11.そしてみんな動かなくなった その13
「一体、どうなっておるのだこれは!」
「どうと言われましてもぉ、うぅ、どうしたらいいのでしょうぅ」
「大丈夫だよぉ、お兄ちゃんが頑張っているんだもん、もうすぐ戻れるよ」
「そうでしょう。私たちは将仁さんと一心同体、私たちが信じなくて誰が信じるのでしょう」
「そうだよ、第一、さっきまで何もできなかったみんなが、ここまで回復したんだからさ」
「でも、誰がこんなコトしたアル?」
「It’s under examination(調査中)デース」
バケツに水を汲みなおすため、外の蛇口へとバケツを持っていった、その時だった。
リビングから、とても聞き覚えのある、そして心待ちにしていた声が聞こえた。
思わず、窓から部屋の中を覗き込んだ。ひょっとして、みんな戻ったのか。
だが、そこには俺がさっき部屋を出たのと変わりない光景があった。すなわち、人の姿は全く無く、道具と機械だけがリビングを占拠する光景。
だが、声は確かにした。ってことは、まさか。
「お、おい」
ちょっと怖くなりつつ、窓から入った俺は、その機械と道具たちに声をかける。
「あ、お兄ちゃん!」
「ぬ、貴様ぁ!我らを放置して何をしておるのだぁ!」
「無事ッスか、さっきすごい音がしてましたけど!?」
すると、声だけが聞こえてきた。
「お前ら、大丈夫なのか?」
「これが大丈夫言っていいのかちょと迷うアルけど」
これはどうやら、例の祭文という奴を1つ消していく毎に、少しずつ本来(といっていいのか悩むが)の力を取りしていく仕組みらしい。それで、今は会話だけは出来るようになったようだ。
ちょっと考えると、ヤバい光景だ。なにしろ、そこにいない人の声が聞こえるのだ。幽霊だ、怪奇現象だと言われてもおかしくない。もっとも、ここ数日で色々と不自然なものを見てきた俺にとっては、確かにちょっと慣れない光景ではあるがそれほど受け入れられない話ではない。
念のため、リビングに集めたやつら全員、身振りは見えたが声が聞こえなかった鏡介はもちろん、意思の疎通すらできなかったクリン、シデン、紅娘まで話ができるようなったらしいので、理屈は後回しにして、何があったのかをかいつまんで話す。
「狐につままれたような話だな」
最初に答えたのはシデンだった。
「今回は、狐は俺達を化かすのではなく、見破る手助けをしているんだがな」
「あらぁ、そうなんですかぁ?そういえば、その肝心の魅尾ちゃんはどこですぅ?」
「っと、そうだ、外にいるんだ」
そうだった。俺は次の作業、南にあるこの家の南にあるはずの「火気」を消すために必要な水を確保するために来たんだ。
「悪いな、細かい説明は後でするから、もうちょっと待っててくれ」
「あっ!こら、貴様!我等を放置する気かーっ!戻ってこーい!」
シデンがわめくのを後ろに聞きながら、俺は蛇口へ向かった。