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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
11.そしてみんな動かなくなった
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11.そしてみんな動かなくなった その14

洗い場にバケツを置くと、蛇口に手を掛ける。バケツに水を張るためだ。

「・・・・・・待てよ」

だが、あることを思いつき、俺はバケツに水を入れるのを中止した。そして。

「なんじゃ、これは?」

その代わりにあるものを持っていったら、魅尾に怪訝な顔をされた。

「これはホースというものだ。見てのとおり中が空洞になっていて、あそこの蛇口から水が通って、ここから出てくる」

そう。持ってきたのは、庭の水撒き用ホースだった。バケツ1杯だと、使い切ったときにまた汲みに行かなきゃならないのが面倒だからだ。

「それで、南の火気ってのは、あれか?」

「見て判るであろ」

そして、俺は魅尾が促すほうを見る。

それは、今までの2つと違い、近くに来ればすぐ判るようなものだった。なにしろ、漢字のような模様の形にひび割れた地面から、オレンジ色の火が燃え上がっているのだ。それが幻でない証拠に、そのまわりは焚き火どころかキャンプファイヤーのそばにいるように熱い。

「随分とまた凝ったものを作るもんだ」

なんというか、ちょっと幻想的な光景だ。消すのが勿体無いような気もするが、消さなかったらあいつらは戻れない。どっちが大事かといえば、俺はもちろん後者を取る。

「おい、御主。水が出て来ぬぞ。これでは使い物にならんではないか」

そんなことを考えていると、魅尾がホースの端っこを俺に突きつけてきた。そりゃそうだ。元になる蛇口が閉まったままなんだから。

その火にホースの先を向けておくよう魅尾に言うと、俺は蛇口を開けに行く。

「あけるぞー」

一言断ってから蛇口を開く。

「うわわわわわ!」

すると、なぜかそのホースがまるで蛇のようにのた打ち回りながら庭に水を撒き散らす光景が目にとびこんできた。

あわてて水を止めるとその蛇は動かなくなる。そしてそこに、いるはずの魅尾の姿はない。

「ってお前、なんでここにいるんだ」

そしてその魅尾は、なぜか俺の横にいて俺のズボンを掴んでいた。

「お、御主が心配だから来たのじゃ」

「あのな、ここにいたら水が掛けられないだろうが」

「なら御主が近くへ行くがよかろう!べべ別にわらわは火が怖いわけではないぞっ」

別に俺はそんなことは言ってないんだが。狐火ってやつもあるから、妖怪の狐は火の扱いに長けていると思ったんだが、そうでもないのだろうか。もしかしたらこいつは、実は妖怪になりたてで、火を怖がる動物の本能がまだ残っているのかもな。

「世話が焼けるガキンチョだな。じゃあ、俺が行ってくるから、お前は、俺が合図したらここで蛇口をひねって水を出すんだ。いいな」

「どうやるのじゃ」

・・・・・・おいおい、そこから話をしなきゃダメのか。本当に俺の30倍生きてるのか、こいつは?

「ほら、ここをこう握って、こう動かせば、水が出る。さらに同じ方向に回せば、水の勢いが強くなる。逆に回せば、水の勢いが弱くなって、さらに回すと止まる。止まったらそれ以上は回らない。判ったか?」

しょうがないので、ホースの先端を洗い場まで持ってきて使い方を説明する。

「う、うむ」

さすがに水を撒き散らした後だからか、魅尾は感心より注意を先に立てて俺の説明を聞いている。そして、ひと通りの説明が終ると、魅尾は自分の小さい手を蛇口に乗せた。

「こうじゃな?」

そして蛇口をひねると、当たり前だが水が出てくる。

「おぉ、出たぞ出たぞ。見ろ、出たぞ」

「そうそう。んじゃ次は止めてみような」

「ん、こうか」

そして魅尾が逆に蛇口をひねると、これまた当たり前だが水は止まる。

「おっ、見ろ、止まったぞ」

そうやって楽しそうに蛇口を開け閉めする姿は、見かけどおりまるっきり子供だ。

魅尾が蛇口の使い方を理解したであろうタイミングで、俺は声をかけた。

「んじゃ、行ってくるから、ちゃんとやるんだぞ」

「判っておる。この程度、わらわには造作も無いことじゃ」

そんなのは誰にだって造作も無いことなんだが、突っ込むのも面倒になったので、軽く聞き流す。そして俺はホースを片手に、火災現場へ向かう消防士になったような気持ちで、燃え盛る火の祭文へ向かった。

適当なところで、手を上げて魅尾に合図を送る。まさかまたついてきていないだろうな、と心配したが、今度はちゃんと水道の蛇口のところにいてくれた。

「おらぁ~っ、これでも喰らいやがれ~っ!」

そしてホースから勢いよく噴き出す水を、地面から噴き出す火にぶっかけた。

すると案の定、焼けた鉄板や炭火に水をぶっ掛けた時のように、じゅーっという音とともにものすごい勢いで湯気が上がり、あっという間に目の前が真っ白になった。

しかも、この蒸気がまた、目が開けていられないぐらいに熱い。目を閉じたら水が掛かっているかどうか判らなくなる、と思って懸命に薄目をあけるが、白の濃淡な光景しか見えないので結局あまり変わらない。

じゅうじゅうという音はするが、水があの火に掛かっているのかどうか良く判らなくなってきた、その時だ。

ボカーン!

なんの前触れもなく、俺の前のほうで何かが爆発しやがった。おかげで俺は数メートル吹っ飛ばされて芝生の上にぶっ倒れ、手にしたホースから出て来る水を思いっきり浴びてしまった。

なんなんだ、一体!?

「無事か?」

何があったのか良くわからず呆然としていたところに、魅尾がやってくる。来るのはいいんだが、なぜか俺の顔をつんつんする。

そこではっと我に帰り、飛び起きる。そして、現場を見て、俺はやっと一安心した。

さっき火が燃え盛っていた場所は、きれいに吹き飛んで、地面がえぐれ、できた窪みに水がたまっている。どうやら、あの火を消すのは成功したらしい。

とりあえずほっとした、その時になって、なんかケツのあたりが気持ち悪いことに気付いた。

見ると、あたりは水浸しになっていた。そりゃそうだ。俺の持っているホースから、まだ水が出っ放しだったのだ。そして、俺のまわりも水浸しになっていて、その中に寝転がっていたのだから、すでにパンツまでびしょびしょだ。

「あークソ、なんでこんな年になってこんな時期に水遊びせにゃならんのだ」

あたる相手もいないので、俺は一人でぶつくさ言いながらシャツを脱いで絞ったのだった。

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