11.そしてみんな動かなくなった その20
通話をオフにすると、鏡を覗いていた鏡介が、声をかけてきた。
「確かにいるっすね。4人ぐらいスか」
りゅう兄がさっき言っていた、うちの前にいる変な連中についてだ。
「4人か、どんな感じだ?」
「うーん、小さくてよく判らないスけど、あまりちゃんとしてない風ッスね」
「年齢は10代後半から20代前半。だらしのない風体。社会的地位はあまり高そうではない」
その時、泣き腫らして目を真っ赤にした常盤さんが口を開いた。その人の2割も生きていない俺が言うのもおこがましいが、目いっぱい泣いたからだろうか、それとも隠し事がなくなったからか、何かいろいろ吹っ切れたような感じがする。
それにしても、常盤さん、よく判るな。鏡介と同じものが見えるのかな?なんてことを思っていると、その常盤さんがさらに妙なことを言い出した。
「彼らは、このようなものを所持していました」
そう言って、常盤さんは何かがちゃがちゃしたものを床に落とした。
それを見て、思わず目が点になった。それは、特殊警棒やら金属バットやらメリケンサックやらといった、いわゆる「武器」だったのだ。これには、驚くなと言うほうが難しい。
「まだ隠し持っている可能性はありますが、聞くわけにもいかないので」
「は、はぁ、そうですか。うーん、やっぱろくな・・・・・・へ?」
あまりに淡々と話すので、俺はその裏にある不自然な点に気付くのに時間がかかってしまった。
「・・・・・・ちょっと待て、常盤さんいつのまに!?」
そう。常盤さんは、りゅう兄からの電話がかかってくる前から、ずっとここにいたはずだ。それなのに、いつのまにか家の外にいる連中を見てきただけでなく、そいつらが持っていた武器を取り上げて、しかもここまで持ってきているのだ。
その謎に対する凄まじすぎる答えは、常盤さんの口から聞かされた。
「ええ、ちょっと時間を止めまして、その間に取り上げてきました」
時間を止める。SF系のマンガでよく使われる話のネタだ。よくあるのは、自分以外の時間を止めて何かをやるってやつで、されるほうは完全に無防備、というか何をされても認知すらできないという非常に厄介なシロモノだ。
思い返してみると、今まで起きたいくつかの不可解な現象が、常盤さんの「時間を止める」という能力で確かに説明できる。とはいえ、いくら常盤さんが時間に関係ある時計の化身でも、素直には信じられない話だ。
「マジですか」
「私は、将仁さんには嘘を言いません。正確に時を伝えるのは、時計の使命ですから」
そして、今まで見せたことが無い、屈託の無い笑顔を向けた。なんか言っていることが本筋から外れているような気もするが、とりあえず今は気にしないほうがよさそうだ。
なにしろ、その直後に事態が動いたからだ。
「あ、動いた」
鏡介がそんなことを言ったすぐ後に、ぴんぽーんとうちの呼び鈴が鳴ったのだ。
「りゅう兄かな」
「いや、うちの前にいた連中っす」
鏡を覗きながら鏡介が答える。どうやら、うちの前にたむろってた連中が入って来たらしい。しかしちゃんと呼び鈴を鳴らすとは意外に礼儀正しい連中だな。
だが、出ようとしたところでテルミに止められた。
「将仁さんは、晴れて西園寺の当主となられた身でしょう。ここは私が参りましょう」
当主と言っても、そういうのには色々な手続きとかが要るだろうから本当はまだ違うんだが。
「いいから座ってなって。今日は色々あって疲れてんだろ。ここはあたしらに任せなって」
背筋を伸ばして部屋を出て行くテルミと、その後ろをばきばきと指を鳴らしながらついていくヒビキを見て、ちょっと不安になったが、その時になって体が痛くなってきたので、つい任せようと思ってしまった。
それから間もなく。
「う、うわあああああああああああ!」
何人かの男の、情けない悲鳴が聞こえてきた。




