11.そしてみんな動かなくなった その15
今、消した祭文は3つ。残りはあと2つ。
口で言うのは簡単だが、どれもこれも力技でやっているせいか、ひとつ消すごとに家はどっかボロボロになるし俺自身も心身ともに確実に磨り減る。
この先もまだこんなことを続けにゃならんのかと思うと、気が重くなってくる。
「俺、死にゃしないだろうな」
「なに不吉なことを言うておる、御主はこの家の主なのであろ」
俺を励まそうとしているのか、魅尾がそんなことを言ってくる。
だが、力技を提案したのがこいつだと思うと、ほんとうはもっと楽な方法があるのにわざとしんどい方法を取っているんじゃないかと、疑いたくなってくる。
それに、ここは住宅地なわけで、しかも日曜日なわけで、お隣さんがいるわけだ。そんなところでさっきからどっかんどっかんと爆発が起きているわけで、なんで騒ぎにならないのか不思議ですらある。
肉体的な疲労のせいでネガティブになってきた頭の中を切り替えるため、次にすることを考える。
残っているのは「木」と「水」、それぞれ家の東と北にあるらしい。そして、「木は金属の刃物で切り倒される」「水は土にせき止められ、吸い込まれる」ということらしいので、それぞれを消すには金属製の刃物と土が必要になるらしい。
ということで、俺は物置へ向かった。
うちの物置は、敷地の北東の隅にある。そのため、家の北と東を同時に見渡すことができる。はたして、それは簡単に見つかった。
まず東には隣の家とうちを区分けるフェンスがあり、そこに蔓性の薔薇(種類は知らん)が絡まっているのだが、その薔薇が異常繁殖しているので、多分あのあたりだろう。
そして北だが、こちらには暖房用の灯油が入ったドラム缶が2つほど置いてあり、片方の蓋に水がたまっていた。他に水気は見当たらないので、たぶんあのあたりだと思う。
ちょっと考えた末、爆発とかしなさそうだから安全だろうと思い、「東の木気」を先に片づけることにした。
それで、改めて薔薇の棚までやってきたのだが。
「・・・・・・改めて見ると、すごいな」
フェンスは、にわかに異常繁殖した薔薇の蔓と葉っぱに包まれ、完全に見えなくなっていた。それどころかその薔薇のつるは、互いに絡み合い、ひとつの塊のようになっている。
左右にもまだまだ場所があるんだからもっと伸び伸びと生えりゃいいんだが、そいつはぎゅうぎゅうに密集して生えている。あきらかに不自然だ。
「む、あのあたりじゃ」
魅尾が指をさしたのは、案の定その薔薇の蔓がひときわ密集して絡んでいるあたりだった。よく見るとそこは、蔓の色が部分的に本来のぶどう色から青緑色に変色しており、それが絡んで模様みたくなっている。そしてそれは、今までの例があるためかなんとなく漢字のような文字のように見える。
「なんつーか、だんだんと芸術作品っぽくなってきているな」
そんな言葉が口をついて出てくる。
「わらわにはよくわからん喃」
「お子様にはわかんないの」
「むぅっ、わらわよりずっと短命のくせに子供扱いしおって」
「まるっきり子供だからな。まあ前衛芸術なんかは俺も良くわかんねぇけど」
そんなやり取りをしながら、物置から持ってきた剪定ハサミを手にすると、俺は色が違う薔薇の蔓へと伸ばした。




