12.忘れていた学校行事 その10
「ほー、これが将仁サンの通うしてる学校アルか~」
はじめて見る学校を、紅娘が物珍しげにきょろきょろと見ながら歩いている。
このまえケイとシデンを連れて歩いたときもそうだったが、学校というものに来たことがないから、見る物すべてが珍しいようだ。
まあ、俺たちはお使いの途中なので、あまり変な寄り道もできないわけだが。
「あら、李さん」
教室の前までやってきたところで、俺たちは委員長と遭遇した。そして委員長は、目ざとく紅娘のことを見つけた。
「唉呀、委員長サン。元気だたアルか?」
紅娘のほうも委員長のことは覚えていたらしく、にこやかに返事をする。
「私は元気よ。こぉんな問題児ばかりのクラスを引っ張っていくんだもの」
「ひでぇ言われようだなぁ」
「本当のことでしょ?特に男子はこいつみたくサボろうとするのが多いんだから」
「いててててっ、耳引っ張るなよ」
委員長は、すかさず突っ込んできたシンイチの耳をつまみながら答える。
「ところで李さん。午後、時間ある?」
そして唐突に、そんなことを聞いてきた。
「時間があるようだったら、ちょっと協力してほしいことがあるんだけど」
「協力?」
「そう、協力。李さんって、中国茶とか中華料理とかに詳しいんでしょ?よかったら、みんなに教えてもらいたいのよ」
どうかな?と紅娘を見る委員長の目は真剣である。そりゃそうだ。中華の喫茶室をやろうとする奴の目の前にプロ級の奴が現れたんだから。
「将仁さん、どするある?手伝っていいあるか?」
紅娘は俺に、伺うようなことを聞いてくる。が、口では“いいあるか”なんて言っているが、「いいアルよね」と暗に言っているような感じがありありと見て取れる。
「紅娘の判断に任せるよ」
「んじゃ、委員長さん。お手伝いさせてもらいますアル」
「わあ、ありがとう!」
紅娘の返事を聞いた委員長は、彼女の手を取り、大げさにぶんぶんと上下にゆすった。握手は英語でシェイクハンドというが、これこそそのシェイクハンドだと思ってしまうほどだ。
あまりの激しさに、紅娘のほうも面食らっている。
「委員長、あの2人はどうしてる?」
とりあえずそのことは置いておいて、俺は今気になるケイとクリンのことを聞いた。特にクリンのほうが心配だ。何かやらかしてなければいいのだが。
「2人には、裁縫のほうをやってもらってるわ」
「裁縫って、あのコスプレのか?」
「そ。女子のほうはだいたい出来てるんだけど、男子用のがまだちょっとね」
「・・・・・・あー、あれか」
思い出して、ちょっとげんなりする。
うちのクラスの出し物は「三国志期の民俗学」という看板を掲げてはいるが実際は喫茶室であり、女子がそれっぽいコスチュームでウエイトレスをするのだが、コスチューム着るのは、実は女だけではない。と言っても女装してウエイトレス、というベタなものではなく(するやつもいるが)「三国志の武将」の格好をして、「歩く広告塔」として校舎内を練り歩かなければならないのだ。めんどくさい話だが、過去優勝した出し物はすべて広告塔を出しているのでうちもそれに倣っているのだ。
そして、俺は裏方の方が良かったのだが、お前は有名人だからってことで俺にお鉢が回ってきたというわけだ。
俺がやるのは、魏のトップ、曹操だ。俺が知っている三国志ワールドでは「乱世の奸雄」とか言われて、基本的に敵役として登場するやつだ。個人的には趙雲とか馬超とかいった蜀の武将が良かったんだが、他の奴に取られてしまった。ちなみに、シンイチは委員長からの後押しがあって蜀のトップで三国志ワールドで主役をはる劉備をゲットし、ヤジローはクラス中からの推薦もあって、無所属だが三国志中で文句なしに最強の呂布をやることになっている。ちなみに、俺がトップを張る魏からは夏侯惇と司馬懿が、シンイチがトップを張る蜀からはあと関羽、張飛、諸葛亮、そして俺がやりたかった趙雲がそれぞれ選ばれている。そして、三国志だからもう一つの国、呉も出さなきゃダメだろうということで呉からは孫権と周瑜が出る。そしてヤジローこと呂布は董卓と一緒に独立勢力になっている。
そして、ケイとクリンの2人は、俺のコスチューム作成に参加しているらしい。元々設計図(コスプレにそういうものがあるかどうかは知らん)があるのであとはそれに合わせてせっせと作るだけなのだが、それでもやっぱり手作りなので、数人がかりでぎりぎり間に合うかといったところらしい。
「じゃあ李さん、行きましょ」
「そんじゃ行ってくるアル」
委員長は、俺が思い返している間に紅娘と一緒に教室に入っていった。
廊下でぼーっとしていてもしょうがないので、俺らも教室に入る。
「帰ったぞー」
「おかえりなさーい!」
教室に入ると、そんな声と同時に何かが飛びついてきた。ケイだ。ケイが飛びついてきたのだ。
ちょっと、勘弁してほしい。ここは学校なんだぞ、見ている奴もいっぱいいるんだぞ。
目でまわりを見ると、教室にいる男の半分ぐらいと、一部の女が、じとーっとした目でこっちを見ている。だからいわんこっちゃない。
「ちょ、こら、離せ、周り、周り見ろ」
こういうときは下手に言い訳すると墓穴を掘るので、とりあえずケイに離してくれるよう頼む。
「あっ」
気が付いたケイがぱっと離れる。
「おかえりなさいですぅ、将仁さぁん」
そこに、いつもと違うジャージ姿のクリンが、何か長くてカラフルな長い布みたいなものを両手に持って近づいてきた。
「早速ですけどぉ、着てもらえないですかぁ?」
「お兄ちゃんのコスチュームだよ♪」
ということは、手に持っているのは曹操のコスチュームか。
「へー、よく出来てるなー」
受け取って広げてみると、鎧の無い服の部分だけだが、結構よくできている、と思う。鎧は、マントがついた肩当てができていて、結構かっこいい。
「あとねー、これっ!」
その声と共に、ケイが何かをかぶせてきた。
どうやら兜らしい。市販のヘルメットのまわりをボール紙とかで飾り、兜に見せているのだろう。
ケイが、どう?とでも言いたげに顔を覗き込んでくる。そして何か言っているみたいだが、耳が塞がっているのでよく聞こえない。
「今、なんて言った?」
聞き返すためにハリボテの兜を外して聞きかえすと、ケイはちょっと不機嫌になった。
「ぶーっ、なんで外しちゃうの?」
「なんでって、耳が塞がって声がよく聞こえないんだよ、これ」
「あらあら、それじゃあ横に穴とか開けないといけませんねぇ」
するとクリンが口を挟んでくる。うん、これはぜひともそうしてほしい。
「ただ、穴をそのままあけたらかっこ悪いから、網みたいなものを当てたらいいと思う」
「ふぅーん、あ、ねねね、じゃあじゃあ、どこに開けるか見るから、もっかい被って?」
というわけで、兜をもう一度被せられてしまった。
なんつーか、俺、おもちゃにされてるな。
そして、兜の耳の位置をチェックすると。今度は服のほうを着てみてくれという。
「ちょ、ちょっとまて、ここじゃまずい」
「えー?なんでぇ?」
「なんでってお前、コレを着るということは、その前に今着ている服を脱ぐってこったろーが!ここで服を脱げとか言うのかお前は!?」
「でも将仁さん、すてきな体しているじゃないですかぁ」
「ぶっ!?」
クリンの一言で、俺は思わず噴き出してしまった。
「おっ、お前、なんつーことを言い出すんだ!?」
「だってぇ、背中の筋肉とかぁ、胸の筋肉とかぁ。思わず触りたくなりますぅ」
「えぇー?お兄ちゃんの背中って、そんなかっこいいのぉ?ケイも見たーい!」
「ってこら、ケイまでか!?」
「だーってケイ見たことないもーん!」
あのなお前ら、ここはうちじゃないんだぞ!?
俺は背中に無数の視線を感じ、頭を抱えたくなった。