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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
12.忘れていた学校行事
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12.忘れていた学校行事 その12

「よし、こんなもんか」

目の前の壁に、角材で作った枠がいくつか立てかけられている。

模擬店で、壁として使うパネルの枠だ。これに、壁の絵を書いた模造紙を貼って、壁が完成する、予定だ。

「なんだ、もう終わりかい?」

そして俺の横には、バイザーをあみだにし、金槌を手に爽やかな笑顔を浮かべたヒビキが立っている。この枠作りを手伝ってくれたのがヒビキだった。

それにしても、こんな早く終わるとは思わなかった。なにしろ桁外れにパワフルなヒビキがやるもんだから、電動ノコギリ並の速さで角材を切り、釘もまさにトンカチ一振りで根元まで打ち込まれてしまうのだ。それは、もしかしてヒビキってこういう大工仕事の才能があるのかもしれないと思わせるほどだ。

「いや、まだだけど、壁のほうが出来ていないからさ」

「ふーん?」

するとヒビキはちらりと、部屋の隅でその壁紙を作っているチームを見る。そっちでは、男女混合の一団が、懸命に模造紙に絵筆を走らせて壁の絵を描いている。

まあ、芸術作品ならともかく、普通の絵はパワーだけじゃ描けないもんな。

「そういや、他の連中は何やってるんだろうな」

ちょっと手持ち無沙汰になったとたん、他の連中のことが気になり始めた。なにしろ、みんなして少し非常識な存在だ。ぶっとんだことをしていないとも限らない。

「ちょっと見てくる。ヒビキは、一休みしていてくれ」

「あいよ」

というわけで、息抜きを兼ねて様子を見て回ることにした。

まず気になったのは、ヒビキと一緒に来たシデンだ。なにしろあの性格だ、気に食わないことがあったら暴れだす可能性もある。

そのシデンは、模擬店の装飾や小道具を作るチームに加わっている。

「む、上官。良いところに来たな」

そっちに顔を出してみると、声をかける前にシデンのほうからこっちに駆け寄ってきた。

「ちょうど今、我の作品が完成したところだ。我が許す、見るが良い」

そして、何やら二つ折りにされた肌色の厚紙を差し出してきた。

折り曲げられた紙の真ん中より少し上に、綺麗な書体で、「菜単」と書かれている。確か、中国語でメニューのことだったっけ。

そして開いてみると、同じ書体の文字が、ぴっちり綺麗に縦に並んでいる。

「これ、お前が書いたのか?」

「どうだ、見事であろう」

「折り曲げただけなんてオチじゃねぇだろうな?」

「むっ、失礼な奴だな。正真正銘、我が記したものだ」

俺の反応を見て、得意そうにシデンがふんぞり返る。念のため、そのチームの奴にも聞いてみたが、書く内容とレイアウトこそ指定したが、実際に書いたのは間違いなくシデンなんだそうだ。

意外だ、シデンがこんな綺麗な字を書くとは思わなかった。あの書道セットも、伊達ではないということかな。

「書をたしなむのも武士の務めだからな」

素直に感心すると、シデンは少し照れくさそうにしながら、まんざらでもない様子だ。武士というのはちょっと違うような気がするが、まあ今この場では(女だけど)一番武士らしいからいいか。

それにしても、あのシデンが、よく癇癪を起こさないでいるな。字を書くと集中するのかな、確かに墨で字を書くのは、ミスが許されない一発勝負だからかな。

「ところで上官は、何をさぼっておるのだ?」

「お前こそ失礼だな、俺はお前らが騒ぎを起こしてないかと思ってだな」

「ふん、ならば心配は無用だ。我は職務を放棄することはせぬ」

シデンは、胸を張って臆面も無くそう言い放つ。なんか俺がサボりの常習犯だと言っているみたいだが、まあ正直ちょっとだけあたっているから偉そうなことは言えない。

「上官もさぼってばかりおらず、自分の職務を進めたほうが良いのではないか」

それを察したのか、シデンのやつは俺にそう言い放ちやがった。

次に向かったのは、同じ教室内だが今度は女子ばかりの衣装チームだった。ここには、ケイとクリンがいるはずだ。

ちょっとのぞいてみると、なんか和気藹々とやっているみたいだ。

「あいたっ!」

「あらあら、大丈夫、ケイちゃん?」

「ううぅ」

ケイははじめての針仕事に苦戦しているみたいだ。どうやら針を指に刺してしまったらしく、軽く涙目になって指を咥えている。

一方のクリンは、こっちもはじめてのはずなのに、随分と順調らしい。鼻歌なんか歌いながらチクチクと作業を進めている。

「どうですかぁ?」

「わあ、クリンさん仕事早いですね!」

「ふふ、これでも、家政婦ですからぁ」

「・・・・・・あれ、これは?」

「え、これ、ですかぁ?・・・・・・あ、あらあら、まあまあ」

だが、やることがいつもどこか抜けてるクリンらしく、器用にもジャージの袖を衣装に縫いこんでいた。

「あのぉ、間違いの糸、切ってもらえませんかぁ?」

そしてその縫いこんだ袖のところを、恐る恐るといった感じで近くにいた同じチームの奴に差し出す。そいつが糸切り鋏でちょんちょんと糸を切ってやると、にっこり笑って頭を下げ、また縫い物を始める。そういえばクリンって、すっぱりと切れるからって理由で、刃物が苦手なんだっけな。針が大丈夫で刃物がダメってのはなんか矛盾しているような気もするが、まあ作業に差支えがないから、ここはよしとしておこう。

いずれにしても、仕事の邪魔はしていないようだから、わざわざこっちから邪魔することもないだろう。と思って、そっとそこから離れると、教室を後にした。

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