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もののけがいっぱい  作者: 剣崎武興
11.そしてみんな動かなくなった
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11.そしてみんな動かなくなった その9

廊下に出ると、右手のほうへ逃げていく足音が聞こえた。それを追って廊下を曲がると真正面にある洗面所のドアが半開きになっていた。

さらにソレを追って洗面所に来たが、そこにはもう人影も何もなかった。

だが、ここから外に出ることはできないはずだ。洗面所は風呂場に続いており、洗面所と風呂場にはそれぞれ窓があるが、どちらも窓の外には格子が取り付けられている。仮に窓から出ようとしても、ネコぐらいの大きさか、もしくはクリンみたいに狭い所に平気で入れる奴でもなければ、到底無理だ。

つまり、ここに逃げ込んだということは、ここに隠れているはずだ。

隠れられそうな場所を見回していると、洗濯機に目が行った。

洗濯機は、ちょっと型落ちした斜めドラム式で、洗濯だけでなく乾燥もできる。元々は常盤さんの持ち物だが、常盤さんは知ってのとおりもの凄くアナクロな人だから(今となっては、齢百を超える付喪神だからと思えるが)俺らが引っ越してくるまではほとんど使ったことがないシロモノだ。

その、洗濯機の投入口が開いていて、中で何か動いているのが見えたのだ。

まさか、と思いつつも、俺は洗濯機の前に立ち、中を覗き込む。

そして、何かと目があった。

それは、まだ5歳ぐらいの、真っ白な髪の女の子だった。驚いたのか、俺のことをじっと見ている。

「だ、誰だお前」

驚いたのは俺も同じだ。とっさに、そんな言葉しか出てこない。

「ぎゃう」

だが、むこうは俺以上にテンパっていたらしい。言葉の代わりに、なぜかそんなふうに鳴いた。

「あのな、ぎゃうじゃなくて、誰だって聞いて・・・・・・ん?」

その返事に無条件に突っ込む。だがそこでいくらか落ち着きが取り戻せ、おかげでその洗濯機の中にいる子が普通ではないことに気がつけた。

白い髪の毛を押しのけるように、頭の上から2つ、先が尖った耳が覗いていたのだ。

「・・・・・・どこの親だ、ガキにこんなコスプレさせて人の家に入らせたのは」

「わ、わらわはガキではない!」

すると、その洗濯機の中の子が、妙に時代掛かった口調で言い返してきた。

「なんだ、喋れるじゃないか」

「あ、当たり前じゃ、わらわを誰じゃと心得る」

「だれでもいいから、まずはそこから出てこい。そこは服を綺麗にするための場所だ。服着てるからって、人が入る場所じゃねぇぞ」

だが、その子は恨めしそうにこっちをじーっと見つめたまま、一向に出てくる気配が無い。

「まあいい、とにかく出て来い」

だが今はここで逡巡している場合ではない。俺をじっと見上げるそのちっちゃい子の襟首を掴むと、俺はその子を洗濯機の中から引っ張り出そうとした。

「ふぎゃ、こら何をするのじゃ!」

すると、その子は、洗濯機の中から出たくないのだろうか、投入口に両手両足を引っ掛けて抵抗する。

「おまえな。そこはすっごく危険なんだぞ?そこにいるとな、水攻めにあう上に中が回りだしてしっちゃかめっちゃかになって、挙句の果てに思いっきり振り回されてぺっちゃんこになるんだぞ?いいのか?」

「ふ、ふん、わらわを脅そうというのか」

「脅してどうするんだ。とにかくそこから出ろ」

「なっ、なぜわらわが貴様なんぞのいう事を聞かねばならんのじゃ!」

「いいから出て来いっての、別に取って食やしないから!」

「いやじゃ~!絶対にいやじゃ~!」

俺の希望をよそに、その子は抵抗を続ける。

こりゃダメだ、作戦を変更しよう。

「じゃあそこにいていいから、質問に答えろ。うちは今緊急事態なんだ、あまりのんびりしてはいられない」

俺はその子から手を離すと、洗濯機の前に座りこむ。

「そのぐらい、判っておるわ」

すると、その子はまるで巣穴から外を伺うように首を出した。

「よーし。じゃあ質問だ。俺は真田将仁。この家の主だ。お前は誰だ」

「わ、わらわは、白狐の魅尾じゃ」

「魅尾?」

「忘れたのか?御主が、つけた名じゃろ」

「・・・・・・へ?」

俺が、つけた?何を言ってるんだこのガキは?

「なんでその名を知ってる?俺が名づけた魅尾は、床下にいた狐だぞ」

「御主こそうつけじゃの、わらわは気狐じゃ。化けることなぞ造作も無い」

「・・・・・・マジか」

思わず、頭を抱えてしまう。この家は、マジで妖怪が集まる家だったようだ。

「念のため聞くが。お前は、あの魅尾なんだな?床下にいて、ちょっと前に引っ張り出された、あの魅尾なんだな?」

「御主等がそう呼んでおったのじゃろ。それらしゅう振舞うのには苦労したぞ」

「ってことは、お前は妖怪って奴か?」

「御主等、人間はそう呼んでおるな」

このチビ、自分が妖怪だと断言しやがったよ。

まあここしばらく、妖怪みたいな連中と過ごしてたわけだし、それどころかついさっきまで人間だと思っていた常盤さんまで付喪神って妖怪だったって知っちゃったわけだし、また一人ぐらい出てきたってどうってことはないと、こいつの存在自体を自分に納得させる。

それより気になることがある。

「なんで、お前、今更になって正体をバラした?」

「わ、わらわだって、好きで正体を見せたわけではないわ」

すると、魅尾と名乗るその子は妙なことを口にした。

「御主はそうでもないが、この家の者はわらわに良くしてくれるからの。もう暫くはそれに甘んじるつもりであったのだが」

「あのな、俺だって別にお前を虐めるつもりはねぇぞ」

「何を言うか、さっきわらわに乱暴しようとしおったではないか」

「あれは、お前が逃げたからだって!だいたい、なんで逃げた?」

「おっ、御主が、驚かすからじゃ!待てと言って待つ奴がおるか!」

一瞬、納得してしまいそうになったが、そこで話が違うほうへ行っているような気がした。

「いや、そうじゃなくて。なんでお前、そんなコスプレみたいな姿に」

「こすぷれではない!これがわらわの本来の姿じゃ!だいたいそのこすぷれというのは何じゃ!?」

「コスプレってのは、色々なコスチューム、っつってもわかんねぇか、色々な衣装とか装飾とかを身につけてそれになりきる、って、俺が聞きたいのはそれじゃなくって」

なんか、疲れてきた。

「俺は、なぜお前が、その正体を、俺に見せる羽目になったかってことを聞きたいんだ」

そう。見せたくもない正体を、ここで見せているということは、何か理由があるはずだ。もしかしたら、うちの同居人が元のモノに戻った理由もそこにあるのかもしれない。

すると、案の定(?)魅尾は困ったような顔をした。

「判ればこんなことはしておらぬ。何かが邪魔をしておるのだ」

邪魔、ねえ。ケイがさっき似たようなことを言ってたな。しかし、何のためにそんな邪魔をする必要があるんだ?

「そんなのは知らん。だが、普通の人間に出来る芸当ではあるまい」

「そんなことは判ってる。お前みたいな妖怪か」

「さもなくば、知識ある人間による、まじないによるもの、といったところか喃」

まじないねぇ。今って、本当に21世紀なんだろうか。実は10世紀ぐらいの平安時代なんじゃないだろうか、と思いたくなってしまう。

だが、今は他にあてに出来る物がない。こうなりゃ、藁だろうが泡だろうがすがるしかないのだ。

「どんなまじないだ?」

「判るわけがなかろう。わらわがまじないを掛けたのではないのじゃ」

「そりゃそうだけど、俺はそういう事に関しちゃ全くの素人だ。心当たりでもなんでもいいから、なんかないか?」

「ぬぅ、狐使いの荒い奴め。うーむ、この場にわらわたちの力を削ぐ陣でも張ったかの」

「陣?結界ってやつか?」

「うむ、調べなければ判らぬが、御主に何の影響もない様子から見て、その類であろうな」

やっぱり。だが、そういう真面目な話をするに従い、余計に気になることがでてきた。

「なあ、やっぱお前、そこから出てこない?この光景、すごくマヌケだぞ」

「なんじゃと、御主まさか」

「バカ、ガキ虐める趣味はねぇやい。それに俺はごく普通・・・・・・じゃないかも知れねえが、妖怪と正面切って闘えるような技量なんざ持っちゃいねぇ」

「ぬ、ぬぅ、仕方が無い喃」

話をして、納得したのか。チビは洗濯機の中で向きを変え、尻を俺のほうに向ける。そして、こいつは確かに狐だってことを俺に納得させてくれた。

尻尾があったのだ。真っ白い、ふさふさした尻尾が、神社の巫女さんみたいな緋袴の上で、ひょこひょこと動いていた。

魅尾は、その状態で片足を穴から出すと、床へと伸ばす。そしてその足をじたばたさせる。床に届いていないのだ。その様は見ていて微笑ましいものだ。

「ひゃ!?」

そして、中で手が滑ったのか、いきなりぶち落ちた。

勢いよく尻餅をついた魅尾は、そのまま床を1回ほど転がり、俺の脚にぶつかって停まった。

「うううううぅぅぅぅ」

「何やってんだお前は」

「う、うるしゃい!入り口があんな高いところにあるのが悪いのじゃ!」

しばらく頭を抱えていたそのチビだったが、俺が声をかけると半べそになりながらそう怒鳴った。

「へいへい、そりゃ後愁傷様で」

言いながら、俺はそのチビを両手で持ち上げる。

そして、床に置いた。

すると、チビ魅尾はちょんといった感じでそこに立った。

「な、なんじゃ」

「まずはともかく、お前のことをみんなに話しておく必要があるだろ。今はみんな動けないし」

そして、洗面所のドアを開くと、チビ魅尾に声をかける。

「来い」

「え、偉そうに言うでない。わらわは御主より」

「いいから来い。あまり時間が無い」

「う、わ、判っておる、仕方がない喃」

そして、俺の膝丈ほどしかないそいつは、ちょこちょこと俺についてきたのだった。

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