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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
11.そしてみんな動かなくなった
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11.そしてみんな動かなくなった その23

部屋に入ると、常盤さんは自分の椅子に座り、俺たちにはデスクの向かいにある椅子に腰掛けるようすすめた。

俺たち、と言ったのにはちゃんとわけがある。今、俺の隣にはごつい男が座っている。

りゅう兄だ。兄貴はあの後も帰らずに、メシまでたかっていった。それどころか下手するとそのまま泊まっていくような勢いだった。

明日は月曜日だ。そんなのんびりしてていいのかと突っ込んでみたところ、必修な講義が教授の都合で無くなったから問題ないらしい。

そして、そのメシの席で俺が西園寺を継ぐことを話したんだが、兄貴はなぜか驚いた様子を見せなかった。いくら兄貴が金に無頓着でも五千億円ともなれば普通は多少心が動くと思うんだが、そういう意味でもうちの兄貴はやっぱりどっか変わってる。

その夕食の後、俺は常盤さんに部屋に呼ばれた。これからのことについて、話しておきたいことがあるんだそうだ。

そしてそこに、兄貴がついてきた、というわけだ。常盤さんからの話ってことは、西園寺家についてだと思うんだが、なぜか常盤さんが呼んだのだ。

「話というのは、他でもありません。西園寺の家についてです」

部屋に入った俺たちが椅子に腰掛けるなり、常盤さんはそう切り出してきた。

資産相続の手続きの話とか、しきたりみたいな話かな?と思って聞いていると、その後の発言はそれと全く違っていた。

「改めて、覚悟を問います。将仁さんは、“西園寺”の全てを背負う覚悟が、本当にありますか?」

俺の腹積もりについてだった。一言一言区切るように、常盤さんがそう聞いてくる。

「西園寺の名を継ぎ、当主となるということは、その資産に関して多大な責任を負うことです。“敵”からの攻撃に晒されることになります。当然、身の危険を感じることも、多くなるでしょう。

それに、仮にその“敵”を退けたとしても、新たなる障害が将仁さんに降りかかるでしょう。

あなたが西園寺の名を背負う限り、それは一生続くのです。

それを全て受け止める覚悟が、本当に出来ているのですか?」

常盤さんは、冗談の要素を一切感じさせない、真剣な面持ちでそう聞いてきた。

脅しているようにも思えるが、弁護士なんて仕事をやっている100歳超えの妖怪がこんな真剣な顔して言うんだから多分本当なんだろう。

そして、それに対する俺の返事は、こうだった。

「当たり前です」

俺を生かすために断腸の思いで俺との関わりを絶った、西園寺家の人々。そして、それを俺に届けるために戦い抜いてきた、付喪神の常盤さん。

それを全部無意味にできるほど、俺は非情じゃない。

「よく言った!それでこそ俺の弟だ!」

すると、いきなりりゅう兄が俺の背中をばしーんとひっぱたきやがった。

「正直、やきもきしてたんだぜ?お前が、五千億の資産をつまんねぇ意地でパアにしちまうんじゃねえかってよ」

そして、すかさずヘッドロックを仕掛けてくる。

「んぎゃっいででででででででこらバカ兄やめねぇかぁぁぁぁぁ!」

「がははははははは!」

ってこらこのバカ兄貴、この前より痛ぇじゃねぇかオイ!

離させようと腕をぶん殴ったりしたが、全然開放されない。それどころかびくともしない。畜生、俺はまだりゅう兄に全く敵わないのか。

一方で常盤さんは、まるで子供がじゃれるのを見守る近所のおばさんのように、俺達を温かい目で見守っている。あんたは西園寺家専属の弁護士なのに俺を助ける気が無いのか。

そしてまた、俺は兄貴の気が済むまでヘッドロックをかけられることになった。なんか、今回は頭蓋骨だけでなく頚椎まで歪んだような気がする。

「言っとくがな、俺は金につられて西園寺を継ぐんじゃねぇぞ。そこんとこ勘違いすんなよな、バカ兄貴」

やっと開放されたところで、俺はそう言っておいた。

「おっけーおっけー判ってるって」

りゅう兄は両手を大げさに広げて見せる。ここで一発ぐらい殴っておいても誰も文句は言わないだろうがここは自重しておく。

「宜しいですか?」

そして俺が落ち着いたところで、常盤さんはめがねを直して俺にそう聞いてくる。

頷くと、常盤さんはもう一度めがねを直した。

「将仁さんには、これからしてもらわなければならない事が、いくつかあります。今すぐとは言いませんが、そのことは忘れないで下さい」

「はい」

妙に神妙な気持ちになり、そう真顔で答える。

すると、常盤さんはなぜかりゅう兄のほうを向いた。

「龍之介さん。貴方にも、覚悟してもらわなければなりません。ご存知のとおり、西園寺には「敵」がいます。そしてこれから先、その矛先があなたに向く可能性もあるのです」

そして、真面目な口調でそんなことを言う。それって軽く脅迫になるんじゃなかろうかと思ったんだが。

「言われるまでもねぇですよ。この真田龍之介、多少のことじゃくたばりませんって」

バカ兄には全く通じていなかったみたいだ。もっとも、りゅう兄は殺しても死なないような奴だからあまり心配はしてないけど。

すると、常盤さんは満足げに微笑んだ。かと思うと、部屋のドアをのほうに眼を向け、そしてふっと姿を消した。

どうやらまた時間を止めて移動したらしい。気がついたときには、常盤さんはすでにドアの前に立ち、ノブに手を掛けていた。

そしてなんにためらいも無くそのドアを開ける。

「わあぁぁぁ!?」

すると。なぜかモノたちがみんなして部屋にどたどたどたっとなだれ込んできた。どうやら、部屋の外で聞き耳を立てていたらしい。

「全く、こんなことをしなくても、皆さんにもすぐお話しする予定だったのですけれど」

床にひっくり返るうちのモノたち、いつもは無関心を決め込むレイカまでそこに混じってひっくり返っているのを見て、さすがの常盤さんも苦笑をしていた。

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