12.忘れていた学校行事 その9
俺は今、シンイチとヤジローといういつものメンバーと共に、学校から歩いて10分ほどのところにあるホームセンターの一角にいる。
「必要なのは、えーと、これか?」
「いや、こっちだろ」
「こいつは、このぐらいか」
俺たちがあーでもないこーでもないと言いながら選んでいるのは、全長2メートルほどの角材と、それよりちょっと短めの丸棒だ。どっちも、内装のギミックに使う。
まとめてみると結構重いので、ヤジローと俺とでかついで行くことにした。シンイチには、袋詰めした木っ端を持っていってもらう。
「んじゃ、せーのっと」
会計を済ませ、いざ帰ろうとした、その時だ。
「む、上官ではないか」
「唉呀、将仁サン。そなの担いでどしたアル?」
本来ならいないはずの、なんか非常に聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、見覚えのある深緑の和服と赤いチャイナ服がそこに立っていた。
「や、シデンちゃんと紅娘ちゃん。久しぶり」
シンイチが目ざとく2人をみつけて声をかける。
そこにいたのは、本来いないはずのシデンと紅娘だった。
「お前ら、何してんだこんな所で」
そう言いながら2人の手元を見ると、なにやらこまごまとした物が入った籠が下げられている。
「販売店に来て何をしにも何もあるまい、物資の調達だ」
「調達ぅ?」
中をのぞくと、籠の中に入っていたのは書道セットと、洗剤、タオル雑巾なんてものが入っていた。
「お前ら、書道なんかやるのか?」
「ワタシじゃなくてシデンサンアル」
「本当か、シデン?」
「なんだその目は、我が書道をしてはならぬのか」
いや、べつにダメとは言わねえけど、こいつに文化系な趣味があるとはな。
「おいマサ、ちょっと耳かせ」
不意に、シンイチが手招きしてくる。
「ついでだからよ、この2人にも来てもらおうぜ」
「なんだって?」
「いいじゃん、すでに2人来てんだしさ」
シンイチは、俺の返事も聞かずに勝手に納得すると、2人に声をかける。
「ところでお二人さん、これから何か予定はあるか?」
「む?」
「よかったら、俺らと学校に来ない?今日は午後授業ないし、それに君んちの子が2人、来てるからさ」
すると、2人はくるりと俺のほうを向いた。
「上官。それは本当なのか?」
「2人て、ケイちゃんサンとあと誰アル?」
「誰って、クリンが」
「なんと!?」
「唉呀、朝から見ないアルなー思たら、ガッコ行ってたアルか」
返事をすると、シデンは色めき立ち紅娘はちょっと呆れ顔になる。
「よし、では参ろうぞ!」
「参ろうってどこに」
「将仁サンのガッコアル、とーぜんアル」
よく判らないが、2人とも速攻で行く気になっている。正直、あまり来てほしくはないんだが。
「とーぜんってお前ら、買い物はいいのか?」
少なくとも洗剤とタオル雑巾はお前らが使うものじゃないと思うんだが。
「我が良いと言ったらよいのだ!それとも上官、ケイやクリンは良くて我は来てはならぬと申すのか!」
「いやダメとは言わねぇが、その荷物はどーすんだよ!」
「まぁいいじゃねえの。紅娘ちゃんなんか本場中国の人なんだから、連れてったら喜ばれるぞ?」
「いや、だから」
つれていくと間違いなく騒ぎになって作業にならなくなると思うからこう言ってるんだが。
「あいわかった」
すると、こういうときに一番文句を言いそうなシデンがそんなふうに口を開いた。
「ならば紅娘。貴様は上官と共に行け。荷物は我が届ける」
「へ?いいアルか?」
「なに、荷物を届けたら、すぐに取って返す。それなら文句はあるまい」
「・・・・・・結局、来るのか」
こいつら、うちにいるのは暇なんだろうか。
「なんだ上官、その嫌そうな顔は」
「別になんでも」
こいつは、自分の言うことを聞かないと怒るくせに、人の言うことは聞かないからなぁ。なるべく騒ぎを起こさないでくれよ、俺はそう願うしかなかった。
そして、さっさと会計を済ませ、俺達は店の外に出た。
「では行ってくる。くれぐれも粗相のないようにな」
店の外で、シデンが俺たちに向かって敬礼をする。その背中には、こいつが外出する際に必需品となりつつある赤いナップザックが背負われている。その中に、洗剤やら雑巾やらといったさっき買ったものがつめこまれているのだ。
「注意して帰れよな、時間は十分あるんだ」
「心遣い、感謝するぞ上官!」
一応声をかけてやると、シデンはにっと笑ってからくるりと背を向けると、両腕をばっと広げた。真っ赤な日の丸が姿を現す。
って、ちょっと待て。まさか?
そのまさかだった。シデンは、何のためらいも無く、駐車場の中を走り出したのだ。
止める間もなく、ほんの数歩の助走を終えたシデンの体がふわりと浮き上がり、そのままぐんぐん上空へと舞い上がる。あっというまに、その姿は空のかなたに消えてしまった。
「・・・・・・おい、マサ。今、シデンちゃんが」
当然のことながら、それを見たシンイチがビックリした顔をしている。
「あれは、本当に人間か?」
シデンに対する苦手意識がぬぐえないらしく黙っていたヤジローも、空を飛ぶシデンの姿には驚いたようだ。
「俺もあまり自信ねぇけど、俺の本来の家系って、時々ああいうのが出てくるんだと」
「んじゃマサにも何かあーゆーことが出来るのか?」
「さぁ、どうかねぇ。少なくとも空は飛べねーけどな」
まさかあれを作ったのが俺だとぶち上げてしまうわけにはいかないので、まだはっきりとは判らない話ということにして誤魔化しておく。
まあ、人手不足解消になるからいいだろうと自分を納得させる。
そしてふと、今ここに別の擬人化がいることを思い出した。
そいつは、にこにこしながら俺の横に立っている。まあコイツの場合、鍋以外は比較的人間離れ度が低いからまだ安全だと思うが。
「紅娘、ちょっと」
念のためその娘を呼ぶと、耳打ちする。
「なるべく、人間ができることだけ、してくれ」
すると、今度は紅娘が俺に耳打ちしてきた。
「心配しなくても、ワタシ将仁サンに迷惑なるようなコトしないアル」
その発言に、俺は少しほっとした。




