の女子がひそひそ話をしているのが見えた。ひそひそ話と言っても声は小さくないので何を言っているのかはまる聞こえだ。

「真田君って、意外とジゴロなんだね」

「女の人たちと同棲するようなったって言うけど、やっぱりそのせいなのかしら?」

「でも、それってここ2週間ぐらいでしょ?それでああなるなんて、やっぱり天性のジゴロなんじゃない?」

「ふむ、残念だな。真田はもっと硬派な男だと思っていたのに」

なんかえらい言われようだ。俺だってお前らと同じ高校生なんだから異性に興味があるのは当たり前だろう。それがないと思っていたのはお前らの勝手で。

「変にハブられてないか心配だったんだが、まあ問題なさそうだな」

ちょっと泣きたくなったのをぐっとこらえ、紅娘にそう声をかける。

「唉呀、将仁サン、心配してくれたアルか?」

すると、紅娘はかるーくニヤって俺の顔を覗き込んできた。

「そりゃ少しは心配するさ、いつもと勝手も違うだろうし」

「好!感到高兴、謝謝、謝謝~!」

思わず素直なことを口走ってしまったら、紅娘に手をとられ上下に思い切りぶんぶん振られてしまった。さっき委員長がお前にやってたのをオレにやり返しているのか、お前は。

「じゃじゃじゃ将仁サン、もっと味見するヨロシ!この紅娘の自信作アルね!」

と思う間もなく、紅娘は俺をぐいぐいと試作品の前に引っ張っていく。

「はい、欢迎光临!どぞ座るヨロシ!」

そしてその試作品の前に強引に座らせる。

「コレ、芝麻蛋巻と言うアル。中国のロールクキーアルね」

そして本人は俺の横に立つと、近くにあった白くて細長いものを手にして持ってくる。サインペンほどの太さのそれは、近くで見ると表面に胡麻がいっぱいついており、胡麻の匂いに混じって甘いにおいがした。

「はい、アーンするアル」

「い!?」

だが、次のその言葉には、俺も困惑、以上に面食らってしまった。だってお前、まわりにはうちのクラスの女子がいっぱい居るんだぞ!?

さらに言えば、紅娘は俺の知る限りこういうキャラじゃない。なんというか、紅娘は他の連中と張り合うことで被害を大きくするブースターみたいな奴で、単品では比較的無害なはずだ。

「ちょ、ちょっと待て、お前キャラ変わってないかオイ!?」

思わず立ち上がって叫んでしまう。

すると、まわりの女たちからクスクスと笑う声が聞こえてきた。

もしかして、紅娘のやつ、クラスの女子にいらんことを吹き込まれたか?

「おっ、お前ら~・・・・・・」

なんか、俺への見方が急激に変わっていくのがありありと判るようで、もの凄く恥ずかしいぞ。

まあ、元々女ばかりの中に一人で入ること自体がすでに恥ずかしいんだから開き直ってしまえばいいんだろうが、恥の上塗りにしかならないような気もするし、かといってここで逃げるのもかっこわるいし。

考えた末。

ひょいぱく。

「ん、甘すぎなくていいなコレ」

女たちの目を盗んで、俺は胡麻が目いっぱいついたスティック菓子を自分の手で口に運んだ。

「唉呀ー、食べられてしまたアル」

すると、紅娘は嬉しいんだか残念なんだか良く判らない声を上げた。

そして、まわりにいた女どもからはなんか白けたような空気が流れてきた。

どうやら、選択を間違えたようだ、って今更か。こういうときに選択肢を間違えるから俺は朴念仁だのなんだのと言われるんだ。それに、ばれたら他のモノたち、特にケイやシデンの外見年少組がむくれるのは目に見えている。だからこれでいいんだ。

なんて考えて自分で自分を納得させようとしたが、正直、あーんってやってもらった時に素直に食っておけばよかったという後悔の思いが、心の中に沈殿していたのも事実だった。

ちなみに、その紅娘作の中華菓子はみんなにも好評で、うちのクラスに持っていったところあっという間に胡麻一粒、ぜんざいの汁一滴に至るまで全部が綺麗に無くなってしまった。まあ、中華鍋の化身の紅娘が作る中華なんだから不味いわけがない。不味いと思うやつがいたらそいつはよっぽど中華が嫌いかもしくは味覚がおかしいかだ。

ただ心配なのは、それをうちの女子が本当に再現できるかだ。料理班の女たちは、確かにうちのクラスでは料理が得意だと自他共に認める連中だが、紅娘はある意味プロだから、その腕は趣味でやっているそいつらも及ばないぐらいのハズだ。

まあ、そんなことを言って自信喪失されたら出し物が失敗する可能性もある。それは、わざわざ当日に曹操のコスプレをして練り歩く身としても避けたいところなので、今日のところはあえて言わないでおくことにした。

・・・・・・なんか最近、こういうのが多いよな~、オレ。

変に秘密が多くなってしまった我が身を振り返って、ちょっと悲しくなった。

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