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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
11.そしてみんな動かなくなった
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11.そしてみんな動かなくなった その16

「のう将仁」

そのとき、不意に魅尾が話しかけてきた。

「なんだ、年の話なら片付けてからにしようぜ」

「いや、わらわの年は良いのだが、その枝な」

「へ?」

何だ、と思った時には、いい切れ味を見せたハサミが、青緑色の枝をチョッキンと切断していた。

その瞬間。

めきめきめきめきっ!という音とともに、さっきまで互いに絡み合い、固まっていた薔薇の蔓が、何かのスイッチが入ったかのように動きだしたのだ。

その様は、なんというか、枝を切られて怒った薔薇が立ちあがったようにも見える。

「な、なんだこれ!?」

「いや、今までと少し毛色が違うようだから、注意したほうがよいぞ~と言おうと思ったのじゃが」

驚く俺の横で、魅尾はしれっとそんなことを言う。

「あのなぁ、言うのが遅ぇっての!」

目の前でざわざわと広がっていく薔薇の蔓を前に、俺は思わず立ちすくんでいた。

テレビゲームとかファンタジーものの映画とかでは、こんなふうに動く蔓植物が出て来ることがある。だが実物を目の前にすると、うねうねとした動きも相まって非常に気持ち悪い。

そして。

びゅんっという音とともに、うねうねと動いていたその薔薇が、攻撃をしかけてきたのだ。

マジか、と思いつつとっさに右にステップを踏む。すると、その薔薇の蔓が、さっき俺がいたところの地面を叩いてえぐっていった。

さらに大変なことに、他の蔓までが、まるで獲物におそいかかる蛇のように俺に攻撃を仕掛けてきたのだ。

「くそっ」

こんなの、一介の高校生にどうにかできるもんじゃねぇぞ。そう思った瞬間、俺はそこから背を向けて全速力で逃げ出していた。

距離を稼ぐことにしたのだ。あっちは植物、地面に根を張っているわけで、さすがに歩き回ることはないだろう。

案の定、蔓の長さには限界があるようで、5メートルほど離れると攻撃してこなくなった。とはいえ、えぐいトゲのある蔓は延びたままで、まるで威嚇するかのようにゆらゆらと動いている。

「はぁっ、はぁっ、あ、悪夢だ、こん畜生」

「ふむ、やはりな」

俺が、今やバケモノと化した薔薇をみながら悪態をついていると、さっさと安全地帯に非難していた魅尾の奴がそんなことを口にした。

「あの真ん中あたりを見るがよい。他の蔓は動いておるが。祭文を作る蔓はその形を崩しておらん。やはり祭文は崩すことが出来ぬようじゃな」

言われてみると、まわりで蠢いている蔓は全てがぶどう色か灰色で、青緑の蔓は確かにほとんど動いていない。

とはいえ、あんなのどうしろというんだ。やられっぱなしなのは気に食わないが、なにしろ相手は植物だ。しかもトゲのある薔薇と来ている。殴ったところで効くかどうか分らないし、それどころか殴ったこっちがケガする。

「くそ、刀かチェーンソーがほしいぞこん畜生」

すると、魅尾はほれと言って何かを手渡してきた。

それは、大工作業に使われる両刃ノコギリだった。

「ノコギリの32枚目の刃は鬼刃と言ってな、鬼を挽き殺す力があるのじゃ。少なくともその剪定ハサミでは相手にならんじゃろう」

「ってお前、ちょっと待て。俺に、これであれと戦えってのか!?」

「では御主は、こんないたいけないぷりちーな幼女をあの魔物の矢面に立たせると申すか」

「・・・・・・このチビ、こういう時ばかり子供ぶりやがって。本当に俺の30倍、生きている大妖怪なら、その妖力であの薔薇も・・・・・・」

なんとかしてほしいもんだが、と言おうとして、俺も都合がいいときに頼ろうとしていたことに気がついた。苦しい時の神頼みとはよく言ったものだが、こんなんじゃダメだ。

「いや、なんでもない」

そして俺は、腹を括ると、渡されたノコギリを握り締めた。

「おい、チビ魅尾。本当にコレで倒せるんだろうな」

「チビは余計じゃ。わらわにできることはやった。あとは御主次第じゃ」

「心強いお言葉ありがとうよっ!」

なんともあてにならない言葉を受けると、俺はファンタジー映画に出てくる騎士よろしくノコギリを両手で構える。

そして、ひとつ深呼吸してから。

「ぅおらああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

雄たけびと共に突っ込んだ。

間合いに入った瞬間に振り下ろされる薔薇の蔓に向かってノコギリの歯を叩きつける。ノコギリの使い方としては思いっきり間違っているし32番目の刃なんか狙って当てられるもんじゃないが、こうするしかないのだ。

そして、意外にもそれは正しかった。ノコギリの刃が当たった、と思った直後、その蔓はまるで居合いの達人が刀でやったようにすっぱり切り落とされたからだ。

だがそれに感心する暇はなかった。なにしろ蔓はまだ何本もある。そんなのが一斉に襲ってくるのだ。ボケっとしている余裕はない。

俺は剣か刀のようにノコギリを振り回し、真田流兵法術とボクシングで鍛えた動体視力で襲い掛かる薔薇の蔓を見切り、反撃しつつ、祭文のところへと進む。

と言ったら簡単に終ったように思うかもしれないが、当然ながらそんなわけがない。バリヤーを張れる鏡介とか氷漬けにできるレイカとか電撃をぶっ放すバレンシアとかなら楽勝なのかも知れないが、俺にはそんな便利なものはない。

幸いにも向こうに知恵というものはなかったようで、よくマンガとかである「意図的に手足にからみつかせ、締め上げる」ようなのは無かったが、それでも鞭のように振り下ろされる蔓は手や足にからみつき俺の動きを妨害する。しかも、叩かれるだけでも痛いというのに、トゲという無くてもいいオプションがついた蔓による直接攻撃というオマケつきだ。

こんなのを経験している高校生なんて、日本中どこを探しても俺だけだろう。

「畜生、人間をなめんじゃねえぞこの植物風情が!」

ノコギリはもの凄い切れ味を見せ、刃に触れた蔓を次々と切り裂いてくれるが、それでも全部を迎撃はできない。そもそも、武器を使った戦い方なんて俺が知ってるわけがない。

俺は、とげだらけの蔓に体のあちこちを叩かれ、引っかかれた。体中の至る所がびりびりと傷む。

そして、どのぐらいの時間が掛かったのか分からないが、俺はようやく祭文らしき青緑色の蔓が絡みあって模様を作っている手前までやってきた。

「くらえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

俺は最後の力を振り絞り、その絡み合った青緑の蔓目掛けてノコギリの刃をたたきつけた。

ガリッ、というちょっと嫌な手ごたえと共に、ノコギリの刃はその蔓の塊に食い込んだ。

最後の抵抗とでもいうか、中ほどまで行った所で刃が止められる。だが、俺は両足を踏ん張り、力任せに振りぬいた。

さらに、今度は上から下へと切りつける。青緑色の蔓が描いた模様が十文字に切り裂かれる。

だが、その直後。ぱきーんっという甲高い音がした。

見ると、ノコギリの刃が真ん中から真っ二つに折れていた。酷使に耐えられなくなったのか、それとも変なほうに力を入れてしまったのか。折れたほうの刃はまだ蔦に食い込んでいる。

やばいぞ、武器が無くなってしまった。血の気がさーっと引いていくのが、自分でも感じられた。

しかし、そのノコギリは、自分の身と引き換えに、最後の仕事を成し遂げてくれた。

十字に切り裂かれた蔓の切り口から、さらに青みがかった汁が流れ出したかと思うと、そこから急激に薔薇がしおれ始めたのだ。

しゅわしゅわという変な音を立てながら、あれだけ茂っていた薔薇は見るも無残にしおれていき、やがて、さっきまで暴れていたと思えないぐらいに干からびたしおしおの姿になっていく。

そして、目の前には青臭いゴミの塊が残った。

「・・・・・・あれ・・・・・・」

それを見届けた直後。不意に眩暈が襲ってきた。

そして抵抗する間もなく、前進から力が抜けた俺は、そのままそこにひっくり返ってしまった。

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